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給与計算は、従業員の労働に対する正当な報酬を支払うために欠かせない業務です。しかし、社会保険料や税金の計算ルールは複雑で、法改正も頻繁に行われるため、担当者の負担は年々増しています。
本記事では、給与計算の基本的な手順を「総支給額の算出」「控除額の計算」「差引支給額の確定」という3つのステップに分けて詳しく解説します。
給与計算の正確性を高め、業務効率化を実現したい経営者や人事労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
給与計算とは、従業員が受け取る給与の総支給額を算出し、そこから社会保険料や税金などの控除項目を差し引いて、最終的な支給額(手取り額)を確定させる一連の業務です。
企業にとって給与計算は単なる事務作業ではありません。労働基準法に基づく適正な賃金支払いの義務であり、従業員の生活を支える重要な責任でもあります。計算ミスは従業員の信頼を損ねるだけでなく、税務調査や労働基準監督署の指導対象となるリスクも伴います。
給与計算は以下の3つのステップで進めます。
ステップ1:総支給額の計算
基本給に各種手当(役職手当・通勤手当など)や時間外労働の割増賃金を加算し、欠勤控除などを差し引いて総支給額を算出します。
ステップ2:控除額の計算
健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税など、法律で定められた控除項目を計算します。
ステップ3:差引支給額(手取り)の算出
総支給額から控除額の合計を差し引き、従業員が実際に受け取る金額を確定します。
このプロセスを毎月正確に実行することが、給与計算業務の基本となります。
総支給額の計算は、まず基本給の確認から始めます。基本給は雇用契約書や就業規則に定められた固定的な賃金で、従業員ごとに異なります。
次に、各種手当を加算します。代表的な手当には以下のようなものがあります。
役職手当:管理職や特定役職に支払われる固定手当
通勤手当:通勤にかかる実費を補助する手当(非課税限度額あり)
住宅手当:社宅や住居費用を補助する手当
家族手当:扶養家族がいる従業員への手当
資格手当:業務に必要な資格保有者への手当
これらの手当は会社ごとに支給基準が異なるため、就業規則や給与規程に従って正確に計算する必要があります。
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働に対して割増賃金の支払いが義務付けられています。
割増賃金の計算式
1時間あたりの賃金×時間外労働時間×割増率
主な割増率は以下の通りです。
時間外労働(残業):25%以上
深夜労働(22時〜5時):25%以上
休日労働(法定休日):35%以上
時間外+深夜の重複:50%以上
休日+深夜の重複:60%以上
月60時間を超える時間外労働については、割増率が50%以上に引き上げられます(中小企業は2023年4月から適用)。この計算を正確に行うには、勤怠管理システムとの連携が効果的です。
欠勤や遅刻があった場合、その分の賃金を控除する必要があります。控除額の計算方法は会社によって異なりますが、一般的には以下の方式が用いられます。
月給者の欠勤控除(一般的な方式)
月給÷(年間所定労働日数÷12)×欠勤日数
例えば、月給30万円、年間所定労働日数245日の従業員が1日欠勤した場合:
300,000円÷(245日÷12)×1日=14,694円の控除となります。
月によって所定労働日数が変動するのを避けるため、年間平均を用いる方法が実務上は推奨されています。
社会保険料は「標準報酬月額」に基づいて計算されます。標準報酬月額というのは、原則4月・5月・6月の3ヶ月間の報酬の平均額をもとに決定されて、その年の9月から翌年8月まで使用します。
健康保険料の計算
標準報酬月額×健康保険料率÷2(会社と従業員で折半)
健康保険料率は都道府県(協会けんぽの場合)や加入する健康保険組合ごとに異なり、2025年時点では全国平均で約10%前後です。
厚生年金保険料の計算
標準報酬月額×18.3%÷2(会社と従業員で折半)
厚生年金保険料率は全国一律で18.3%です。
介護保険料の計算
40歳以上65歳未満の従業員には、介護保険料も加算されます。
標準報酬月額×介護保険料率÷2
2025年時点の介護保険料率は約1.6%です。
これらの料率は毎年見直されるため、日本年金機構や協会けんぽの公式サイトで最新情報を確認することが重要です。
参考:日本年金機構「厚生年金保険料額表」
雇用保険料は、その月の総支給額に雇用保険料率を乗じて計算します。
雇用保険料の計算式
総支給額×雇用保険料率(従業員負担分)
2025年度の雇用保険料率(従業員負担分)は、一般の事業で0.6%、建設業で0.7%、農林水産・清酒製造業で0.8%です。
例えば、総支給額30万円の一般企業従業員の場合:
300,000円×0.6%=1,800円が雇用保険料となります。
なお、総支給額の中にも雇用保険料対象外のものもあり、そんなときに雇用保険料に含めてしまうと負担が多くなってしまうので注意が必要です。
参考:厚生労働省「雇用保険料率について」
所得税は「源泉徴収税額表」を用いて計算します。課税対象額は以下の式で求めます。
課税対象額の計算
総支給額-非課税手当-社会保険料等
通勤手当には非課税限度額(距離などによる)があるため、この金額を差し引きます。
課税対象額が算出できたら、国税庁が公表する「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」を参照します。扶養親族の人数によって税額が変わるため、従業員から提出された「給与所得者の扶養控除等申告書」の内容を正確に反映する必要があります。
参考:国税庁「給与所得の源泉徴収税額表」
住民税は前年の所得に基づいて市区町村が計算し、毎年5月に「特別徴収税額決定通知書」が企業に送付されます。この通知書に記載された金額を、6月から翌年5月まで毎月の給与から控除します。
住民税の計算は企業側で行う必要はありませんが、通知書の内容を正確に給与システムに反映し、毎月漏れなく控除することが求められます。また、退職した際や休職になった際には、控除額の見直しや手続きをしないといけませんので、注意が必要です。
差引支給額(手取り額)は、以下の計算式で算出します。
手取り額の計算式
総支給額-(健康保険料+介護保険料+厚生年金保険料+雇用保険料+所得税+住民税+その他控除)
計算例
総支給額:286,051円
健康保険料:14,850円
厚生年金保険料:26,458円
雇用保険料:1,716円
所得税:4,770円
住民税:12,000円
手取り額=286,051円-59,794円=226,257円
このように、総支給額から各種控除を差し引いた金額が、従業員の口座に振り込まれる実際の支給額となります。
給与明細には、以下の項目を明確に記載する必要があります。
支給項目
基本給
各種手当(役職手当・通勤手当など)
時間外手当
総支給額
控除項目
健康保険料
介護保険料(40歳以上のみ)
厚生年金保険料
雇用保険料
所得税
住民税
その他控除(財形貯蓄、社宅費など)
差引支給額
実際の振込額(手取り額)
労働基準法第108条では、賃金台帳の記載事項が定められており、給与明細にも同様の内容を記載することが推奨されています。従業員が自身の給与計算を確認できるよう、項目ごとに分かりやすく表示することが重要です。
協会けんぽの場合は3月分より保険料率が変更になります。また、健康保険組合などの場合も毎年変更の可能性があるので、確認し、漏れのないようにご注意ください。
2026年度は雇用保険料率の変更が予定されています。給与計算担当者は、厚生労働省の公式発表を定期的に確認し、変更があった際には速やかにシステムへ反映する体制を整えておく必要があります。
給与計算では、以下のようなミスが頻繁に発生します。
時間外労働の割増率の適用ミス
深夜残業や休日出勤の重複割増を見落とすケース
社会保険料の料率改定の反映漏れ
毎年3月や9月の料率変更を見逃すケース
月額変更届の提出忘れ
固定的賃金が変動した際の標準報酬月額の変更手続き漏れ
育休・産休前後の社会保険料控除ミス
育児休業中は社会保険料が免除されるため、控除してはいけない
月途中入退社時の日割り計算ミス
通勤手当や社会保険料の日割り計算の誤り
扶養人数変更による所得税計算の反映漏れ
従業員からの扶養異動申告を見落とすケース
非課税手当の計算ミス
通勤手当の非課税限度額(月15万円)を超える部分を課税対象にしていない
これらのミスは従業員の不利益につながるだけでなく、税務調査で指摘されると追徴課税や延滞税のリスクもあります。
給与計算のミスを防止するには、以下の5つのポイントが効果的です。
1. 年間スケジュールの作成
社会保険料率の改定時期や年末調整の時期をカレンダーに記載し、事前に準備します。
2. ダブルチェック体制の構築
扶養変更や異動情報の入力は、担当者と管理者の2名でチェックする体制を整えます。
3. チェックリストの活用
控除項目の変更(住民税の切り替えなど)をリスト化し、毎月確認します。
4. マニュアルの整備
月額変更届の提出条件や日割り計算の方法を文書化し、担当者が変わっても同じ精度を保ちます。
5. 勤怠管理システムとの連携確認
勤怠データが正しく給与計算システムに取り込まれているか、毎月初に確認します。
給与計算業務は知識がある人が給与計算ソフトを用い、保険料率の変更や社会保険標準報酬月額の改定などに対応し、法改正や制度変更も漏れなく把握して行えば、自社で完結が可能です。しかしながら、そのような方を雇用することができない、あるいはもっと本業に集中したいということであれば、専門家である社会保険労務士に任せてしまうのも選択肢です。社会保険労務士は入退職の手続き~標準報酬月額への対応まで幅広く対応できるので、任せることでより本業へ集中でき、かつ、専門家が給与計算をしているということで従業員の方へ安心感も与えることが可能です。
給与計算は「総支給額の算出」「控除額の計算」「差引支給額の確定」という3つのステップで構成されます。それぞれのステップで、労働基準法や社会保険関連法令に基づく正確な計算が求められます。
特に注意すべきポイントは以下の通りです。
時間外労働の割増率を正確に適用すること
社会保険料率や税率の改定を見逃さないこと
扶養異動や月額変更など、従業員情報の変更を迅速に反映すること
法改正の内容を定期的に確認し、給与計算ルールを更新すること
また、給与計算のミスを防ぐには、年間スケジュールの作成、ダブルチェック体制、チェックリストの活用などの仕組みづくりが重要です。
正確な給与計算は、従業員の信頼を得るだけでなく、企業のコンプライアンス体制を強化する基盤となります。本記事を参考に、自社の給与計算業務を見直してみてください。
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