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厚生年金は、会社員や公務員が加入する公的年金制度の中核を担う重要な仕組みです。国民年金の上に乗る「2階部分」として、老後の生活を支える役割を果たしています。
2024年10月には従業員51人以上の企業への適用拡大が実施され、2025年度にも在職老齢年金の支給停止基準引き上げなど、制度改正が続いています。経営層やマネジメント層にとって、保険料の計算方法や最新の改正内容を正確に理解することは、人事戦略や労務管理において不可欠です。
本記事では、厚生年金の基本的な仕組みから保険料の計算方法、実務に役立つ情報を分かりやすく解説します。
厚生年金は、日本の公的年金制度において重要な役割を果たす保険制度です。会社員や公務員など雇用されている方が加入する仕組みで、国民年金に上乗せされる形で給付が行われます。
日本の公的年金制度は「2階建て構造」と呼ばれる仕組みになっています。1階部分が全国民共通の国民年金(基礎年金)、2階部分が会社員や公務員が加入する厚生年金です。
厚生年金に加入している方は、自動的に国民年金にも加入していることになり、将来は基礎年金と厚生年金の両方を受け取ることができます。これにより、自営業者などが受け取る基礎年金のみの場合と比べて、手厚い老後保障が実現されています。
厚生労働省によると、2025年度の国民年金(満額)は年額約81万円、厚生年金のモデル世帯(扶養で保険料の発生しない配偶者分を含む)では年額約230万円となっており、厚生年金の上乗せ効果が明確に表れています。
厚生年金の適用対象となるのは、以下の事業所に雇用される70歳未満の従業員です。
適用事業所の要件:
すべての法人事業所(事業主のみの場合を含む)
常時5人以上を使用する個人事業所(一部業種を除く)
日本年金機構の定める基準では、正社員として雇用される方は原則として全員が被保険者となります。また、2024年10月からは厚生年金保険に加入する従業員が51人以上の企業で働く短時間労働者にも適用が拡大されました。
この仕組みにより、事業主には従業員を厚生年金に加入させる法的義務が生じ、保険料も労使折半で負担することになります。
厚生年金保険料は、標準報酬月額という独特の計算基準を用いて算出されます。この仕組みを理解することで、給与設計や人件費計画の精度が向上します。
標準報酬月額とは、従業員の月々の給与を一定の幅で区分した金額のことです。日本年金機構では、第1等級(88,000円)から第32等級(650,000円)までの32段階に区分しています。
この標準報酬月額は、毎年4月~6月の3か月間の給与の平均額をもとに決定され、原則として9月から翌年8月まで適用されます。この仕組みを「定時決定」といいます。
標準報酬月額に含まれる報酬:
基本給
残業手当
通勤手当
家族手当
住宅手当
その他諸手当
つまり、この時期に残業が多いと標準報酬月額が上がり、結果として1年間の保険料も高くなる可能性があります。
厚生年金保険料率は、2017年9月以降、18.3%で固定されています。この保険料は事業主と被保険者(従業員)が半分ずつ負担する「労使折半」の原則が適用されます。
したがって、従業員の実質負担率は9.15%、事業主の負担率も9.15%となります。これは標準報酬月額および標準賞与額の両方に適用されます。
保険料の負担イメージ:
標準報酬月額30万円の場合
保険料総額:30万円 × 18.3% = 54,900円
従業員負担:27,450円
事業主負担:27,450円
2025年の制度改正により、2027年9月以降は標準報酬月額の上限が段階的に75万円まで引き上げられる予定です。
実際の計算例で保険料の仕組みを確認してみましょう。
【ケース1】標準報酬月額24万円の従業員
厚生年金保険料:240,000円 × 18.3% = 43,920円
従業員負担:21,960円
事業主負担:21,960円
【ケース2】標準報酬月額50万円の従業員
厚生年金保険料:500,000円 × 18.3% = 91,500円
従業員負担:45,750円
事業主負担:45,750円
賞与(ボーナス)についても同様に、標準賞与額(賞与額の千円未満を切り捨てた額)に18.3%を乗じて計算します。標準賞与額は1回あたり上限150万円までとされています。
厚生年金の加入対象は段階的に拡大されており、2024年10月の改正により、より多くのパート・アルバイト従業員が加入対象となりました。
正社員など一般的な雇用形態の従業員は、以下の条件を満たすと厚生年金の被保険者となります。
基本的な加入要件:
適用事業所に常時使用される70歳未満の者
週の所定労働時間が正社員の4分の3以上
日本年金機構の基準では、これらの条件を満たす従業員は、パートタイマーやアルバイトなどの名称に関わらず、被保険者として扱われます。
2024年10月から、厚生年金保険に加入する従業員数が51人以上の企業では、短時間労働者への適用が拡大されました。
短時間労働者の加入要件(4要件):
週の所定労働時間が20時間以上
月額賃金が88,000円以上
2か月を超える雇用見込みがある
学生でないこと
これまでは従業員数101人以上の企業が対象でしたが、対象企業の範囲が拡大されたことで、より多くのパート・アルバイト従業員が社会保険に加入することになりました。
この適用拡大により、該当する企業では以下のような影響が生じています。
企業側の対応事項:
対象従業員の洗い出しと加入手続き
保険料負担の増加(労使折半分)
給与計算システムの見直し
従業員への制度説明
一方、従業員にとっては、将来の年金額が増加するメリットがあります。厚生労働省の試算では、月額8.8万円で1年間働いた場合、将来の年金額が年間約6,000円増加するとされています。また、これまで国民健康保険&国民年金だった方は、保険料負担が大きく下がる方が多いです。
2025年(令和7年)6月に成立した年金制度改正法により、厚生年金制度にいくつかの重要な変更が加えられました。
在職老齢年金制度とは、厚生年金を受給しながら働く60歳以上の方について、賃金と年金の合計額が一定基準を超えると年金の一部または全部が支給停止となる仕組みです。
2025年度改正内容:
改正前:月50万円を超えると支給停止
改正後:月62万円を超えると支給停止(2025年4月から)
この基準引き上げにより、高齢者が働き続けやすい環境が整備されます。厚生労働省は「長く働く人の就労意欲を支える」ことを改正の目的としています。
現在の標準報酬月額の上限は65万円(第32等級)ですが、2027年9月以降、段階的に75万円まで引き上げられる予定です。
改正の影響:
高所得者の保険料負担が増加
将来の年金額(報酬比例部分)も増加
厚生年金制度全体の給付水準が上昇
この改正により、報酬月額66万5千円以上の被保険者は保険料が増加しますが、将来受け取る年金額も増えることになります。
これらの制度改正は、企業の人事・労務管理に以下のような影響を及ぼします。
想定される影響:
高齢従業員の雇用継続意欲の向上
高所得従業員の保険料負担増による手取り減少
人件費(社会保険料)の増加
企業としては、制度改正の内容を正確に把握し、給与設計や人事制度の見直しを検討することが重要です。特に、60歳以降の雇用延長を積極的に進める企業にとっては、制度のメリットを活かした人材活用が可能となります。
厚生年金は、老後の生活保障だけでなく、障害を負った場合や死亡した場合にも給付が行われる総合的な保険制度です。
老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取ることができる年金です。
受給要件:
老齢基礎年金の受給資格期間(10年以上)を満たしていること
厚生年金の被保険者期間が1か月以上あること
年金額は、加入期間中の平均標準報酬額と加入期間に応じて計算されます。一般的に、給与が高く、加入期間が長いほど受給額は多くなります。
日本年金機構の公表データによると、2025年度の厚生年金のモデル世帯(夫が平均的収入で40年間就業、妻は専業主婦で保険料負担なし)の年金額は、月額約19万円とされています。
厚生年金には、老齢年金以外にも重要な給付があります。
障害厚生年金: 厚生年金加入中に初診日がある傷病により、一定の障害状態になった場合に支給されます。障害の程度により1級から3級まで等級が設定され、等級に応じた年金額が支給されます。
遺族厚生年金: 厚生年金の被保険者または被保険者であった方が亡くなったとき、その方に生計を維持されていた遺族に支給されます。配偶者や子、父母などが対象となります。
これらの給付により、厚生年金は老後だけでなく、現役世代のリスクにも対応する総合的な社会保険制度となっています。
厚生年金の年金額は、「報酬比例部分」として計算されます。
基本的な計算式: 年金額 = 平均標準報酬額 × 給付乗率 × 被保険者期間の月数
給付乗率は生年月日などにより異なりますが、概ね0.5481%(昭和21年4月2日以降生まれの場合)です。
計算例:
平均標準報酬額:30万円
被保険者期間:40年(480月)
年金額:300,000円 × 0.005481 × 480月 = 約79万円/年
この額に、国民年金部分(基礎年金)が加算されます。
厚生年金は、日本の公的年金制度の中核を担う重要な仕組みです。標準報酬月額に基づく保険料率18.3%(労使折半)の計算方法、2024年10月からの適用拡大、2025年の制度改正による在職老齢年金の基準引き上げなど、最新の動向を把握することが経営層には求められます。
特に、厚生年金保険に加入する従業員が51人以上の企業では短時間労働者への適用拡大が義務化されており、人件費への影響を正確に見積もることが重要です。また、高齢者雇用を進める企業にとっては、在職老齢年金の基準引き上げは追い風となります。
厚生年金制度は複雑ですが、基本的な仕組みを理解することで、適切な人事戦略や給与設計が可能になります。日本年金機構や厚生労働省の公式情報を定期的に確認し、制度変更に適切に対応していくことが、持続可能な企業経営につながります。
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