文責:藤田 泰仁
士業が顧問契約以外の新サービスを始めるときは、「誰のどの悩みに応えるか(対象)」→「何をいくらで提供するか(値決め)」→「既存の顧問先にどう案内するか(案内)」の順番で決めるのが近道です。順番を飛ばさず、最初の3か月は少数の顧問先で試しながら中身と価格を整えていきましょう。
士業の新サービスは「対象→値決め→案内」の順番で始める
顧問契約だけで売上が伸び悩んでいる士業が、コンサルティングのような新サービスを始めるときは、3つの順番を守るのが近道です。1つ目は、誰のどんな悩みに応えるかという「対象の絞り込み」。2つ目は、何を何回・どれくらいの期間でいくらで提供するかという「値決め」。3つ目は、すでに信頼関係のある「既存の顧問先への案内」です。対象が決まらないまま値段を決めると根拠があいまいになり、中身が固まらないまま案内すると、顧問先も判断できません。最初の3か月は少数の顧問先で試し、反応を見ながら中身と価格を整えていきます。
合同会社well coの藤田です。事業戦略顧問として小規模事業者の支援をするなかで、税理士などの士業・コンサルタントの方からもご相談をいただきます。以前、ある税理士事務所で、顧問サービスに加えてコンサルティングのような新事業を始める際の全体設計を担当しました。そのときの経験もふまえ、新サービスを始める順番を整理します。
なぜ顧問契約だけでは伸び悩むのか?
顧問契約は、毎月決まった料金で継続的に支える、安定した仕組みです。一方で、売上を増やすには顧問先の数を増やすのが基本になり、増やすほど担当者の手も必要になります。所長や担当者の時間には限りがあるため、どこかで頭打ちになりやすいのです。
また、顧問先からは記帳や申告以外の相談、たとえば「売上を伸ばしたい」「新しい事業を始めたい」「人が採れない」といった経営の相談を受けることも多いはずです。こうした相談に顧問業務の延長で無償で応えていると、時間ばかりかかって売上にはつながりません。経営の相談を、中身と価格がはっきりした別のサービスとして形にする。これが、新サービスを考える出発点になります。
新サービスを始める3つの順番
全体像を先に表で示します。各順番の中身は、このあと順に説明します。
| 順番 | 決めること | 自分に問いかけること | 飛ばしたときに起きやすいこと |
|---|---|---|---|
| 1. 対象を絞る | 誰の、どんな悩みに応えるか | 顧問先から、どんな相談をよく受けているか? | 「何でも相談に乗ります」になり、頼む理由が伝わらない |
| 2. 値決めをする | 提供する中身(回数・期間・成果物)と価格 | 相手は何を手に入れ、こちらはどれだけ時間を使うか? | 価格の根拠を説明できず、値下げに応じてしまう |
| 3. 既存の顧問先に案内する | 誰に、どの順番で、どう伝えるか | まず誰に試してもらうと、改善点が見つかりやすいか? | 一斉に案内して反応が薄く、そこで止まってしまう |
順番1:対象はどう絞ればよいか?
対象は、「今の顧問先からすでに受けている相談」から絞るのがいちばん確実です。ゼロから市場を探すより、実際に困っている人の声がすでに手元にあるからです。
顧問先から受けた相談を書き出す
まず、ここ半年から1年ほどで顧問先から受けた、記帳や申告以外の相談を書き出します。担当者が複数いる事務所なら、担当者にも聞いて集めましょう。書き出すときは、相談の中身だけでなく、相手の業種・規模・その相談が出た時期も一緒にメモしておくと、あとで傾向が見えやすくなります。
- 売上・集客の相談(例:新しいお客様が増えない、値上げしたい)
- 資金の相談(例:融資を受けたい、補助金を使いたい)
- 人の相談(例:採用できない、人件費が重い)
- 事業の方向性の相談(例:新しい事業を始めたい、事業を整理したい)
「1つの悩み」と「自分が答えられること」が重なる場所を選ぶ
書き出した相談のうち、件数が多いものと、自分たちが根拠を持って答えられるものが重なる場所を選びます。最初は対象を広げすぎないことが大切です。「中小企業の経営全般」より、「開業3年以内の飲食店の資金繰りと値決め」のように、相手が「自分のことだ」と感じられるくらいまで絞ると、案内のときにも伝わりやすくなります。
順番2:値決めはどう考えればよいか?
値決めは、先に「提供する中身」を決めてから行います。中身があいまいなまま金額だけ決めると、相手も比べようがなく、こちらも根拠を説明できません。
中身を「回数・期間・成果物」で書き出す
たとえば「月1回・60分の打ち合わせを3か月」「初回に現状を整理したシートを渡す」「最終月に今後半年の行動計画をまとめる」のように、回数・期間・成果物(最後に相手の手元に残るもの)を書き出します。こうすると、顧問業務とどこが違うのかを、相手にも自分たちにもはっきり示せます。
「かかる時間」と「相手が得るもの」の両方から考える
価格は、2つの方向から考えると決めやすくなります。1つは下限の目安で、準備や打ち合わせ、資料作りにかかる時間から計算します。もう1つは相手の側から見た価値で、その悩みが解決したときに相手が得るものや、ほかの選択肢と比べてどうかを考えます。この2つの間で、説明できる価格を選びます。
- 顧問料とは別の契約にし、中身と価格を分けて示す
- 最初の数社は、感想や改善点をもらうことを条件に、期間を区切った試行価格にするのも一つの方法
- 試行価格のときも、正規の価格をあらかじめ伝えておく
順番3:既存の顧問先にはどう案内すればよいか?
案内は、一斉に送る前に、相談をよく受けていた数社に個別に話すところから始めます。顧問先はすでに信頼関係のある相手なので、率直な感想をもらいやすく、サービスの中身を整えるいちばんの協力者になってくれます。
- 相談をよく受けていた数社に、打ち合わせの場などで個別に話す
- 試してもらった顧問先の感想をもとに、中身・価格・説明の仕方を直す
- 説明に使う1〜2枚の紹介資料を作る
- そのうえで、ほかの顧問先にもメールやお便りで案内する
メールで新サービスを案内するときは、広告・宣伝のメールに関するルールにも気をつけましょう。総務省の特定電子メール法の解説ページによると、広告・宣伝のメールは原則として、あらかじめ同意した相手などにしか送れません(オプトイン規制)。取引関係にある相手は例外として挙げられていますが、送信者の氏名や名称、受信を拒否するための連絡先を表示する義務があり、拒否の連絡を受けた相手には送ってはいけないとされています。案内メールには、事務所名と「今後この案内が不要な場合の連絡先」を必ず書いておきましょう。
税理士法人で始めるときに確かめておきたいこと
税理士法人の場合は、新サービスをどの名義で提供するかを先に確かめておく必要があります。国税庁の税理士制度に関するQ&A(税理士業務とは)では、税理士法人は定款に定めた業務以外の業務を行うことができないと説明されています。また、税理士法人の業務の範囲は税理士法で定められています。新サービスの中身が法人として行える範囲に入るかどうか、別の名義で行うべきかは、所属する税理士会や専門家に確認してから決めると安心です。
最初の3か月はどう進めればよいか?
3つの順番をふまえた、最初の3か月の進め方の目安です。事務所の規模や繁忙期によって調整してください。たとえば税理士事務所なら、確定申告の時期と重ならないように始めると、試行に時間を割きやすくなります。
| 時期 | やること | この時期の目安 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 相談の書き出し・対象の絞り込み・中身と価格の案づくり | 誰の何の悩みに応えるかを1文で言える |
| 2か月目 | 数社の顧問先に個別に案内し、試してもらう | 試した顧問先から、具体的な感想や改善点が集まる |
| 3か月目 | 感想をもとに中身・価格・紹介資料を直し、ほかの顧問先にも案内する | 続けて提供できる形と、説明のしかたが固まる |
税理士事務所の新事業を支援したときのこと
私が担当した税理士事務所では、顧問サービスに加えて、コンサルティングのような新しいサービスを始める際の全体設計を一緒に行いました。対象の絞り方、値決め、既存の顧問先への案内の順番を整理しながら進めた結果、3か月目の時点で、月30万円の粗利の上乗せにつながりました。
もちろん、事務所の規模や顧問先の顔ぶれによって結果は変わりますし、同じ成果になるとは限りません。ただ、新サービスがうまく立ち上がるかどうかは、アイデアの良し悪しより「決める順番」に左右される部分が大きいと感じています。
自分で進めるときにつまずきやすいところ
ここまでの手順は、所長や経営者が自分で進められるものです。ただ、実際に取り組むと、次のようなところで手が止まりやすくなります。
- 相談の種類が多く、どれを対象にするか決めきれない
- 顧問先との関係を気にして、価格を思い切って決められない
- 日々の顧問業務が忙しく、新サービスの準備が後回しになる
- 新サービスを、事務所全体の今後の方向性とどうつなげるか整理できない
特に最後の点は大切です。新サービスは、事務所がこれから誰にどう貢献していきたいのかという考え方と結びついているほど、続けやすく、顧問先にも伝わりやすくなります。目先の売上だけでなく、事業全体の方向性から考えることが、遠回りに見えて近道になります。
まとめ
顧問契約だけで伸び悩んでいる士業が新サービスを始めるときは、「対象を絞る→値決めをする→既存の顧問先に案内する」の順番で進めます。対象は顧問先から受けている相談から選び、中身は回数・期間・成果物で示し、案内は数社への個別の声かけから始める。最初の3か月は試しながら整える期間と考えると、無理なく形にできます。
とはいえ、どの悩みを対象にするか、事務所の方向性とどうつなげるかといった優先順位づけは、ひとりで決めるのが難しい部分でもあります。当社の事業戦略顧問では、商品設計や集客、業務改善まで含めて、経営者と一緒に全体を整理し、実行まで伴走しています。新しいサービスづくりを一度誰かと整理してみたいと感じた方は、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 士業が新サービスを始めるとき、最初に何をすればよいですか?
- まず、ここ半年から1年ほどで顧問先から受けた、記帳や申告以外の相談を書き出すことから始めましょう。件数が多く、自分たちが根拠を持って答えられる相談が、新サービスの対象の候補になります。
- 新サービスの料金は、顧問料に含めたほうがよいですか?
- 顧問料とは別の契約にし、中身と価格を分けて示すことをおすすめします。顧問業務の延長として扱うと、どこまでが料金の範囲か分かりにくくなり、価格の根拠も説明しにくくなるためです。
- 既存の顧問先にメールで案内してもよいですか?
- 特定電子メール法では、取引関係にある相手は同意を得る原則の例外として挙げられています。ただし、送信者の名称や受信拒否の連絡先の表示が必要で、拒否の連絡を受けた相手には送れません。個別の判断に迷う場合は、総務省の情報などで確認してください。
- 対象をひとつに絞ると、ほかの顧問先からの相談を断ることになりませんか?
- 最初に絞るのは、サービスとして形にして案内する範囲です。ほかの相談に応えないという意味ではありません。まず1つの形を固めてから、反応を見て対象を広げていくほうが、結果的に多くの顧問先に役立てやすくなります。
出典:総務省「特定電子メール法」(国民のためのサイバーセキュリティサイト)/国税庁「税理士制度に関するQ&A 問2-1 税理士業務とは」/国税庁「税理士制度に関するQ&A 税理士法人」
