文責:藤田 泰仁
小規模事業者の月次レポートは、売上・粗利・新規客数・問い合わせ数・作業時間の5つの数字をA4一枚に並べ、先月と前年同月と比べるだけで十分です。大きく動いた数字を1つ選び、集客の流れのどこで詰まったかを探して、来月の打ち手を1つに絞りましょう。毎月30分、これを続けることがいちばんの近道です。
小規模事業者の月次レポートは「5つの数字×3つの比較×打ち手1つ」で作る
小規模事業者の月次レポートは、A4一枚で足ります。毎月見るのは、売上・粗利・新規客数・問い合わせ(予約)数・作業時間の5つの数字だけです。これを今月・先月・前年同月の3列で並べ、大きく動いた数字を1つ選びます。次に、集客の入口から売上までのどこで詰まったかを考え、来月やる打ち手を1つに決めます。数字は概算でかまいません。中小企業基盤整備機構のJ-Net21でも、経営判断に使う数字は概算でよいとされています。大事なのは、きれいな資料を作ることではなく、毎月同じ形で見て、次の行動を決めることです。
合同会社well coの藤田です。事業戦略顧問として小規模事業者の方とお話ししていると、「数字は大事だと分かっているけれど、見る時間がない」という声をよく聞きます。会計ソフトもレジも予約システムもあるのに、それぞれの画面を開いて見比べる余裕がない。この記事では、そんな経営者の方に向けて、毎月どの数字をどこから集め、どう見れば次の打ち手が決まるかを、表の例付きでまとめます。
なぜ月次レポートはA4一枚でいいのか?
月次レポートの目的は、記録を残すことではなく、来月の行動を決めることだからです。J-Net21の月次決算の解説では、経営計画を立てた後の確認(PDCAのC=Check)は月次決算で行うのが基本とされ、経営判断に使う数字は概算で足りるという考え方が示されています。月次決算とは、年に1回の決算とは別に、毎月の成績を確かめるために行う締めのことです。
数字の項目が増えるほど、作るのに時間がかかり、結局どれを見ればいいのか分からなくなります。小さな会社では、作る人も見る人も経営者本人であることがほとんどです。だからこそ、項目を絞り、毎月同じ形で並べるほうが続きます。項目を増やすのは、5つの数字を半年ほど見続けて、足りないと感じてからで十分です。
毎月見る5つの数字は何?
見る数字は「お金」「お客様」「時間」の3つの面から選びます。売上と粗利でお金の流れを、新規客数と問い合わせ数で集客の状態を、作業時間で経営者の手が回っているかを確かめます。
| 数字 | 何が分かるか | 主な集め先 |
|---|---|---|
| 1. 売上 | 事業全体が伸びているか、落ちているか | 会計ソフト、レジ、請求書の一覧 |
| 2. 粗利(売上−仕入や材料などの原価) | 売上が増えても、手元に残るお金が増えているか | 会計ソフト、仕入れの請求書 |
| 3. 新規客数 | 新しいお客様が来ているか(集客が効いているか) | レジ、顧客台帳、予約システム |
| 4. 問い合わせ・予約数 | 集客の入口から、どれだけ行動につながっているか | 予約システム、メール、電話のメモ、DM |
| 5. 作業時間(本業以外) | 事務や集客作業に、経営者の時間がどれだけ取られているか | 作業時間のメモ、カレンダー |
業種によって、言い換えてかまいません。たとえば士業やコンサルタントなどBtoB(会社相手の取引)の事業者なら、「新規客数」を「新規契約数」に、「問い合わせ数」を「商談数」に置き換えます。飲食店やサロンなら、新規客数の横にリピート客数を添えると、次の打ち手を考えやすくなります。
数字はどこから集めればよいか?
新しく記録を始める必要は、ほとんどありません。多くの数字は、すでに使っている会計ソフトやレジ、予約システムの中にあります。月次レポート作りは、散らばった数字を1か所に書き写す作業だと考えてください。
売上と粗利:会計ソフトとレジから
売上と粗利は、会計ソフトの月次の試算表(その月までの数字をまとめた表)から書き写すのが確実です。記帳が月末に追いつかない場合は、レジの締めや請求書の合計で売上をつかみ、仕入れは届いた請求書の合計で概算します。J-Net21の解説でも、販売・仕入・経費をこまめに記帳する体制づくりが、月次決算の土台として挙げられています。
新規客数と問い合わせ数:予約台帳やDMから
予約システムや顧客台帳を使っていれば、月ごとの新規客数や予約数が出せます。電話やInstagramのDMで受けている場合は、受けたその場で「日付・経路・用件」だけをメモに残しておくと、月末に数えるだけで済みます。経路(どこで知ったか)を一緒に残しておくと、後で打ち手を決めるときに役立ちます。
集客の入口の数字:Googleビジネスプロフィールやインスタのインサイトから
問い合わせが減ったときに原因を探すため、集客の入口の数字も手元に置いておきます。お店の情報をGoogle検索やGoogleマップに出す「Googleビジネスプロフィール」では、パフォーマンス画面で、プロフィールの閲覧数、ルートを検索した人の数、通話ボタンのクリック数、ウェブサイトのクリック数などを期間を指定して確認できます。表示される指標は、業種などに関係するものだけです。
Instagramは、プロアカウント(ビジネスやクリエイター向けの設定)に切り替えると、インサイト(投稿やアカウントの反応を数字で見られる機能)が使えます。さかのぼって見られる期間には限りがあるため、月末にその月の数字を書き写しておくと安心です。入口の数字は、5つの数字とは別に「参考欄」として小さく載せる程度でかまいません。
作業時間:1週間だけメモを取る
作業時間は、毎日きっちり記録しなくても大丈夫です。月に1週間だけ、事務作業(請求書づくり、入力、返信など)と集客作業(SNSの投稿づくり、チラシなど)にかかった時間をメモし、4倍して月の目安にします。正確さより、毎月同じやり方で測ることを優先してください。
A4一枚の月次レポートはどんな形?
形はシンプルな表1つで十分です。5つの数字を縦に並べ、今月・先月・前年同月を横に並べます。右端に「気づいたこと」を一言書く欄を作ります。下の表は、小さな飲食店を想定した記入例で、数字は説明のための架空のものです。
| 数字 | 今月 | 先月 | 前年同月 | 気づいたこと |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 180万円 | 195万円 | 185万円 | 先月より減。前年並み |
| 粗利 | 117万円 | 130万円 | 125万円 | 仕入れ値が上がり、粗利の割合が下がった |
| 新規客数 | 62人 | 85人 | 80人 | 大きく減った |
| 問い合わせ・予約数 | 140件 | 175件 | 170件 | 電話予約が減った |
| 作業時間(本業以外) | 32時間 | 30時間 | - | SNSの投稿づくりに時間がかかった |
| 参考:プロフィールの閲覧数 | 3,100 | 3,900 | 3,800 | 入口から減っている |
前年同月と比べる列は、季節の影響を見分けるために入れています。先月より減っていても、前年同月と同じくらいなら、季節による動きかもしれません。開業1年目で前年の数字がない場合は、空欄のまま始めてかまいません。
数字を見たら、次の打ち手はどう決める?
打ち手は、次の3つの問いに順に答えると決まります。1つ目は「いちばん大きく動いた数字はどれか」。2つ目は「集客の入口から売上までの流れの、どこで詰まったか」。3つ目は「来月、1つだけやるなら何か」です。打ち手を1つに絞るのは、いくつも同時に変えると、どれが効いたのか分からなくなるからです。
| 数字の動き | 詰まっていそうな場所 | 打ち手の例 |
|---|---|---|
| 入口の数字も問い合わせも減った | そもそも見つけてもらえていない | Googleビジネスプロフィールの情報や写真を見直す、投稿の内容を見直す |
| 入口の数字は変わらないのに、問い合わせが減った | 見た人が行動しにくい | 予約方法を分かりやすくする、プロフィールのリンク先を見直す |
| 問い合わせは変わらないのに、新規客数が減った | 問い合わせから来店・契約までの対応 | 返信の早さや、案内の内容を見直す |
| 客数は変わらないのに、粗利が減った | 原価や値付け | 仕入れ先や原価を見直す、価格やメニュー構成を見直す |
| 数字は悪くないのに、作業時間が増えた | 事務や集客作業のやり方 | 時間を食っている作業を1つ選び、ひな形やツールで手間を減らす |
先ほどの記入例なら、プロフィールの閲覧数と問い合わせがそろって減っているので、「見つけてもらえていない」ことを疑います。粗利の割合も下がっていますが、来月はまず入口の見直しを1つだけやり、粗利はその次の月に回す、という決め方です。
打ち手は「増やす」より先に「詰まりを直す」
数字が落ちると、広告を増やす、投稿の回数を増やすといった「量を増やす」打ち手に目が行きがちです。ただ、流れのどこかが詰まったままだと、入口を広げても売上につながりにくくなります。当社で支援したInstagram集客がうまくいっていなかった事業者さんは、月商が約9万円の状態から、投稿を増やすのではなく、見た人が問い合わせ・購入に進むまでの導線(お客様がたどる道筋)を全体で整理し、2か月後には月商90万円まで伸びました。また、紹介業者に頼っても入居者が足りなかった高級介護施設では、広告宣伝費を増やさずに2回のアドバイスで、残っていた14室すべてが埋まりました。どちらも、量より先に詰まりを探したことが出発点です。もちろん、結果は事業ごとに異なります。
毎月の見直しは、どんな段取りで進める?
月初に30分の時間をカレンダーで先に押さえ、毎月同じ手順で進めます。J-Net21の解説でも、月次決算をいつ確定させるかを決めて共有することが、早く締めるための仕組みとして挙げられています。
- 締める日を決める:たとえば「毎月5日までに前月分を書く」
- 書き写す:会計ソフト、レジ、予約台帳、インサイトから5つの数字と参考の数字を表に写す
- 比べる:先月・前年同月と並べ、大きく動いた数字に印をつける
- 決める:詰まっていそうな場所を考え、来月の打ち手を1つ「気づいたこと」の欄に書く
- 確かめる:翌月のレポートで、その打ち手の後に数字がどう動いたかを見る
スタッフがいる場合は、表を一緒に見る時間を月に1回取るのもおすすめです。数字が共有されると、「予約の電話が取れていない時間帯がある」など、経営者だけでは気づきにくい現場の事情が出てくることがあります。
月次レポートが続かないのはなぜ?
- 数字があちこちのツールに散らばっていて、集めるだけで疲れてしまう
- 項目を増やしすぎて、作るのに1時間以上かかる
- 数字を見ても、何をすればいいか決まらない
- 前月に決めた打ち手を、翌月に振り返っていない
いちばん多いのは、1つ目の「集めるのが大変」です。会計はこのソフト、予約はあのシステム、インスタはアプリの中、と画面が分かれていると、書き写すだけで時間がかかります。月次レポートを続けるコツは、集める手間をできるだけ減らし、見て考える時間を残すことです。集める作業そのものを減らせないかも、業務改善の対象として考えてみてください。
まとめ
小規模事業者の月次レポートは、売上・粗利・新規客数・問い合わせ数・作業時間の5つの数字をA4一枚に並べ、今月・先月・前年同月で比べるだけで十分です。大きく動いた数字を1つ選び、集客の流れのどこで詰まったかを探して、来月の打ち手を1つに絞ります。まずは来月の月初に30分、今回の表の形で書いてみてください。
数字を集める手間を減らしたい方は、当社のディープラも選択肢の1つにしてみてください。中小企業・個人事業主向けのプラットフォームで、Instagramなどのインサイト分析やレポートで状況を一覧する機能、営業管理の機能などをまとめて使えます。無料のまま使い続けることもできますが、その場合はインサイト分析などの分析機能が使えないといった制限があります。まずは今回の5つの数字のうち、集めるのに時間がかかっている数字から試してみてください。
よくある質問
- 小規模事業者の月次レポートには、何を書けばよいですか?
- 売上・粗利・新規客数・問い合わせ(予約)数・作業時間の5つの数字と、気づいたことを一言書く欄があれば十分です。今月・先月・前年同月を並べて比べると、変化に気づきやすくなります。
- 会計の記帳が月末に追いつきません。月次レポートは作れますか?
- 作れます。経営判断に使う数字は概算でかまわないので、売上はレジや請求書の合計、仕入れは届いた請求書の合計でつかみます。決算用の正確な数字は、記帳が終わってから確かめれば大丈夫です。
- 開業したばかりで前年の数字がありません。どう比べればよいですか?
- 最初は先月との比較だけで始めます。1年続ければ前年同月と比べられるようになり、季節による動きも見分けられるようになります。
- 1人で事業をしていても、作業時間を測る意味はありますか?
- あります。1人の事業者ほど、事務や集客作業に取られた時間が、そのまま本業やお客様対応に使えない時間になります。月に1週間だけメモを取り、4倍して目安にするだけでも変化が見えます。
- 打ち手を1つに絞るのはなぜですか?
- 同じ月にいくつも変えると、どの打ち手が数字を動かしたのか分からなくなるからです。1つずつ試して翌月に確かめることで、自社に効くやり方が少しずつたまっていきます。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「月次決算の考え方と導入方法について教えてください。」/Google ビジネス プロフィール ヘルプ(パフォーマンスの指標について)
