文責:藤田 泰仁
キャンペーン企画の手順は、目的、対象、特典、期間、測定の順に決めるのが基本です。特典は1人あたりの粗利と景品表示法の上限で確かめ、年間の販促計画では売上の落ちる時期に目的を置きます。
キャンペーン企画の手順は、目的→対象→特典→期間→測定の順に決めるのが基本で、特典を決めるときは法律の上限も確かめます。購入者全員に渡す景品の上限は、取引価額の10分の2(取引価額が1,000円未満なら200円)です(消費者庁「景品規制の概要」、2026年11月8日確認)。
ここでいうキャンペーンとは、期間と対象を決めて特典を付ける販促企画のことです。セールは値引きそのものを指すことが多く、キャンペーンは値引き以外の特典も含む、より広い言葉として使われます。
割引が効くのはなぜ?クーポンと期間限定の心理効果を小さな店向けに解説で心理の仕組みを読んだ方は、この記事で「実際にどう組み立てるか」に進めます。飲食店とサロンの例で説明します。
キャンペーン企画の手順(要点)
キャンペーン企画は、目的、対象、特典、期間、測定の順に決めます。最初に増やしたいものを1つ選び、新規客か既存客かを絞ると、特典の候補が自然に絞れます。特典は割引だけでなく、無料の一品や追加の体験も、1人あたりの粗利で比べます。景品として渡す場合は景品表示法の上限を確かめ、価格や期限の表示も実態と合わせます。期間は受け入れられる枠数から逆算し、終了日を日付で示します。開始前に比較の基準を書いておくと、終了後に続けるかどうかを判断できます。年間の販促計画は、売上の落ちる時期に目的を置き、同じ割引を繰り返さないように組みます。
キャンペーン企画の手順は?目的から測定まで5段階で決める
5つの項目は、上から順に決めます。前の項目が、次の項目を決める材料になるからです。
- 目的:増やしたいものを1つ選び、人数で書く
- 対象:新規客か既存客かを絞り、届ける手段を決める
- 特典:候補を粗利で比べ、景品表示法の上限を確かめる
- 期間:受け入れられる枠数から逆算し、終了日を決める
- 測定:比べる基準と見る数字を、開始前に書いておく
現場でよくあるのは、「まず10%オフにしよう」と特典から決めてしまう形です。すると誰に何をしてほしいのかが後付けになり、終わったあとに良かったのかどうかを判断できません。
割引と割引以外の特典は何が違う?小さな店で比べる6種類
違いは3点です。店の負担の形、景品表示法での扱い、向いている目的が特典ごとに変わります。
| 特典の種類 | 店の負担 | 向く目的 | 景品規制での扱い |
|---|---|---|---|
| 割引(○%・○円引き) | 粗利が直接減る | 初めて来るきっかけづくり | 取引通念上妥当な割引券なら景品類に当たらない |
| 無料の一品(ドリンク・小物など) | その品の原価 | 新規来店・再来店 | 無料券は総付景品の上限内に収める |
| 追加の体験(10分のケア・別メニュー) | 材料費と施術時間 | 別メニューを知ってもらう | 景品として付けるなら上限内に収める |
| 次回来店の特典 | 次回来店時にだけ発生 | 2回目の来店 | 割引券か無料券かで扱いが変わる |
| 限定メニュー・先行案内 | 企画と準備の手間 | 既存客の再来店 | 景品を付けずに販売するなら上限の計算は不要 |
| 抽選(くじ) | 景品代と運営の手間 | 話題づくり | 一般懸賞の上限内に収める(金額は後述) |
どの特典が反応を得やすいかは、客層や商品で変わります。1回のキャンペーンでは特典を1種類にして、次の回で別の種類と比べると、自店に合う形が見えてきます。
飲食店とサロンでは5項目をどう埋める?キャンペーン企画の記入例
5項目を1行ずつ埋めれば、そのまま企画書になります。下の表の数字はすべて説明のための仮の数字で、金額は税込みとして扱います。
| 項目 | 飲食店の例(平日夜を埋める) | サロンの例(平日昼を埋める) |
|---|---|---|
| 目的 | 平日夜の再来店を30人増やす | 平日昼の新規予約を20人取る |
| 対象 | 過去1年に来店し、連絡先が分かる人 | 初めて来店する人 |
| 特典 | 4,000円のコース注文でドリンク1杯無料(売価500円) | 8,000円のコースに10分の追加ケア(売価1,500円) |
| 期間 | 3週間(1日3人×週4日の余力から逆算) | 4週間(週6枠の余力から逆算) |
| 測定 | 前の3週間の来店数と比べる | 新規予約数と2回目の来店率を見る |
手順1:キャンペーンの目的はどう決める?増やすものを1つに絞る
この段階のゴールは、増やしたいものを1つ、人数で書けることです。
- 新規客・再来店・空き枠・客単価から1つ選ぶ
- 直近の実績を確かめ、今の数字を書く
- 増やしたい人数を店が受け入れられるか確かめる
目的が2つあると、特典がぼやけます。たとえば「新規も増やしたいし、常連にも喜んでほしい」と考えると、どちらにも届きにくい内容になりがちです。
人数を書くのは、店の受け入れ余力と照らし合わせるためです。予約を受けきれずに断る事態が起きると、せっかくの来店の機会を逃してしまいます。
手順2:新規客と既存客のどちらを対象にする?届ける手段で決める
この段階のゴールは、対象を1種類に絞り、届ける手段まで決めることです。新規客はまだ来店したことがない人、既存客は1回以上来店したことがある人を指します。
- 手順1の目的から、新規客か既存客かを選ぶ
- その人たちに届く手段を書き出す
- 連絡できる既存客の人数を数える
| 比べる点 | 新規客向け | 既存客向け |
|---|---|---|
| 届ける手段 | チラシ、Googleマップ、SNSなど | LINE、メール、店頭での案内など |
| 特典の役割 | 初めて試す不安を減らす | もう一度来る理由をつくる |
| 主に見る数字 | 新規の来店数と、そのうちの2回目の来店率 | 再来店した人数と来店間隔 |
既存客向けの企画は、連絡先がなければ始められません。飲食店・整骨院・サロンのリピーターを増やす方法|顧客台帳の作り方で、連絡先と来店履歴の残し方を先に整えておくと、次の企画から対象を絞りやすくなります。
手順3:特典はいくらまで出せる?飲食店・サロンの粗利で比べる
この段階のゴールは、特典の候補を1人あたりの粗利で比べ、1つに絞ることです。粗利とは、売上から材料費などの原価を引いた金額です。
- 特典の候補を2〜3個出す
- 候補ごとに1人あたりの粗利を計算する
- 景品として渡す特典は、法律の上限内か確かめる
飲食店は客単価4,000円・原価1,400円、サロンは客単価8,000円・原価800円と仮定して計算します。
| パターン(仮の数字) | 売上 | 原価と特典の費用 | 1人あたりの粗利 | 同じ粗利に必要な客数 |
|---|---|---|---|---|
| 飲食店・特典なし | 4,000円 | 1,400円 | 2,600円 | 基準(1倍) |
| 飲食店・10%割引 | 3,600円 | 1,400円 | 2,200円 | 約1.18倍 |
| 飲食店・ドリンク無料(原価150円) | 4,000円 | 1,550円 | 2,450円 | 約1.06倍 |
| サロン・特典なし | 8,000円 | 800円 | 7,200円 | 基準(1倍) |
| サロン・20%割引 | 6,400円 | 800円 | 5,600円 | 約1.29倍 |
| サロン・追加ケア(材料費150円) | 8,000円 | 950円 | 7,050円 | 約1.02倍 |
この表は、損をしないために必要な客数の目安で、実際に客数が増えることを示すものではありません。また、サロンの追加ケアには10分の施術時間がかかります。空き枠のある時間帯に限るなど、時間の負担も一緒に考えてください。
特典の上限と表示のルールは?景品表示法で確かめること
特典の渡し方によって上限が変わり、割引でも価格や期限の表示にはルールがかかります。景品表示法とは、過大な景品や、実際より良く見せる表示を規制する法律です。以下は消費者庁の公開情報で確認できた範囲の整理です(2026年11月8日確認)。
総付景品とは、購入者や来店者にもれなく渡す景品のことです。懸賞とは、くじなどの偶然性や、クイズの正誤などで渡す相手や金額を決めるものです。
| 特典の渡し方 | 規制上の扱い | 上限や条件 |
|---|---|---|
| 購入者全員に渡す | 総付景品 | 取引価額1,000円未満は200円、1,000円以上は取引価額の10分の2 |
| 来店者全員に渡す(購入は条件にしない) | 総付景品 | 取引価額は原則100円とされ、上限は200円 |
| 購入や来店の先着順で渡す | 原則として総付景品 | 上と同じ上限を確かめる |
| 割引券を配る | 取引通念上妥当な基準なら値引き | 景品類に当たらず、景品規制は適用されない |
| ドリンク1杯無料券などの引換券を配る | 総付景品 | 総付景品の上限内に収める |
| 抽選などの懸賞(一般懸賞) | 懸賞 | 1人あたりの最高額は取引価額5,000円未満で20倍、5,000円以上で10万円。総額は売上予定総額の2%まで |
| SNSのフォロー・いいねだけで抽選 | 通常は取引に付随しない | 商品画像の投稿で当選確率が上がる企画や、来店して受け取る企画は規制の対象になる |
出典は、景品規制の概要、総付景品のQ&A、景品類とはのQ&A、一般懸賞のQ&Aです。
飲食店のドリンク特典とサロンの追加ケアは上限内に収まる?
記入例の特典は、どちらも上限内に収まります。景品の金額は原価ではなく、受け取る人が通常買うときの価格(消費税込み)で考えるためです(消費者庁「景品規制について」Q76・Q77)。
- 飲食店:4,000円のコースなら上限は800円(4,000円×10分の2)。売価500円のドリンクは収まる
- 同じドリンクを2,000円のランチに付ける場合:上限は400円(2,000円×10分の2)で、売価500円は超える
- サロン:8,000円のコースなら上限は1,600円(8,000円×10分の2)。売価1,500円の追加ケアは収まり、売価2,000円なら超える
価格と期限の表示で気をつけることは?実態と合わせる4点
価格や期限の表示は、実際の内容と合わせる必要があります。消費者庁が示している主な点は次の4つです。
- 比べる「通常価格」:同じ商品を最近相当期間にわたって販売していた価格なら問題になるおそれはないとされています。いつ、どの程度の期間の価格かを正確に示さない場合は、不当表示のおそれがあります(二重価格表示)
- キャンペーン後の価格:実際には販売しない価格や、ごく短期間しか販売しない価格を「終了後の価格」として比べると、不当表示のおそれがあります(同ページ)
- 数量・期間・対象の限定:供給量や期間、相手が限られているのに、その内容を明りょうに書かない表示は不当表示になります(表示に関するQ&A Q37)
- 適用の条件:割引の価格が適用される人の条件は正確に示す必要があります(同Q20)。また、期限を決めないまま「閉店セール」を長く続けると、不当表示のおそれがあるとされています(同Q44)
違反が認められると、消費者庁による措置命令や課徴金の対象になることがあり、都道府県知事も措置命令を行えます(消費者庁「景品表示法違反行為を行った場合」)。実際に当たるかは個別の条件で変わります。迷う企画は、同じページから案内されている消費者庁の相談窓口や、弁護士などの専門家に確認してください。
手順4:キャンペーンの期間はどう決める?受け入れ枠から逆算する
この段階のゴールは、開始日と終了日を日付で決めることです。期間の長さは、目標人数を受け入れられる枠数から計算できます。
- 週に受け入れられる人数を数える
- 目標人数を週の人数で割り、必要な週数を出す
- 終了日を「○月○日まで」と日付で示す
記入例のサロンで計算します(仮の数字)。平日昼の空き枠が1日2枠で週5日なら、週10枠です。ただし全枠が埋まるとは限らないので、仮に6割が埋まるとすると週6枠になります。目標の20人を週6枠で割ると約3.3週なので、4週間に切り上げます(6枠×4週=24枠)。
既存客向けなら、自店の来店間隔も手がかりになります。多くのお客様が次に来る時期を顧客台帳で確かめ、その時期が期間に含まれるようにします。決めた期限を何度も延ばさないことも大切で、「今だけ」と伝えながら同じ条件を続けると、表示と実態がずれてしまいます。
手順5:キャンペーンの効果はどう測る?開始前に比べる基準を書く
この段階のゴールは、比べる基準と見る数字を開始前に紙1枚に書くことです。終わってから基準を探すと、都合の良い比較になりがちです。
- 比べる期間を決める(直前の同じ長さの期間など)
- 特典を使った人数を数える方法を決める
- 続ける・やめるの判断基準を先に書く
大事なのは、特典を使った人が全員「増えたお客様」とは限らないことです。特典がなくても来ていた人にも費用はかかります。記入例の飲食店で、仮に通常の3週間の来店が100人、期間中が118人、特典の利用が30人、案内の費用が20,000円だったとして計算します。
| 見る数字 | 計算式 | 飲食店の例(仮の数字) |
|---|---|---|
| 増えた客数 | 期間中の来店数−比べる期間の来店数 | 118人−100人=18人 |
| 増えた粗利 | 増えた客数×特典なしの粗利 | 18人×2,600円=46,800円 |
| 特典の費用 | 特典の利用人数×1人あたりの特典原価 | 30人×150円=4,500円 |
| 差し引きの利益 | 増えた粗利−特典の費用−案内の費用 | 46,800円−4,500円−20,000円=22,300円 |
| 2回目の来店率 | 再来店した人数÷特典の利用人数 | 9人÷30人=30% |
測定の結果は、ふだんの数字と同じ場所に残すと次の企画に生かせます。小規模事業者の月次レポートはA4一枚でいい|作り方と打ち手の決め方の形式に、キャンペーンの欄を足しておくと振り返りやすくなります。
年間の販促計画にどう落とし込む?売上の谷に目的を置く
年間の販促計画は、売上の落ちる時期に目的を置き、1年分を1枚の表に並べれば作れます。年間販促計画とは、いつ、誰に、何のために販促をするかを1年分まとめた計画のことです。
- 前年の月別売上と来店数を並べ、谷と山を見つける
- 谷の時期に、新規・再来店など目的の違う企画を置く
- 1回あたりの費用の上限と準備の開始日を書き込む
| 時期(仮の例) | 店の状況 | 目的 | 飲食店の例 | サロンの例 |
|---|---|---|---|---|
| 春 | 新しい生活で動きが出る | 新規客を増やす | 初来店の方にドリンク1杯 | 初回の追加ケア体験 |
| 夏の谷 | 来店が落ちる | 既存客の再来店 | 常連向けの平日限定メニュー | 前回来店から間が空いた方へ案内 |
| 秋 | 比較的落ち着く | 客単価を上げる | 季節のコースの先行案内 | 別メニューの体験 |
| 冬の谷 | 繁忙期のあとに落ちる | 空き枠を埋める | 平日夜の少人数向けの企画 | 平日昼の割引券 |
表に並べると、割引が続きすぎていないかが一目で分かります。割引は回数を決めて使い、ほかの時期は体験や限定メニューに振り分けると、値引きに頼りすぎない計画になります。予算は、1回あたりの費用の上限に回数を掛けて出します。仮に1回30,000円で年4回なら、年間120,000円です。回数に決まった基準はないので、店の余力と粗利に合わせて決めてください。
キャンペーン企画のよくある質問
- キャンペーンの企画は何から決めればよいですか?
- 目的から決めます。増やしたいものを1つ選び、人数で書くと、対象・特典・期間を順番に決めやすくなります。
- 新規客向けと既存客向けのキャンペーンは同時にやってもよいですか?
- 小さな店では、時期を分けるのがおすすめです。同時に行うと、案内も特典も複雑になり、どちらの効果か見分けにくくなります。
- ドリンク1杯無料券は割引券と同じ扱いですか?
- 同じではありません。消費者庁のQ&Aでは、取引通念上妥当な割引券は値引きとされる一方、ドリンク1杯無料券のような引換券は総付景品の規制内に収める必要があるとされています(Q11)。
- 年に何回キャンペーンをすればよいですか?
- 決まった回数の基準はありません。前年の売上の谷の数と、店の受け入れ余力、1回あたりの費用の上限から決めてください。
- 景品の金額は原価で計算してよいですか?
- 原価では計算しません。消費者庁のQ&Aでは、受け取る人が通常購入するときの価格で、消費税を含めて算定するとされています(Q76・Q77)。
キャンペーン企画を1年で回すには?まず次の1回を5項目で書く
最初から1年分を完成させる必要はありません。次の1回を5項目で書き、終わったら数字を残すことから始めると、その記録が来年の年間販促計画の土台になります。
一方で、集客と人手のどちらを先に手当てするか、キャンペーンと商品やメニューの見直しをどう組み合わせるかは、店の中だけでは優先順位をつけにくいところです。事業全体を整理しながら実行まで進めたいときは、事業戦略顧問のような外部の伴走を選択肢に入れてみてください。
