文責:藤田 泰仁
コミュニティセールスは、集まりの場で売り込むことではなく、役に立つ関わりを続けて「この分野ならあの人」と思い出してもらう方法です。場を絞って役割を持ち、相談に乗り、紹介しやすい材料を渡す、という順番で進めます。接点とお礼の記録を残すと、成果が出るまでの長い期間でも打ち手を判断しやすくなります。
コミュニティセールスは「売る場」ではなく「思い出してもらう場」をつくる方法
コミュニティセールスとは、地域の経営者の集まりや業界団体、趣味や子育てのつながりなど、人が継続して集まる場の中で信頼を積み、紹介や相談からお客様を増やす方法です。広告のようにすぐ反応が出るものではありません。その代わり、信頼が先に伝わった状態で相談が来るため、価格だけで比べられにくいのが特徴です。始め方の順番は、1. 関わる場を2〜3か所に絞る、2. 場の中で役割を持つ、3. 売り込まずに相談に乗る、4. 紹介しやすい材料を渡す、5. 紹介してくれた人にお礼と結果を返す、の5段階。あわせて、誰とどんな話をしたかを記録しておくと、紹介が生まれるまでの長い期間でも、続けるべき場とやめる場を判断できます。
合同会社well coの藤田です。小規模事業者の方から「広告やWebだけに頼らずにお客様を増やしたい」「交流会に出ても名刺が増えるだけで仕事につながらない」という声をよく聞きます。特に、少人数のBtoB事業者、士業、地域のお店では、人のつながりから仕事が生まれる場面が少なくありません。この記事では、コミュニティセールスの意味、向いている業種、売り込みに見えない関わり方、紹介が生まれるまでの順番、記録の取り方を、経営者が自分で取り組める形でまとめます。
コミュニティセールスとは?ほかの集客方法と何が違う?
コミュニティセールスは、人が継続して集まる場での関わりを通じて、信頼と紹介を育てる売り方です。ここでいうコミュニティは、地域の経営者の会、業界団体、同業や異業種の勉強会、PTAや町内会、趣味のサークル、オンラインの会員グループなどを指します。大事なのは「一度きりの出会い」ではなく、同じ顔ぶれと何度も会う場であることです。
| 比べる点 | コミュニティセールス | 広告・Web集客 | 飛び込み・テレアポなどの営業 |
|---|---|---|---|
| 最初の接点 | 集まりの場での会話や、知人からの紹介 | 検索結果、SNS、広告 | こちらから突然連絡する |
| 成果が出るまで | 長め(数か月〜1年単位になることも) | 設定しだいで早く反応が出ることもある | 件数を重ねれば早く接点が作れる |
| 相談が来たときの状態 | 人柄や仕事ぶりを知ったうえで来る | 比較検討の途中で来る | 警戒されたところから始まる |
| 主なコスト | 会費・参加費と、関わる時間 | 広告費・制作費 | 人件費と時間 |
| 苦手なこと | 件数を一気に増やすこと | 信頼を短期間で伝えること | 嫌われずに続けること |
どれか一つが正解というより、組み合わせて使うものです。コミュニティで知り合った人も、相談の前にはたいてい名前で検索して確かめます。Webの受け皿があると、紹介が相談に変わりやすくなります。紹介と直接の問い合わせの両立については、紹介に頼りきらずに直接集客を足していく考え方でも解説しています。
コミュニティセールスが向いている業種は?
向いているのは、「誰に頼むか」で結果が変わり、お客様が頼む前に不安を感じやすい商売です。形のないサービスや、単価が高く失敗したくない買い物ほど、知人からの紹介や人柄を知っていることが決め手になりやすくなります。
| 業種の例 | 向いている理由 | 関わりやすい場の例 |
|---|---|---|
| 税理士・社労士・行政書士などの士業 | サービスが目に見えず、信頼して任せられるかが決め手になる | 地域の経営者の会、業界団体、創業者向けの勉強会 |
| コンサルタント・研修・コーチング | 相性や考え方が合うかを、話してみないと判断しにくい | 異業種の勉強会、オンラインの会員グループ |
| 少人数のBtoB事業者(制作・IT・設備など) | 発注先を変えるのが手間で、知っている会社を選びたくなる | 同業・異業種の交流会、取引先の集まり |
| 地域のお店(飲食・整体・サロンなど) | 近所の口コミや知人の一言が来店のきっかけになる | 町内会、商店会、学校や子育てのつながり、地域のイベント |
| 住まい・介護など単価の高いサービス | 失敗したくない買い物なので、知人の評判を確かめたくなる | 地域の集まり、専門職どうしの連絡会 |
反対に、低価格でたくさん売る商品や、急いで件数を増やしたい時期には、コミュニティセールスだけでは足りません。成果が出るまでに時間がかかるため、資金や時間に余裕がない時期は、ほかの集客と並べて進めるのが現実的です。
どんなコミュニティに参加すればいい?
参加する場は、2〜3か所に絞るのがおすすめです。あちこちに顔を出すと、どこでも「たまに来る人」になり、信頼が積み上がりません。選ぶときは、次の4つを確かめましょう。
- 自社のお客様、またはお客様に近い人(お客様を紹介できる立場の人)が集まっているか
- 同じ顔ぶれと、月1回程度など定期的に会えるか
- 会費・参加費と、移動を含めた時間が、続けられる範囲か
- 自分が興味を持って関われるテーマか(売るためだけの参加は続かず、相手にも伝わります)
1つ目の「お客様に近い人」は見落としがちです。たとえば税理士なら、経営者だけでなく、創業を支援する人や、ほかの士業も紹介元になります。整体院なら、地域のスポーツクラブや子育てのつながりが接点になることもあります。直接のお客様がいなくても、お客様とよく会う人がいる場は候補に入れてよいでしょう。
売り込みに見えない関わり方とは?
売り込みに見えないコツは、「自分の商品の話」より「相手と場の役に立つこと」を先に出すことです。コミュニティの中では、売ろうとする人は警戒され、役に立つ人は思い出されます。具体的には、次の4つを意識します。
1. 場の中で小さな役割を持つ
受付、会場の準備、写真係、議事録づくりなど、小さな役割を引き受けると、自然に多くの人と話せます。役割があると「何をしている人か」より先に「頼りになる人」として覚えてもらえます。売り込みをしなくても名前を覚えてもらえる、いちばん確かな方法です。
2. 自己紹介は「誰の、どんな困りごとを助けるか」で話す
自己紹介で商品やサービスの説明を並べると、売り込みに聞こえます。代わりに「開業して間もないお店の、経理の困りごとを手伝っています」のように、誰のどんな困りごとを助けているかを一言で伝えましょう。聞いた人の頭に「あの人に合いそうな知り合い」が浮かびやすくなり、紹介のきっかけになります。
3. 相談には、仕事にしない範囲で答える
雑談の中で相談を受けたら、その場で営業に切り替えず、まずは一般的な考え方や、調べ方を答えます。「それなら、ここを見るとよいですよ」と公的な情報の場所を教えるだけでも十分に役立ちます。どこまで無料で答えるかの線は、先に自分で決めておくと迷いません。相手から「ちゃんと相談したい」と言われたときに、初めて仕事の話をします。
4. 自分からも人を紹介する
紹介をもらうより先に、自分から人と人をつなぐ側に回りましょう。「〇〇さんの困りごとなら、△△さんが詳しいですよ」とつなぐ人は、場の中で信頼されます。紹介は、もらうものというより、場の中で行き来するものと考えると、関わり方が自然になります。
| 売り込みに見えやすい行動 | 代わりにやること |
|---|---|
| 初対面でサービスの資料を渡す | 相手の仕事や困りごとを聞く |
| 名刺交換した全員に営業メールを一斉に送る | 話した内容に合わせて、お礼や役立つ情報を1人ずつ送る |
| 毎回の集まりでキャンペーンの告知をする | 場の運営や準備を手伝う |
| 相談された瞬間に見積もりの話をする | まず一般的な考え方を答え、求められたら仕事の話をする |
紹介が生まれるまでの順番は?
紹介は、知ってもらう → 信頼してもらう → 思い出してもらう → 紹介してもらう、の順で生まれます。途中を飛ばして「紹介してください」とお願いしても、相手は誰を紹介すればよいか分からず、困ってしまいます。段階ごとにやることを整理すると、次のようになります。
| 段階 | 相手の頭の中 | こちらがやること |
|---|---|---|
| 1. 知ってもらう | 見かけたことがある人 | 同じ場に定期的に参加し、役割を持つ |
| 2. 信頼してもらう | 話してみたら、しっかりした人 | 相談に誠実に答える、約束や時間を守る |
| 3. 思い出してもらう | 〇〇のことなら、あの人 | 誰のどんな困りごとを助けるかを、同じ言葉で伝え続ける |
| 4. 紹介してもらう | あの人なら紹介しても安心 | 紹介しやすい材料(一言の説明・紹介先の例・連絡方法)を渡す |
| 5. 次の紹介につなげる | 紹介してよかった | 紹介してくれた人に、お礼と、差し支えない範囲で経過を伝える |
現場でよくあるのは、4の段階で止まるケースです。信頼はされているのに、相手が「どんな人を紹介すればよいか」を説明できないため、紹介が起きません。そこで、「こういう状況の方がいたら、話を聞きます」と紹介先の例を具体的に伝えておきます。名前で検索されたときに、サービスの内容や相談の流れが分かるページがあると、紹介する側も安心して名前を出せます。
5の段階も大切です。紹介してくれた人は「紹介してよかったのか」を気にしています。お礼とあわせて、守秘の範囲を守りながら「無事にお話しできました」と伝えるだけで、次の紹介が起きやすくなります。
紹介のお礼や口コミのお願いで気をつけることは?
紹介へのお礼は気持ちとして大切ですが、謝礼を渡してSNSやレビューへの投稿をお願いする場合は、広告であることが分かる形にする必要があります。消費者庁のステルスマーケティングに関するページでは、2023年10月1日から、広告であるのに広告と分からない表示が景品表示法違反になったと説明されています。
同じページでは、事業者がインフルエンサーなどの第三者に依頼・指示した表示も広告に含まれ、規制の対象は依頼した側の事業者だとされています。コミュニティの知人に「投稿してくれたら割引します」とお願いするような場合も、気をつけたいところです。また、士業など資格によっては、紹介料や謝礼の扱いを所属団体の規程などで定めていることがあります。紹介のお礼の仕組みを作る前に、自分の業界のルールを確かめておきましょう。
コミュニティセールスの記録はどう取る?
記録は、名刺の束ではなく「誰と、どの場で、何を話したか」が後から分かる形で残します。コミュニティセールスは成果が出るまでに時間がかかるため、記録がないと、どの場が紹介につながっているのか分からなくなります。最低限、次の項目があれば十分です。
| 記録する項目 | 書き方の例 | あとで使う場面 |
|---|---|---|
| 出会った場 | 地域の経営者の会(10月例会) | どの場が紹介につながっているかを比べる |
| 相手の困りごと・関心 | 来年、2店舗目を考えている | 役に立つ情報や人を紹介するとき |
| こちらが渡したもの | 補助金の公募要領の場所を伝えた | 同じ話を繰り返さないため |
| 次の接点 | 11月の例会で会う予定 | 関わりが途切れないようにする |
| 紹介の流れ | Aさんの紹介でBさんから相談 | お礼を伝える相手を忘れないため、紹介元ごとの件数を見るため |
記録の道具は、表計算ソフトでも営業管理のツールでもかまいません。問い合わせや相談のたびに「どこから来たか」を書き添えておくと、紹介経由の比率も見えてきます。項目の決め方は、直販を始めた小規模事業者が最初に整える営業管理の記録の型も参考になります。
名刺などで得た連絡先を使うときは、個人情報のルールも確かめましょう。個人情報保護委員会のQ&A(Q4-16)では、従業者であることを明らかにして名刺を交換した場合、その連絡先に自社の広告宣伝の冊子やメールを送ることは「取得の状況からみて利用目的が明らか」な場合に当たると解されています。ただし同じ回答で、広告宣伝メールには特定電子メール法など、ほかの法令も守る必要があると注意されています。
総務省の特定電子メール法の解説ページでは、広告宣伝メールは原則として事前に同意した相手にだけ送れること、送信者の名称や受信拒否の連絡先を表示する義務があること、受信拒否の連絡を受けたら送ってはいけないことなどが説明されています。一斉配信を始めるなら、配信停止の方法を必ず入れておきましょう。売り込みに見えないためにも、法令を守るためにも、1人ずつの連絡を基本にするのが安心です。
成果はどう見ればいい?
成果は、売上だけでなく、その手前の数字で見ます。紹介や受注は数か月遅れて出てくるため、売上だけを見ていると「効果がない」と早くやめてしまいがちです。月に1回、次のような数字を振り返りましょう。
- 場ごとの参加回数と、じっくり話せた人数
- 雑談の中で受けた相談の件数
- 自分から人を紹介した件数
- 紹介や相談の件数と、その紹介元
- 紹介から仕事になった件数と金額
半年ほど続けても、相談も紹介も一度もない場は、お客様に近い人がいない場である可能性があります。参加する場を入れ替える目安にしましょう。反対に、相談は来るのに紹介にならない場合は、「誰を紹介してほしいか」の伝え方を見直すサインです。少人数のBtoBで、お客様ごとの関わり方の濃さを分ける考え方は、ハイタッチ営業でお客様を3段階に分ける方法にまとめています。
自分で進めるときに難しいところ
ここまでの手順は、経営者が自分で始められるものです。ただ、実際に進めると、次のようなところで手が止まりやすくなります。
- どの場に時間を使うべきか、ほかの集客とのバランスを決められない
- 「誰のどんな困りごとを助けるか」を一言にまとめられない
- 紹介で相談が来ても、商品の内容や価格が整理されておらず、成約しにくい
- 本業が忙しく、関わりや記録を続ける時間がとれない
特に2つ目と3つ目は、集客の問題に見えて、実は「誰に、何を、どう届けるか」という事業の設計に関わる部分です。コミュニティでの関わり方を考えることが、事業全体を見直すきっかけになることも珍しくありません。
まとめ
コミュニティセールスは、集まりの場で売り込むことではなく、役に立つ関わりを続けて「この分野ならあの人」と思い出してもらう方法です。場を2〜3か所に絞り、小さな役割を持ち、相談に乗り、自分からも人をつなぐ。そのうえで紹介しやすい材料を渡し、紹介してくれた人にお礼と経過を返す。この順番を守ると、売り込みに見えないまま紹介が生まれやすくなります。接点と紹介の流れを記録しておけば、時間がかかる取り組みでも、続ける場とやめる場を判断できます。
とはいえ、どの場にどれだけ時間を使うか、Webなどほかの集客とどう組み合わせるか、紹介で来た相談を受け止める商品や価格をどう整えるかまで、一人で決めるのは難しいものです。当社の事業戦略顧問では、集客だけでなく商品設計や業務改善も含めて、経営者と一緒に優先順位を整理し、実行まで伴走しています。人のつながりを活かした集客を、事業全体の中でどう位置づけるか整理してみたいと感じた方は、気軽にご相談ください。
よくある質問
- コミュニティセールスと紹介営業は同じですか?
- 重なる部分は大きいですが、少し違います。紹介営業は、紹介をもらうこと自体に重きを置いた言い方です。コミュニティセールスは、継続して集まる場での関わりを通じて信頼を育て、その結果として紹介や相談が生まれる、という流れ全体を指すことが多い言葉です。
- 交流会に出ても仕事につながらないのはなぜですか?
- 一度きりの交流会では、知ってもらう段階で止まりやすいからです。同じ顔ぶれと定期的に会える場に絞り、役割を持って関わると、信頼してもらう・思い出してもらう段階まで進みやすくなります。参加者にお客様やお客様に近い人がいるかも確かめましょう。
- 成果が出るまで、どのくらいかかりますか?
- 業種や場の性質、関わる頻度によって大きく変わるため、一律には言えません。売上より先に、相談の件数や紹介元の数といった手前の数字を月1回振り返ると、続けるべきかどうかを判断しやすくなります。
- 名刺交換した相手にメールマガジンを送ってもよいですか?
- 個人情報保護委員会のQ&Aでは、従業者であることを明らかにして交換した名刺の連絡先に自社の広告宣伝メールを送ることは、利用目的が明らかな場合に当たると解されています。ただし特定電子メール法など、ほかの法令も守る必要があります。送信者の表示や配信停止の方法を入れ、迷うときは総務省の解説を確認してください。
- 紹介してくれた人にお礼を渡してもよいですか?
- お礼の気持ちを伝えること自体は大切です。ただし、謝礼を条件にSNSやレビューへの投稿をお願いする場合は、広告と分かる形にする必要があります。また、士業など業界によっては紹介料の扱いに独自のルールがあるため、所属団体の規程を確かめてください。
出典:消費者庁「ステルスマーケティングに関する景品表示法」/個人情報保護委員会「名刺交換により取得した連絡先に対して、自社の広告宣伝のための冊子や電子メールを送ることはできますか。」/総務省「特定電子メール法」
