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美容室の内装は坪単価だけで比べない|居抜きとスケルトンの総額の見方

2026.11.04

文責:藤田 泰仁

美容室の内装は、坪単価ではなく「開業から退去までにかかる総額」で比べるのが確実です。居抜きは工事費を抑えやすい反面、造作譲渡料や設備の手直し・退去時の原状回復で差が出やすいので、同じ項目をそろえた見積もりで総額を並べてから判断しましょう。

美容室の内装は、坪単価ではなく「総額」で比べる

美容室の内装の坪単価とは、内装工事費を店の広さ(坪数)で割った目安の金額のことで、見積もりに含まれる範囲が業者や物件ごとに違うため、坪単価だけでは安い・高いを判断できません。給排水や電気容量の工事、シャンプー台などの器具、退去時の原状回復まで含めた「総額」で比べることが大切です。開業費用は全業種の平均で975万円、中央値で600万円です(日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」2025年12月5日)。同じ調査では、開業時に苦労したことの1位が「資金繰り、資金調達」(56.9%)でした。内装は開業費用のなかでも大きな項目になりやすく、比べ方を誤ると資金計画全体がずれます。

美容室の物件を探していると、「居抜きなら坪単価が安い」「スケルトンは高い」という話をよく耳にします。ただ、坪単価はあくまで工事費の一部を広さで割った数字です。この記事では、居抜きとスケルトンの違いを整理したうえで、開業から退去までの総額をどう出し、見積もりをどう比べるかを順番に解説します。

美容室の居抜きとスケルトンは何が違う?

居抜きとスケルトンの違いは5点で、「引き渡し時の状態」「前の店への支払い」「工事の自由度」「設備のリスク」「退去時の扱い」です。

比べる点居抜き物件スケルトン物件
1. 引き渡し時の状態前の店の内装・設備・器具が残っている床・壁・天井の仕上げや設備がなく、建物の骨組みに近い状態
2. 前の店への支払い造作譲渡料がかかることがある(無償の場合もある)基本的にない
3. 工事の自由度既存の配管や配置に合わせる部分が出やすい席数・動線・デザインを一から決められる
4. 設備のリスク給湯器や配管の古さ、故障に気づきにくい新しく入れるため状態は把握しやすいが、工事費は大きくなりやすい
5. 退去時の扱い契約によっては、居抜きで入ってもスケルトンに戻す義務が残るスケルトンに戻す契約なら、自分で入れた内装の解体費を見込む

居抜き物件とは、前の店の内装や設備が残ったまま引き渡される物件のことです。スケルトン物件とは、内装や設備を取り払い、建物の構造に近い状態で引き渡される物件のことです。居抜きは「最初の工事費」が下がりやすい一方、2・4・5の点で後から費用が出ることがあります。どちらが得かは、物件ごとに総額を並べてみないと分かりません。

造作譲渡とは?居抜きで払うお金の正体

造作譲渡とは、前の店が設けた内装や設備(造作)を、新しく入る人が買い取ることです。造作譲渡の契約は前の店(前の借り主)と結び、物件の賃貸借契約は貸主と結ぶため、居抜きでは契約が2本になるのが基本です。残っている設備がリース品で前の店のものではない場合や、貸主が造作の引き継ぎを認めていない場合もあります。譲渡の対象になる設備の一覧と、貸主の承諾を書面で確かめてから金額を判断しましょう。

美容室の内装の坪単価は、なぜ見積もり同士で比べにくい?

坪単価が比べにくいのは、「どこまでを内装工事費に含めるか」が業者や見積もりごとに違うからです。坪は面積の単位で、1坪は約3.3平方メートルです。たとえば同じ坪単価でも、片方の見積もりには給排水や電気の工事が入っていて、もう片方には入っていない、ということが起こります。

美容室の場合、内装の仕上げ以外に、シャンプー台のための給排水と給湯、ドライヤーや加温機器を同時に使うための電気容量、薬剤のにおいに対応する換気など、設備にかかる費用が大きくなりがちです。見積もりを受け取ったら、次の項目が「どの金額に含まれているか」を一つずつ確かめてください。

費用の項目坪単価に含まれないことがある理由確かめ方
設計・デザイン費工事費とは別に設計料として出されることがある設計料が別建てか、工事費に込みかを聞く
給排水・給湯・ガス工事設備工事として別の業者・別の見積もりになることがあるシャンプー台の台数と位置を伝え、配管工事が入っているか確かめる
電気容量の増設建物側の工事や貸主の承諾が必要で、内装見積もりから外されやすい使う機器を一覧にし、今の容量で足りるか業者に確認してもらう
空調・換気既存設備を使う前提で見積もられることがある台数・能力と、薬剤のにおい対策を含むかを聞く
美容器具(シャンプー台・セット面・いす)内装業者ではなく、器具の販売会社から買う場合がある器具の購入費と、設置工事費がどちらに入るかを分けて確かめる
看板・外装建物の外側の工事は別扱いになりやすい看板の設置に貸主の承諾が要るかも含めて確かめる
解体・撤去(居抜きの不要な造作)残っている内装を壊す費用は、新しい工事と別に出ることがある残すもの・撤去するものを図面に書き込んで見積もりを依頼する

現場でよくあるのが、坪単価が安い見積もりを選んだあとで、配管や電気の工事が「別途」だったと分かるケースです。見積書に「別途」「別途工事」「施主支給」と書かれた行は、総額から抜けている費用です。見積もりの段階で、別途の項目を一覧にしてもらいましょう。

美容室の内装の総額は、どの順番で出せばいい?

総額は、物件を借りてから退去するまでにかかるお金を6つに分けて足し合わせると出せます。居抜きとスケルトンで比べるときは、この6項目を同じ並びでそろえることがポイントです。

  • 1. 物件を借りる費用(保証金・敷金、仲介手数料、前家賃など)
  • 2. 居抜きの場合の造作譲渡料
  • 3. 内装・設備工事費(解体、給排水、電気、空調・換気を含む)
  • 4. 美容器具・備品の購入費
  • 5. 開業前後の運転資金(家賃、人件費、集客にかかる費用)
  • 6. 退去時の原状回復費用(契約で決まっている範囲)

居抜きで差が出やすいのは2と3、スケルトンで差が出やすいのは3と6です。坪単価で見ているのは3の一部だけなので、残りの5項目を加えると順位が入れ替わることも珍しくありません。また、5の運転資金を内装に回してしまうと、開業後の集客や人件費の余裕がなくなります。内装の予算は、総額の中で「ほかの項目を削らずに出せる額」から逆算して決めると安全です。

総額が見えてきたら、自己資金でまかなう分と、借り入れや補助金でまかなう分を分けて考えます。融資と補助金の性格の違いは、開業1〜3年目の資金調達|創業融資と補助金の違いと使い分け方で詳しく整理しています。

居抜き物件で美容室を開くとき、契約前に何を確かめる?

この段階のゴールは、「残っている設備がそのまま使えるか」と「後から何にお金がかかるか」を、契約前に見極めることです。

  • 給湯器・シャンプー台・配管の年数と動作を、業者に立ち会ってもらって確かめる
  • 造作譲渡の対象品の一覧と、リース品が含まれていないかを書面で確かめる
  • 退去時にスケルトンに戻す義務があるかを、賃貸借契約書の原状回復の条項で確かめる

前の店が美容室だった居抜きは、シャンプー台の位置や給排水がそのまま使える可能性があり、工事費を抑えやすい物件です。一方で、給湯器の能力が予定する席数に足りない、排水の流れが悪い、といった点は、内見だけでは気づきにくいところです。内装業者に契約前の現地確認を頼み、「手直しが必要な設備」と「その概算」を出してもらってから、造作譲渡料が見合うかを判断しましょう。

また、前の店が美容室であっても、保健所の手続きが不要になるわけではありません。美容室(美容所)は、開設する前に届け出て、構造設備が基準に合っているかの検査確認を受けてから使うことが美容師法で定められています(第11条・第12条)。開設する人が変わる場合の扱いや、自治体ごとの基準は、出店先の保健所で必ず確かめてください。工事の前に保健所へ相談する流れは、美容室の開業で保健所に行く時期は?工事前の相談から届出までの順番にまとめています。

スケルトン物件で美容室を開くとき、どこに費用がかかる?

スケルトン物件で費用が大きくなりやすいのは、仕上げよりも「水・電気・空気」の設備工事です。美容室はシャンプー台の給排水と給湯、多くの電気機器、換気が欠かせないため、物件の元の設備によって工事の量が大きく変わります。

  • 給排水:シャンプー台の位置まで配管を引けるか、床を上げて排水の勾配を取る必要があるか
  • 電気:ドライヤーや加温機器を同時に使っても足りる容量か、増やすには貸主や電力会社の手続きが要るか
  • 換気・空調:薬剤のにおいや湿気を逃がせるか、既存の空調で足りるか

スケルトンの強みは、席数や動線、お客様の待ち方まで、店のコンセプトに合わせて一から設計できることです。保健所の構造設備の基準にも、最初から合わせて設計できます。たとえば神戸市の資料「理容所、美容所の開設手続について」では、作業場の床面積を作業いすの数に応じて定めているほか、温水を出せる洗髪設備や流水式の手洗い設備などを求めています。基準を満たすための設備は、坪単価の比較とは別に、必ず見積もりに入っているか確かめましょう。

退去時の原状回復は、美容室の内装の総額にどう影響する?

退去時の原状回復は、入居時には払わなくても、いずれ必ず向き合う費用なので、総額に含めて比べる必要があります。民法第621条は、借り主が退去するときに、借りたあとに生じた損傷を元に戻す義務(原状回復義務)を定めています。ただし店舗の賃貸借では、契約の特約で「スケルトンの状態に戻して返す」などと範囲が決められていることがあり、実際にどこまで戻すかは契約書の内容で決まります。

注意したいのは、居抜きで入った場合です。前の店の造作をそのまま引き継いでも、契約上は「スケルトンに戻して返す」となっていれば、退去時には前の店の分も含めて解体する費用がかかることがあります。入居時の安さだけで判断せず、契約書の原状回復の条項を読み、退去時に想定される工事を内装業者に見てもらっておくと、総額の見通しが立ちます。

内装工事費は会計上どう扱われる?

借りた店舗に行った内装工事は、一度に経費にするのではなく、減価償却という方法で複数年に分けて費用にするのが原則です。国税庁の耐用年数の通達(第1章 耐用年数関係総論 1-1-3)では、他人の建物に行った造作は、建物の耐用年数や造作の種類・用途などを考えて合理的に見積もった年数で償却するとしています。賃借期間の定めがあって更新できないなど、一定の条件を満たす場合は賃借期間を耐用年数にできるとも定めています。自分の店に当てはまるかは、契約書を持って税理士に確認しましょう。

美容室の内装の見積もりを比べるとき、何をそろえる?

見積もりを比べるときは、「同じ条件で出してもらうこと」と「別途の項目を総額に足すこと」の2つをそろえれば、坪単価に振り回されずに判断できます。依頼の前に、次の項目を紙1枚にまとめて各社に渡しましょう。

  • セット面とシャンプー台の台数、スタッフの人数(開業時と1〜2年後の予定)
  • 使う予定の電気機器と、同時に使う台数
  • 残す造作・撤去する造作(居抜きの場合)
  • 設計料・設備工事・器具・看板を見積もりに含めるかどうか
  • 「別途」となる項目をすべて書き出してもらうこと
  • 工期と、保健所の検査日・開業予定日との関係

条件をそろえて集めた見積もりは、先ほどの6項目の表に当てはめて総額を並べます。そのうえで、内装に使える金額が事業計画とつながっているかを確かめます。売上の見込みと借入の返済、内装費の関係を1つの計画にまとめる方法は、新事業の創業計画書の書き方|小規模事業者が動機から資金計画まで整理で解説しています。

美容室の内装費を、事業全体の判断とつなげるには

内装の総額を出す作業そのものは、この記事の手順で経営者が自分で進められます。難しいのは、その金額が「店の目指す姿」と「開業後の集客や人の計画」に対して妥当かを判断することです。たとえば、内装にこだわって客単価の高い店にするのか、内装を抑えて集客と人材に回すのかで、物件の選び方も見積もりの読み方も変わります。

居抜きかスケルトンかは、内装だけの問題ではなく、どんなお客様に、どんな体験を届けるかという事業の方針から決まる選択です。数字の比較と並行して、その方針を言葉にしておくと、迷ったときの判断がぶれにくくなります。

まとめ

美容室の内装の坪単価は、見積もりに含まれる範囲が違うため、それだけでは比べられません。居抜きとスケルトンは、物件を借りる費用、造作譲渡料、内装・設備工事費、器具、運転資金、退去時の原状回復の6項目で総額を並べて比べましょう。居抜きは設備の状態と原状回復の条項、スケルトンは給排水・電気・換気の工事量が、総額を左右しやすいポイントです。

内装の金額を決めることは、集客や採用、資金繰りをどう組み立てるかを決めることでもあります。当社の事業戦略顧問では、事業戦略・集客・業務改善をまとめて見ながら、経営者と一緒に優先順位を整理し、実行まで伴走しています。「物件と内装の判断を、開業後の計画まで含めて一度整理したい」と感じた方は、気軽にご相談ください。

よくある質問

美容室の内装は、居抜きとスケルトンのどちらが安いですか?
入居時の工事費は居抜きのほうが下がりやすいですが、総額でどちらが安いかは物件ごとに違います。造作譲渡料、設備の手直し、退去時にスケルトンへ戻す費用まで含めて比べてから判断しましょう。
坪単価が安い見積もりを選べば、内装費は抑えられますか?
坪単価が安くても、総額が安いとは限りません。給排水や電気容量の工事、器具、看板などが「別途」になっていると、あとから費用が加わります。別途の項目をすべて書き出してもらい、総額で比べてください。
前の店が美容室の居抜きなら、保健所の手続きは不要ですか?
不要にはなりません。美容師法では、美容所を開設する前に届け出て、構造設備の検査確認を受けることが定められています。開設する人が変わる場合の扱いは、出店先の保健所で確かめてください。
居抜きで入った店でも、退去時にスケルトンに戻す必要がありますか?
賃貸借契約の内容によっては、戻す必要があります。原状回復の範囲は契約書の特約で決まることがあるため、契約前に原状回復の条項を確かめ、退去時の費用も総額に入れておきましょう。

出典(2026年11月4日確認):日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」アンケート結果の概要(2025年12月5日)/e-Gov法令検索「美容師法」/e-Gov法令検索「民法」/神戸市「理容所、美容所の開設手続について」/国税庁「耐用年数の適用等に関する取扱通達 第1章 耐用年数関係総論」

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