文責:藤田 泰仁
創業計画書は、書類の上手さより「動機・経験・商品・お客様・資金計画」がひとつの筋でつながっているかが大切です。まず5W2Hでアイデアを整理し、動機と経験で「なぜ自分が」を、商品とお客様で「誰に何を」を固めてから、売上の根拠と必要な資金を数字にする順番で進めると、無理なく書き上げられます。
創業計画書の書き方は「動機・経験・商品・お客様・資金計画」の5つを順に固めること
創業計画書は、事業を始める理由と中身、必要なお金を1枚にまとめる書類です。日本政策金融公庫(以下、公庫)の様式は、創業の動機、経営者の略歴、取扱商品・サービス、取引先、従業員、借入の状況、必要な資金と調達方法、事業の見通しなどの欄で構成されています。欄は多く見えますが、考えることは「なぜ自分がやるのか(動機・経験)」「誰に何を売るのか(商品・お客様)」「いくら必要で、どう回るのか(資金計画)」の3つに集約できます。公庫は自己資金よりも、創業計画全体がしっかりしているかが重要だと案内しています。5つの項目を、ひとつの筋でつながるように整理するのが書き方の基本です。
合同会社well coの藤田です。これから起業する方や、今の事業とは別に新しい事業を始める方から「創業計画書を前にして手が止まってしまう」という声をよく聞きます。手が止まる理由の多くは、書き方が分からないからではなく、書く前に考えておくことが整理できていないからです。この記事では、公庫の様式や公的な資料をもとに、創業計画書で問われる項目を「何を考えておけば書けるか」の順番で整理します。
創業計画書とは?何のために書くのか
創業計画書は、融資の申し込みで使われるだけの書類ではありません。公庫の創業支援サイトに掲載されたコラム「創業計画書 はじめの一歩」では、計画書を作るメリットとして、事業の内容や強み・弱みを整理できること、欠けていた視点に気づけること、家族や金融機関など関係者の協力を得やすくなること、創業後に見込み違いに早く気づけることを挙げています。
融資の場面では、創業計画書は面談のたたき台になります。公庫の創業予定の方向けの手続き案内によると、面談では創業計画書をもとに資金の使いみちや事業計画について話を聞かれます。つまり、書いた内容を自分の言葉で説明できることが前提です。上手な文章よりも、中身を自分で考え抜いておくことのほうが大切です。
創業計画書にはどんな項目がある?考えることとの対応表
公庫の様式は、国民生活事業の各種書式ダウンロードページからExcel版とPDF版を入手できます。同じページには、洋風居酒屋・美容業・学習塾・介護サービスなど業種別の記入例と「創業計画書セルフチェックリスト」も載っています。様式の主な欄と、その欄を書くために考えておくことを表にまとめました。様式は改訂されることがあるため、実際に書くときは最新版で確かめてください。
| 様式の主な欄 | この記事での整理 | 書く前に考えておくこと |
|---|---|---|
| 創業の動機 | 1. 動機 | なぜこの事業を、なぜ今、なぜこの場所で始めるのか |
| 経営者の略歴など | 2. 経験 | これまでの仕事や準備が、この事業のどこに生きるのか |
| 取扱商品・サービス | 3. 商品 | 何を、いくらで、どんな特徴で売るのか。競合と比べた違いは何か |
| 取引先・取引関係など | 4. お客様 | 誰に売るのか。仕入先や外注先はどこか |
| 従業員 | 5. 資金計画(人件費) | 誰と一緒に働くのか。家族か、雇う人か |
| お借入の状況 | 5. 資金計画 | 今ある借入の内容と、毎月の返済額 |
| 必要な資金と調達方法 | 5. 資金計画 | 何にいくら使い、そのお金をどこから用意するのか |
| 事業の見通し | 5. 資金計画 | 毎月の売上と経費の見込み、その計算の根拠 |
表のとおり、欄の数は多くても、考えることは5つに整理できます。ここからは、この5つを考える順番に沿って解説します。
書く前に何をする?アイデアを5W2Hで1枚にまとめる
いきなり様式に書き込むより、先にアイデアを短くまとめておくと進めやすくなります。前述の公庫のコラムでは、アイデアを「5W2H」で簡単な企画書にまとめる方法を紹介しています。5W2Hとは、物事を抜け漏れなく整理するための問いの型です。
- Why(目的):なぜこの事業をするのか
- Who(誰に):どんなお客様に届けるのか
- What(何を):どんな商品・サービスを売るのか
- Where(どこで):店舗、オンライン、訪問など、どこで売るのか
- When(いつ):いつ始めるのか、どんな時間帯や季節に売れるのか
- How(どのように):どうやって知ってもらい、買ってもらうのか
- How much(価格):いくらで売るのか
この時点では、きれいに書けなくてかまいません。1枚にまとめてみると、「お客様がまだぼんやりしている」「価格を決めていなかった」など、考えが足りない部分が見えてきます。そこが、創業計画書を書く前に詰めておく場所です。
1. 創業の動機には何を書けばいい?
創業の動機は、「なぜこの事業を、なぜ自分が、なぜ今始めるのか」を書く欄です。「独立したかった」「好きなことを仕事にしたい」だけでは、読み手に事業の姿が伝わりません。気づいたきっかけ、そこから準備してきたこと、始めると決めた理由を、順番に並べるのがコツです。
- きっかけ:仕事や生活のなかで、どんな困りごとや不便に気づいたのか
- 準備:そのために何を調べ、何を学び、誰に話を聞いたのか
- 決断:なぜ今のタイミングで、なぜこの場所で始めるのか
新事業の場合も同じです。今の事業のお客様から繰り返し同じ要望を受けていた、本業で培った技術が別の分野でも求められている、といった「事業の外から見ても納得できる理由」があると、計画全体に筋が通ります。
2. 経営者の経験はどう書く?事業との結びつきを示す
経験の欄では、職歴を並べるだけでなく、その経験がこの事業のどこに生きるのかを書きます。同じ業界での経験があれば、年数や担当した仕事を具体的に書きましょう。業界の経験がなくても、接客、仕入れ、スタッフのシフト管理、売上の管理など、事業を回すうえで役立つ経験は書けます。資格がある場合は取得した年月も添えます。
現場でよくあるのが、経験の欄と動機の欄が別々の話になってしまうケースです。「動機で語った困りごとに、この経験があるから応えられる」という形でつながっていると、読み手は事業の実現性をイメージしやすくなります。経験が足りないと感じる部分は、開業前に同業で働く、講座で学ぶ、詳しい人と組むなど、どう補うかもあわせて書いておくと説得力が増します。
3. 商品・サービスの欄で押さえるべきことは?
商品・サービスの欄では、何を、いくらで売るのかと、その特徴(セールスポイント)を書きます。公庫の業種別の記入例でも、商品名だけでなく価格帯や客単価まで書かれています。「こだわりの〇〇」といった言葉だけでなく、価格・量・提供方法など、読み手が具体的に思い浮かべられる情報を入れましょう。
商品とお客様の組み合わせが合っているかを確かめる
公庫のコラム「『誰に?』『何を?』『どのように?』事業内容を整理しよう!」では、事業内容を「4P」で整理する考え方を紹介しています。4Pとは、Product(商品)、Price(価格)、Place(立地・売る場所)、Promotion(販売促進)の頭文字です。コラムでは、ターゲットと4Pの組み合わせが合っていなければ、良い商品でも売れないとしています。
| 4P | 考えること | 創業計画書での書き方の例 |
|---|---|---|
| Product(商品) | 主な商品・サービスと、その特徴 | 主力メニュー、提供時間、ほかにない特徴 |
| Price(価格) | 価格の水準。1回ごとか、月額の定額か | 価格帯、客単価、競合の価格との比較 |
| Place(売る場所) | 立地、オンライン販売などの売り方 | 立地を選んだ理由、店舗とオンラインの使い分け |
| Promotion(販売促進) | どうやって知ってもらうか | 開業前後の告知方法、口コミ、チラシ、SNSなど |
競合のことも、この欄でふれておきたいポイントです。近くに同じような店やサービスがあるか、そことどう違うのかを、実際に調べたうえで書きましょう。調べ方は小規模事業者向けの新事業の市場調査のやり方で詳しく解説しています。
4. お客様と取引先はどこまで具体的に書く?
お客様は、「30代女性」のような年齢や性別だけでなく、どんな価値観や暮らし方をしている人かまで言葉にできると、計画全体がぶれにくくなります。前述の公庫のコラムでも、最初は年齢・性別で考えていたお客様像を、「来てほしい人」に共通する価値観から捉え直す例が紹介されています。
取引先の欄には、販売先、仕入先、外注先を書きます。まだ開業前でも、見込みの販売先や、すでに話をしている仕入先があれば書けます。法人向けの事業なら、取引を約束してくれている相手がいるかどうかは、売上の見通しを支える大きな根拠になります。代金をいつ受け取り、いつ支払うのか(回収と支払いの条件)も確かめておくと、あとで資金計画を立てるときに役立ちます。
5. 資金計画と事業の見通しはどう作る?
資金計画は「何にいくら必要か」と「そのお金をどこから用意するか」を、左右で同じ金額にそろえて書きます。そのうえで、事業の見通しの欄に毎月の売上と経費、利益の見込みを書き、その計算の根拠を添えます。ここまでの4項目で考えた内容を、数字に置きかえる作業だと考えると進めやすくなります。
必要な資金は「設備資金」と「運転資金」に分ける
公庫のコラム「事業計画を数字にする」では、必要な資金を2つに分けて整理しています。設備資金は、内装工事や機械・備品、店舗の保証金など、事業を始めるときにまとめてかかるお金です。運転資金は、家賃や水道光熱費など、事業を始めてから毎月かかり続けるお金です。コラムの喫茶店の例では、運転資金を固定的な経費の3か月分として見積もっています。
| 区分 | 主な中身 | 見積もりのポイント |
|---|---|---|
| 設備資金 | 内外装工事、機械・備品、パソコン、保証金など | 見積書をとり、金額の根拠を残しておく |
| 運転資金 | 家賃、水道光熱費、広告宣伝費、仕入代金など | 売上が育つまでの数か月分を見込んでおく |
| 調達方法 | 自己資金、親族・知人からの借入、金融機関からの借入など | 必要な資金の合計と同じ金額になるようにそろえる |
自己資金(自分で用意したお金)について、公庫の創業支援のQ&Aは、創業資金の総額に占める自己資金の割合が平均で2割程度だと紹介しています。ただし、自己資金は大切な要素のひとつとしつつ、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要だとしています。融資と補助金の違いや組み合わせ方は、創業融資と補助金の違いと使い分け方でまとめています。
売上の見込みは「掛け算」で根拠を示す
事業の見通しの欄でいちばん大切なのは、売上の数字に根拠があることです。公庫の美容業向けの創業の手引では、売上予測を「客単価3,950円×美容椅子2台×1日4.5回転×25日=88万円」のように、要素の掛け算で示しています。業種によって掛け合わせる要素は変わります。
- 店舗型(飲食・美容など):客単価 × 席数(台数) × 回転数 × 営業日数
- 予約型(整体・教室など):単価 × 1日の対応人数 × 営業日数
- 法人向け:1社あたりの取引額 × 取引社数
開業してすぐは、見込みどおりにお客様が来ないことも少なくありません。前述の「事業計画を数字にする」でも、創業当初と軌道に乗ったあとで売上の見込みを分けて計算しています。最初の数か月は控えめな数字で計算し、それでも資金が足りるかを確かめておきましょう。
赤字にならない売上(損益分岐点)を出しておく
損益分岐点売上高とは、事業が赤字にならない最低限の売上のことです。公庫のコラム「赤字にならない売上はいくら?」では、「経費の合計÷売上総利益率」で求める方法を紹介しています。売上総利益率とは、売上から仕入などの原価を引いた利益が、売上に占める割合です。コラムの例では、毎月の経費41万円、売上総利益率70%なので、損益分岐点売上高は約58.6万円になります。借入の返済分も確保したい場合は、返済額を経費に足して計算します。
この数字が分かると、「1日に何人のお客様が来れば赤字にならないか」が見えてきます。売上の見込みが損益分岐点を大きく上回らない場合は、価格や経費、売り方を見直すきっかけになります。開業後も毎月の数字を同じ見方で確かめていくと、見込みとのずれに早く気づけます。方法は月次レポートをA4一枚で作る方法で紹介しています。
すでに事業をしている人が新事業の計画書を書くときの注意点は?
すでに事業をしている小規模事業者が新しい事業を始める場合も、考える5つの項目は変わりません。ただし、今の事業との関係をはっきりさせておく必要があります。特に次の3点は、書く前に整理しておきましょう。
- 今の事業の強み(お客様、技術、設備、人のつながり)のうち、新事業で何を生かすのか
- 新事業に使う時間と人手を、どこから捻出するのか。今の事業の手が回らなくならないか
- 新事業の売上と経費を、今の事業と分けて見られるようにするか
現場で見落とされやすいのは、2つ目の「時間と人手」です。新事業の計画は立てたものの、経営者が今の事業で手一杯で、新事業が思うように進まないケースは少なくありません。融資の種類によって求められる書類が違う場合もあるため、申し込み先には早めに確かめておきましょう。
書き終えたら何を確かめる?提出前のチェックポイント
書き終えたら、項目どうしのつじつまが合っているかを見直します。公庫の書式ダウンロードページにある「創業計画書セルフチェックリスト」もあわせて使うと、抜け漏れに気づきやすくなります。
- 動機で書いた困りごとと、商品・サービスの中身がつながっているか
- 経験の欄に、その事業を回せると思える根拠があるか
- お客様像と、価格・売る場所・告知の方法が合っているか
- 売上の見込みに、掛け算の根拠が書かれているか
- 必要な資金の合計と、調達方法の合計が一致しているか
- 控えめな売上でも、運転資金が数か月もつか
- 書いた内容を、面談で自分の言葉で説明できるか
開業までの全体の段取りは、起業の手順を解説した記事にまとめています。創業計画書はその途中で作るものなので、ほかの準備と並べてスケジュールを組むと進めやすくなります。
まとめ
創業計画書の欄は多く見えますが、考えることは「動機・経験・商品・お客様・資金計画」の5つです。まず5W2Hでアイデアを1枚にまとめ、動機と経験で「なぜ自分が」を、商品とお客様で「誰に何を」を固めます。そのうえで、売上の根拠を掛け算で示し、必要な資金と調達方法、損益分岐点を数字にしましょう。様式や記入例、セルフチェックリストは公庫のサイトで手に入るので、最新版を手元に置いて進めるのがおすすめです。
ひとつずつの項目は自分で書けても、「どの商品から始めるか」「集客にどれだけ力とお金をかけるか」「今の事業とどう両立させるか」といった優先順位の判断は、一人だと決めきれないことがあります。当社の事業戦略顧問では、新事業の立ち上げや資金調達の相談も含めて、事業戦略・集客・業務改善をまとめて見ながら、経営者と一緒に計画を整理し、実行まで伴走しています。「計画の筋が通っているか、一度外の目で確かめたい」と感じた方は、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 創業計画書は、公庫の様式でなければいけませんか?
- 公庫は、創業計画書の様式をWebサイトで公開しています。ほかの金融機関や自治体の制度では、独自の様式や事業計画書を求められることもあります。申し込む先が指定する様式があるかを、事前に確かめてください。
- 業界の経験がないと、創業計画書は書けませんか?
- 書けます。接客や売上管理、スタッフのまとめ役など、事業を回すうえで役立つ経験は業界が違っても生かせます。足りない経験を、開業前にどう補うか(同業で働く、学ぶ、詳しい人と組むなど)もあわせて書いておくと、計画の実現性が伝わりやすくなります。
- 売上の見込みは、どのくらい控えめにすればいいですか?
- 決まった割合はありません。開業当初と軌道に乗ったあとで分けて計算し、開業当初の控えめな売上でも運転資金が数か月もつかを確かめるのが一つの方法です。あわせて損益分岐点売上高を出しておくと、最低限必要な売上が分かります。
- 自己資金が少ないと、計画書を書いても意味がありませんか?
- 公庫は、自己資金は重要な要素の一つとしつつ、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要だと案内しています。創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度とされているので、一つの目安にしながら、計画の中身を固めることに力を入れましょう。
出典:日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード(国民生活事業)」/日本政策金融公庫「START 政策金融公庫の創業支援 Q&A」/日本政策金融公庫「創業予定の方 ご利用の手続き」/日本政策金融公庫「創業の手引(美容業)」/日本政策金融公庫 コラム「創業計画書 はじめの一歩」/同「『誰に?』『何を?』『どのように?』事業内容を整理しよう!」/同「事業計画を数字にする」/同「赤字にならない売上はいくら?損益分岐点売上高と売上高目標」
