文責:藤田 泰仁
飲食店の開業手続きで見落としやすいのは、深夜0時以降にお酒を出す場合の警察署への届出、店を使い始める前の消防署への届出、人を雇ったときの労働保険・社会保険の届出の3つです。どれも保健所の営業許可とは窓口も期限も別なので、開業日から逆算して一つの表で管理すれば抜けを防げます。
飲食店の開業手続きで見落としやすいのは「保健所以外」の3つの届出
飲食店の開業手続きで見落としやすいのは、保健所の営業許可とは窓口が別になる「深夜酒類」「消防」「労務」の3つの届出です。深夜0時以降にお酒を出す店は、営業を始める日の10日前までに届け出る必要があります(兵庫県警察「Q&A 許認可・各種届出等に関すること」)。店を使い始めるときは消防署に届け出ます。西宮市消防局は、使用開始の7日前までの提出を案内しています。人を雇ったら、労働保険の保険関係成立届を10日以内に労働基準監督署へ出します(兵庫労働局「労働者を雇用したとき」)。窓口も期限もばらばらなので、開業日から逆算して一つの表で管理するのが確実です。
飲食店の開業では、食品衛生法にもとづく保健所の営業許可が中心になります。そのため「保健所の許可さえ取れば営業できる」と考えてしまいがちです。しかし実際には、営業時間や店の広さ、スタッフを雇うかどうかによって、警察署・消防署・労働基準監督署・ハローワーク・年金事務所・税務署への届出も必要になります。この記事では、見落としやすい届出を、期限と提出先がひと目で分かる形に整理します。
飲食店の開業手続きで、保健所以外に必要な届出は何がある?
保健所以外の届出は、警察署・消防署・労務関係の窓口・税務署の4か所に分かれます。届出ごとの違いは3点で、「どこに出すか」「いつまでに出すか」「すべての店に必要か」です。
| 届出先 | 届出・手続き | 必要になる店 | 期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 警察署(生活安全課) | 深夜における酒類提供飲食店営業の営業開始届出 | 深夜0時〜6時に、主食ではなくお酒を中心に出す店 | 営業開始日の10日前まで |
| 消防署 | 防火対象物使用開始届 | 建物や店舗部分を使い始めるすべての店 | 使用開始の7日前まで(西宮市の場合) |
| 消防署 | 防火管理者の選任届 | 建物全体の収容人員が30人以上の場合など | 選任したとき |
| 労働基準監督署 | 労働保険の保険関係成立届 | 労働者を雇う店 | 保険関係が成立した日から10日以内 |
| ハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届 | 雇用保険の加入対象になる人を雇う店 | 設置の翌日から10日以内 |
| 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険の新規適用届 | 法人の店(社長1人でも対象) | 事実発生から5日以内 |
| 税務署 | 個人事業の開業届出、給与支払事務所等の開設届出 | 個人で開業する店、給与を支払う店 | 開業・開設から1か月以内 |
期限や必要書類は自治体や窓口によって細かく違います。表は全体像をつかむための目安として使い、出店する地域の窓口の案内で必ず確かめてください。開業日から逆算すると、全体の流れは次の順番になります。
- 1. 物件を決める前に、用途地域(深夜営業ができる地域か)と収容人員の見込みを確かめる
- 2. 内装工事の前に、保健所と消防署へ図面を持って相談する
- 3. 店を使い始める7日前までに、消防署へ防火対象物使用開始届を出す(西宮市の場合)
- 4. 保健所の営業許可の手続きを進めながら、深夜にお酒を出すなら営業開始の10日前までに警察署へ届け出る
- 5. スタッフを雇ったら、労働保険・雇用保険・社会保険の届出をそれぞれの期限内に出す
- 6. 開業・給与の支払い開始から1か月以内に、税務署へ届け出る
保健所の営業許可は、食品衛生法第55条で「都道府県知事の許可を受けなければならない」と定められています。あわせて、施設ごとに食品衛生責任者を置く必要があります。西宮市では、西宮市食品衛生協会の養成講習会(受講料10,000円)で資格を取れると案内されています(西宮市「食品衛生責任者養成講習会のお知らせ」、2026年9月30日更新)。講習の日程は限られるため、早めに予定を押さえておきましょう。
深夜酒類提供飲食店営業とは?届出が必要な店・いらない店
深夜酒類提供飲食店営業とは、深夜(午前0時から午前6時)に、バーや酒場のように客にお酒を出して営む飲食店営業のことです。根拠は風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)です。鳥取県警察の案内「深夜酒類飲食店営業とは」では、バー・スナック・居酒屋などが当てはまると説明しています。
一方で、「営業の常態として、通常主食と認められる食事を提供して営むもの」は除かれます(風営法第2条第13項第4号)。たとえば、定食屋やラーメン店のように食事が中心で、深夜にお酒も出すという店は、この届出の対象にならない場合があります。ただし、主食を出しているかどうかの判断は、メニューや営業の実態で見られます。迷う場合は、自分で判断せずに警察署の生活安全課へ相談してください。
深夜酒類の届出は、いつ・どこに出す?
深夜酒類の届出は、営業を始める日の10日前までに、店の所在地を受け持つ警察署を通じて公安委員会に出します。兵庫県警察のQ&Aも、午前0時以降に客へお酒を出す営業を始める場合は、10日前までに届け出るよう案内しています。
- 深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書(様式第47号)
- 営業の方法を記載した書類(様式第48号)
- 営業所の平面図
- 個人は本籍の記載がある住民票の写し、法人は定款・登記事項証明書・役員の住民票の写し
上の書類は、鳥取県警察と愛知県警察の「深夜における酒類提供飲食店営業の営業開始届出手続」の案内をもとにした例です。平面図は客席や設備の配置、面積が分かるものが求められるため、内装の図面ができた段階で準備を始めるとスムーズです。兵庫県で出店する場合の様式や部数は、所轄の警察署の生活安全課で確かめてください。
物件を決める前に、深夜営業ができない地域を確かめるべき理由は?
深夜にお酒を出す営業は、都道府県の条例で禁止されている地域があり、そこでは新たに始められません。風営法第33条第4項は、都道府県が地域を定めて深夜の酒類提供飲食店営業を禁止できると定めています。愛知県警察の案内では、第一種・第二種低層住居専用地域や第一種・第二種住居地域などの住居系の地域で営業できないとしています。
現場でよくあるのが、家賃や立地の条件で物件を契約したあとに、深夜営業ができない地域だと分かるケースです。こうなると、営業時間を短くするか、お店のコンセプトそのものを見直すことになります。用途地域(都市計画で決められた土地の使い方の区分)は市役所で確かめられます。兵庫県警察も、営業できない地域は警察署の生活安全課で確認するよう案内しています。物件の契約前に確かめる点は、飲食店の居抜き物件の注意点|契約前に確かめる設備・造作譲渡・原状回復でも整理しています。
飲食店の消防の届出で、見落としやすいのは何?
消防で見落としやすいのは、店を使い始める前の「防火対象物使用開始届」と、条件によって必要になる防火管理者・消火器の3つです。西宮市消防局の「防火対象物使用開始届」は、建物を店舗や飲食店などとして使い始めるときに、使用開始の7日前までに所轄の消防署へ届け出るよう案内しています。
- 内装工事の前に、図面を持って消防署へ相談する
- 消火器の配置などが分かる平面図や内装の仕上げ表をそろえる
- 店を使い始める7日前までに、正副2部を消防署へ出す(西宮市の場合)
西宮市消防局は、テナントが入る前に消防署へ相談するよう勧めています。消防用設備の工事が必要になると、別の届出や消防設備士による工事が必要になる場合もあるためです。内装工事が終わってから設備が足りないと分かると、工事のやり直しや開業日の遅れにつながります。
防火管理者とは?飲食店で必要になるのはどんなとき?
防火管理者とは、建物の火災予防の計画を作り、消火・避難の訓練などを進める責任者のことです。所定の講習を修了するなどの資格が必要です。札幌市消防局「防火管理者について」では、飲食店や店舗などは収容人員30人以上で選任が必要になると説明しています。収容人員とは、従業員とお客様を合わせて、その建物に入れる人数のことです。
注意したいのは、小さな店でもビルに入る場合は建物全体で判断されることがある点です。また、選任や解任をしたときは所轄の消防署長への届出が必要で、消防計画の作成と届出も求められます。講習は日程が限られるため、出店する建物で防火管理者が必要かどうかは、物件を決めた段階で消防署に確かめておきましょう。
小さな飲食店でも消火器は必要?
延べ面積150平方メートル未満の小さな飲食店でも、火を使う設備や器具があれば、原則として消火器を置く必要があります。2016年12月の糸魚川市の大規模火災を受けて消防法施行令が改正され、2019年10月1日から対象が広がりました(長野市消防局「飲食店等の消火器設置義務」)。
ただし、電気だけを熱源にする設備(IH調理器など)は「火を使用する設備又は器具」に含まれません。また、調理油過熱防止装置や自動消火装置など、防火上有効な装置を設けている場合は設置が不要になります(千葉市消防局「飲食店等の消火器設置義務が強化されます」)。厨房機器を選ぶ段階で、消火器が必要かどうかも内装業者と一緒に確かめておくと安心です。
飲食店でスタッフを雇ったら、労務の届出は何が必要?
スタッフを雇ったら、労働保険(労災保険と雇用保険)と社会保険の届出を、それぞれの窓口に期限内で出す必要があります。期限が5日〜10日と短いものが多いので、採用を決めた時点で準備を始めます。
| 届出 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 労働保険 保険関係成立届 | 労働基準監督署 | 保険関係が成立した日から10日以内 |
| 労働保険 概算保険料申告書 | 労働基準監督署・労働局・金融機関など | 保険関係が成立した日から50日以内 |
| 雇用保険適用事業所設置届 | ハローワーク | 設置した日の翌日から10日以内 |
| 雇用保険被保険者資格取得届 | ハローワーク | 被保険者になった日の翌月10日まで |
| 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 年金事務所または事務センター | 事実発生から5日以内 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設から1か月以内 |
労働保険の期限は兵庫労働局「労働者を雇用したとき(労働保険)」、社会保険は日本年金機構「新規適用の手続き」(2026年7月13日更新)、給与支払事務所の届出は国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出」で確かめられます。パート・アルバイトがどの保険の対象になるかは、労災保険の適用対象者とは|パート・派遣・役員の取扱いと注意点で詳しく解説しています。
個人経営の飲食店は、社会保険に入らなくてもいい?
個人経営の飲食店は、従業員が常時5人以上いても、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入が義務になる事業所にはあたりません。日本年金機構は、個人の事業所でも「サービス業の一部(クリーニング業、飲食店、ビル清掃業等)」は5人以上でも対象外と案内しています。従業員の半数以上の同意を得て申請し、認可を受ければ任意で加入することもできます。
一方、法人で開業する場合は、社長1人だけでも加入の対象になります。「個人か法人か」で社会保険の扱いが大きく変わるため、開業の形を決める段階で人件費の見込みとあわせて考えておきましょう。なお、個人の事業所の適用範囲は法改正で見直しが進んでいるため、最新の扱いは年金事務所で確かめてください。
飲食店の開業手続きの抜けを防ぐには、どう管理する?
抜けを防ぐには、すべての届出を「開業日から何日前か」で一つの表に並べ、物件契約・内装着工・採用の3つの節目で見直すのが確実です。
- 物件契約の前:用途地域、建物全体の収容人員、深夜営業の可否を確かめる
- 内装着工の前:保健所と消防署に図面を持って相談し、厨房機器と消火器の要否を決める
- 採用を決めたとき:雇う人数と働き方から、必要な保険の届出と期限を書き出す
現場では、内装・資金・採用・集客の準備が同じ時期に重なり、届出の期限がいつの間にか過ぎていたということがよく起こります。届出そのものは窓口に相談すれば進められますが、「どの順番で決めるか」を先に整理しておくと手戻りが減ります。開業までの全体の流れは起業の手順を具体的に解説!小規模事業者のためのリアルな流れと注意点にまとめています。営業時間や席数は売上計画にも直結するため、飲食店開業の融資で通る売上計画とは|席数・客単価・集客の根拠の作り方もあわせて確かめておくと判断しやすくなります。
届出の順番と、お店の戦略を一緒に考えるために
深夜営業をするか、何席にするか、何人で始めるか。こうした判断は、届出の要否を決めるだけでなく、客単価や人件費、集客の方法にまでつながります。たとえば深夜にお酒を中心に出す店にするなら、立地の選び方も、来てほしいお客様の層も変わります。手続きを一つずつ切り離して決めると、あとで「この営業時間では計画どおりの売上にならない」といった食い違いが出やすくなります。
まとめ
飲食店の開業手続きでは、保健所の営業許可に加えて、深夜酒類(営業開始の10日前まで・警察署)、消防(使用開始の前・消防署)、労務(雇ってから5日〜10日以内・各窓口)の届出を忘れないことが大切です。深夜営業ができない地域や防火管理者の要否は物件選びに関わるため、契約前に確かめておきましょう。期限や書類は地域ごとに違うので、最終的には出店先の窓口の案内で確かめてください。
届出の順番が見えてくると、次は「営業時間・席数・人員をどう決めれば、目指すお店になるか」という判断が残ります。当社の事業戦略顧問では、事業戦略・集客・業務改善をまとめて見ながら、経営者と一緒に優先順位を整理し、実行まで伴走しています。開業準備でやることが重なり、一度全体を整理したいと感じたときは、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 深夜0時以降も営業する居酒屋は、必ず警察署への届出が必要ですか?
- 深夜0時から6時の間にお酒を出す場合は、原則として届出が必要です。ただし、通常主食と認められる食事を中心に出す店は対象から除かれます。判断に迷う場合は、営業開始の10日前より前に、所轄の警察署の生活安全課へ相談してください。
- 深夜酒類の届出と保健所の営業許可は、どちらを先に進めますか?
- 保健所の営業許可から先に進めておくと安心です。深夜酒類の届出は、飲食店営業を営むことを前提にした手続きだからです。どちらも平面図が必要になるので、内装の図面ができた段階で両方の準備を始めましょう。添付書類は警察署によって違う場合があるため、事前に確かめてください。
- 席数が少ない小さな飲食店でも、消防署への届出は必要ですか?
- 必要です。防火対象物使用開始届は、建物や店舗部分を使い始めるときに広さに関係なく求められます。西宮市消防局は使用開始の7日前までの提出を案内しています。防火管理者や消火器が必要かどうかは、収容人員や火を使う設備によって変わります。
- アルバイトを1人だけ雇う場合も、労働保険の手続きは必要ですか?
- 労働者を雇えば、労働保険の保険関係成立届が必要になります。兵庫労働局は、保険関係が成立した日から10日以内に労働基準監督署へ出すよう案内しています。雇用保険の対象になるかは働く時間などで変わるため、ハローワークで確かめてください。
出典(2026年11月5日確認):兵庫県警察「Q&A/許認可、警察証明、遺失・拾得、各種届出等に関すること」/愛知県警察「深夜における酒類提供飲食店営業の営業開始届出手続」/鳥取県「深夜酒類飲食店営業とは」/e-Gov法令検索「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」/e-Gov法令検索「食品衛生法」/西宮市「食品衛生責任者養成講習会のお知らせ」/西宮市消防局「防火対象物使用開始届」/札幌市消防局「防火管理者について」/長野市消防局「飲食店等の消火器設置義務」/千葉市消防局「飲食店等の消火器設置義務が強化されます」/兵庫労働局「労働者を雇用したとき(労働保険)」/日本年金機構「新規適用の手続き」/国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出」/国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
