文責:藤田 泰仁
店舗向け商材の直販と販売パートナーは、「地域」「お客様の種類」「商品・プラン」のうち1つの軸で担当を分け、案件がぶつかったときのルールと価格・報酬・情報の流れを先に決めておけば整理できます。そのうえで経路ごとに件数だけでなく粗利と導入後の続き方を見て、決まった時期に分け方を見直すのが、売り方を崩さないいちばんの近道です。
店舗向け商材の直販と販売パートナーは「1つの軸」と「ぶつかった時のルール」で分ける
店舗向け商材の直販と販売パートナーは、「地域」「お客様の種類(業種・規模)」「商品・プラン」のどれか1つの軸で担当を決め、案件がぶつかったときのルールを先に書面にしておくと分けられます。公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(2026年7月8日改正)でも、販売パートナーに主な担当地域を決めて積極的な販売を求める「責任地域制」は、地域外での販売を禁じない限り、通常は違法にならないと示されています。また、市場シェアが20%以下の事業者が地域を分けても、通常は公正な競争を妨げるおそれはないとされています。つまり、小さな会社が担当を分けること自体は難しいことではありません。つまずきやすいのは、分け方を決めないまま両方で売り始め、同じお店を取り合ってしまうことです。
店舗向け商材とは、飲食店・美容室・整骨院・小売店などのお店に向けて売る商品やサービスのことです。たとえば予約システムやレジ、業務用の食材や消耗品、内装、集客の支援サービスなどが当たります。お店の数は多く、地域に散らばっています。そのため、自社だけで回る「直販」と、地域のディーラーや付き合いのある業者に売ってもらう「販売パートナー」を組み合わせる会社が少なくありません。
直販と販売パートナーの違いは何か?
違いは、お客様と契約するのは誰か、利益の残り方、お客様情報の持ち主、の3点です。直販とは、自社の営業やWebから、お店に直接売ることです。販売パートナーとは、自社の商材をお店に紹介したり、売ったりしてくれる外部の会社や個人のことで、関わり方によって大きく3つの形に分かれます。
| 比べる点 | 直販 | 紹介パートナー | 代理店(取次ぎ型) | 販売店(買い取り型) |
|---|---|---|---|---|
| お店と契約するのは | 自社 | 自社 | 自社 | 販売店 |
| パートナーの役割 | なし | お店を紹介するだけ | 商談や契約の取り次ぎまで行う | 商材を仕入れて自分の名前で売る |
| 自社に残る利益 | いちばん多い(営業の手間とお金は自社持ち) | 紹介料を引いた分 | 手数料を引いた分 | 卸値の分(売値との差は販売店の利益) |
| 代金回収の責任 | 自社 | 自社 | 自社 | 販売店 |
| お店の情報の持ち主 | 自社 | 自社(紹介時に本人の同意が要る) | 契約で決める | 基本は販売店 |
| 売値を決めるのは | 自社 | 自社 | 自社(指示しやすい) | 販売店(自社が縛るのは原則違法) |
日本貿易振興機構(ジェトロ)の「代理店契約と販売店契約の相違点:日本」(2025年8月更新)でも、代理店は売買契約の当事者にならず手数料を受け取り、販売店は自分が当事者となって売り、代金回収の責任も負うと整理されています。あわせて「販売代理店」「特約店」といった名前だけでは、どちらの形か区別できないとも説明されています。呼び名ではなく、契約の中身で見分けるのがポイントです。
直販そのものの基本は「直販とは?代理店を通さず直接売ること|直販営業と間販の違いを比較表で解説」で解説しています。外の力を借りる形として、営業代行と代理店のどちらにするか迷っている場合は「営業代行と代理店の違いは?小さな会社が外の営業力を借りる前に比べる5点」もあわせて読むと、選択肢が整理しやすくなります。
店舗向け商材の売り方は、どんな順番で整理すればよいのか?
次の5つの順番で進めると、直販と販売パートナーの役割がぶつからずに決まります。
- 今の売れ方を、経路ごとに書き出す
- 担当を分ける軸を1つ決める
- 案件がぶつかったときのルールを決める
- 価格・報酬・お店の情報の流れを契約にする
- 経路ごとの数字を見て、決まった時期に見直す
手順1:店舗向け商材は今、どの経路でどんなお店に売れているのか?
この段階のゴールは、「どこから、どんなお店が、いくらで買ったか」を1枚の表で見られるようにすることです。
- 直近の契約を、直販・紹介・代理店などの経路ごとに分けて書き出す
- お店の業種、地域、店舗数、選んだプランを横に並べる
- 経路ごとに、粗利(売上から仕入れや紹介料などを引いた利益)を出す
現場でよくあるのは、「パートナー経由のほうが件数は多いのに、手元に残る利益は直販のほうが多かった」と、書き出して初めて気づくケースです。逆に、直販は件数が少ないのに営業の時間を大きく取られている、ということもあります。件数だけでなく粗利と手間で比べると、どこを自社で持ち、どこを任せるかの手がかりが見えてきます。記録の取り方は「営業管理とは?直販を始めた小規模事業者が最初に整える記録の型」の型がそのまま使えます。
手順2:直販と販売パートナーの担当は、どの軸で分けるのか?
この段階のゴールは、「このお店はどちらの担当か」を誰が見ても同じ答えになる軸を1つ決めることです。軸を2つ以上混ぜると、境目のお店でもめやすくなります。
- 手順1の表から、自社が強い地域・業種・商品を見つける
- 下の表から、自社の状況に合う軸を1つ選ぶ
- 境目のお店(隣の市、多店舗の1店舗目など)をどちらの担当にするかも決める
| 分ける軸 | 分け方の例 | 向いている場合 | 気をつけたい点 |
|---|---|---|---|
| 地域 | 本社のある市内は直販、それ以外はパートナー | 訪問や導入作業が必要で、移動の手間が大きい商材 | 地域外のお店から問い合わせがあったとき、パートナーが断らされる形にしない |
| お客様の種類(業種) | 飲食店は直販、美容室は美容ディーラー経由 | 業種ごとに出入りしている業者がいて、その信頼を借りたいとき | 業種をまたぐお店(カフェ併設のサロンなど)の扱いを決めておく |
| お客様の種類(規模) | 複数店舗の会社は直販、1店舗のお店はパートナー | 店舗数が多いお客様ほど、提案や導入に手間がかかる商材 | 1店舗から始めて店舗を増やしたお店を、途中で誰が持つかを決めておく |
| 商品・プラン | 導入支援つきの上位プランは直販、基本プランはパートナー | 説明や設定に専門知識が要るプランと、そうでないプランがはっきり分かれる商材 | パートナーのお客様が上位プランに切り替えるときの報酬を決めておく |
地域で分けるときは、独占禁止法の考え方を押さえておきましょう。前述の公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」では、地域を割り当てて地域外での販売を制限する「厳格な地域制限」や、地域外のお客様から頼まれた販売まで制限する「受動的販売の制限」は、市場で有力な事業者が行い、価格が維持される効果が生じる場合には違法になるとされています。小さな会社が問題になることは通常ありませんが、「主に担当する地域」として決め、地域外からの問い合わせを断らせない形にしておくと安心です。
手順3:直販と販売パートナーが同じお店を取り合ったら、どうするのか?
この段階のゴールは、ぶつかったときに話し合わなくても答えが出るルールを、先に紙にしておくことです。直販と販売パートナーが同じお客様を取り合う状態を「チャネルコンフリクト」といいます。チャネルとは売る経路のことで、経路どうしの衝突という意味です。
- 商談を始めたらお店の名前を共有の表に登録し、先に登録した側の担当にする(案件登録)
- 登録の有効期限を決め、期限までに商談が進まなければ登録を外す
- すでに契約しているお店の追加注文・更新は、最初に契約を取った側の担当にする
店舗向け商材で現場によくあるのは、パートナーが何度も足を運んでいたお店に、自社のWebから直接問い合わせが入るケースです。お店のオーナーは営業時間中は忙しく、話を聞いた相手を覚えていないことも少なくありません。そこで直販が値引きして契約してしまうと、パートナーとの信頼が一気に崩れます。Webからの問い合わせも、まず登録の表を見てから対応する決まりにしておきましょう。
もう1つ決めておきたいのが、導入後の問い合わせ窓口です。お店からの「使い方が分からない」「調子が悪い」という連絡を、自社とパートナーのどちらが受けるのかがあいまいだと、お店がたらい回しになります。サポートを自社で受けるなら、その手間を紹介料や手数料の料率に反映させる、という考え方もあります。
手順4:販売パートナーとの価格・報酬・お店の情報は、どう取り決めるのか?
この段階のゴールは、手順2と手順3で決めたことを、契約書や取引条件の書面に落とし込むことです。口約束のままだと、担当者が変わったときにルールが消えてしまいます。
- 売値を誰が決めるかと、自社が示す価格の位置づけ(参考の価格か、指示か)
- 紹介料・手数料の額、支払いの時期、解約や返品があったときの扱い
- お店の情報をどちらが持ち、どう受け渡すか
売値は、パートナーの形によって扱いが変わります。前述の公正取引委員会の指針では、販売店の売値を拘束することは原則として違法とされています。一方で、単なる参考として示す希望小売価格はそれ自体は問題にならないこと、取引のリスクを自社が負う委託販売や取次ぎの場合は価格を指示しても通常は違法にならないことも示されています。「どのお店にも同じ価格で売ってほしい」なら、紹介パートナーか取次ぎ型の代理店が向いています。
お店の情報の受け渡しにも注意が要ります。個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、個人データを第三者に渡すには、原則としてあらかじめ本人の同意が必要とされています。個人経営のお店では、オーナーの名前や連絡先が個人情報に当たります。紹介パートナーからお店の情報を受け取るときは、「連絡先を商材の会社に伝えてよいか」をパートナーからお店に確認してもらう流れを決めておきましょう。
パートナーが従業員を雇っていない個人の場合は、フリーランス法の対象になることがあります。公正取引委員会のフリーランス法特設サイトでは、フリーランスに業務を委託したら、直ちに業務の内容や報酬の額、支払期日などを書面かメールなどで示す必要があり、口頭では認められないと説明されています。具体的な条項は、弁護士など専門家にも確認してください(各ページの確認日:2026年11月4日)。
手順5:直販と販売パートナーの分け方は、何を見て見直すのか?
この段階のゴールは、経路ごとの数字を同じものさしで比べ、分け方を変えるかどうかを決めることです。一度決めた分け方も、お客様や商品が変われば合わなくなります。
- 経路ごとに、契約件数・粗利・解約や更新の状況を並べる
- 導入後の問い合わせが、どの経路のお店から多く来ているかを見る
- パートナーから、売りにくい理由やお店によく聞かれる質問を集める
見直すときに気をつけたいのが、よくある失敗のパターンです。下の表のような兆しが出たら、最初の対策から手をつけてみてください。
| よくある失敗 | 何が起きるか | 最初の対策 |
|---|---|---|
| 直販が値引きでパートナーの案件を取る | パートナーが自社の商材を勧めなくなる | 案件登録のルールを作り、直販にも守らせる |
| パートナーに任せきりにする | どんなお店が、なぜ買ったのかが自社に残らない | 報告の項目に、断られた理由とよく聞かれる質問を入れてもらう |
| 経路ごとに説明がばらばら | お店が聞いていた話と違うと感じ、解約につながる | 商品説明の資料と、できること・できないことの一覧を共通にする |
| 件数だけで経路を評価する | 利益の薄い経路に力を入れ続けてしまう | 粗利と導入後の手間も並べて比べる |
代理店の仕組みに頼る商売そのもののリスクは「代理店ビジネスとは?儲かる仕組みと始める前に知る5つのリスク」でも整理しています。自社が売る側として代理店網を作るときにも、相手の立場で起きやすい問題を知っておくと、無理のない条件を考えやすくなります。
直販と販売パートナーの整理は、なぜ自社だけでは難しいのか?
手順そのものはシンプルですが、実際には「どの軸で分けるか」を決める段階で迷う経営者が多いです。直販と販売パートナーの分け方は、商品の設計や価格、集客の導線、社内の人手と深くつながっているからです。たとえば、パートナーに任せる基本プランを作るなら、商品の中身や料金表から見直すことになります。直販を地域に絞るなら、その地域でのWeb集客や地図検索の対策も合わせて考える必要があります。
目の前の営業に追われていると、こうした全体のつながりを落ち着いて考える時間が取りにくいものです。まずは手順1の書き出しだけでも進めておくと、次に何を決めるべきかが見えやすくなります。
よくある質問
- 店舗向け商材は、直販と販売パートナーのどちらから始めるべきですか?
- まずは直販で数件売ってみるのが無難です。どんなお店が、どんな言葉で買ってくれるかを自社でつかんでいないと、パートナーに売り方を伝えられず、うまくいかない原因も見分けにくくなります。
- 販売パートナーに担当地域を決めても、法律上の問題はありませんか?
- 主に担当する地域を決めて積極的な販売を求める形は、通常は違法になりません。公正取引委員会の流通・取引慣行ガイドラインでは、地域外での販売を禁じる「厳格な地域制限」などは、市場で有力な事業者が行い価格が維持される効果が生じる場合に違法となるとされています。
- 紹介パートナーと代理店の違いは何ですか?
- 紹介パートナーはお店を紹介するだけで、商談や契約は自社が行います。代理店(取次ぎ型)は商談や契約の取り次ぎまで担います。どちらもお店と契約するのは自社で、販売店(買い取り型)の場合だけ、販売店が自分の名前でお店に売ります。
- 販売パートナーに売値を指定してもよいですか?
- 販売店(買い取り型)の売値を拘束することは、原則として独占禁止法上違法とされています。参考として希望小売価格を示すことや、取次ぎ型・委託販売で価格を指示することは、通常は問題になりません。契約の形で判断が分かれるため、専門家に確認しましょう。
まとめ:店舗向け商材は「軸・ルール・契約・見直し」の順で分ける
店舗向け商材の直販と販売パートナーは、今の売れ方を書き出したうえで、地域・お客様の種類・商品のうち1つの軸で担当を分けます。次に、案件がぶつかったときのルールと、価格・報酬・お店の情報の流れを書面で決め、経路ごとの数字を見て決まった時期に見直します。売り方が整うと、パートナーも自社も同じお店を取り合わずに済み、お店にとっても分かりやすい窓口になります。
ただ、どの軸で分けるかは、商品設計や集客、人手の配分とセットで決めることになり、優先順位をつけるのが難しい部分です。ひとりで考えると堂々めぐりになりやすいときは、外の目を入れて整理するのも1つの方法です。合同会社well coの事業戦略顧問では、戦略の整理から集客・営業の仕組みづくり、実行まで、経営者と一緒に進めています。売り方の分け方に迷ったときの相談相手として、気軽に声をかけてください。
出典:公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(2026年7月8日改正)/日本貿易振興機構(ジェトロ)「代理店契約と販売店契約の相違点:日本」/個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」/公正取引委員会 フリーランス法特設サイト(いずれも2026年11月4日確認)
