文責:藤田 泰仁
税理士の新たな収益源は、顧問先からすでに受けている記帳・申告以外の相談を記録し、「件数・急ぎ度・お金を払う意思・答えられるか・繁忙期に回せるか」の5つの基準で絞って選ぶのが確実です。候補が決まったら、数社への聞き取りと期間を区切った試行で需要を確かめてから、続けるかどうかを決めましょう。
税理士の新たな収益源は、顧問先の「相談の記録」から選ぶ
税理士の新たな収益源は、新しいお客様を探す前に、顧問先からすでに受けている記帳・申告以外の相談の中から選ぶのが確実です。中小企業庁の2020年版小規模企業白書では、企業規模を問わず、日常の相談相手として最も多く挙げられたのが「税理士・公認会計士」でした。つまり、需要の手がかりは事務所の中にすでに集まっています。選び方の手順は、相談を記録する、種類で分ける、5つの基準で絞る、顧問先に聞いて確かめる、小さく試して決める、の5段階です。思いつきで新サービスを作るより、実際に寄せられた相談から逆算するほうが、頼まれる理由がはっきりし、価格の根拠も説明しやすくなります。
出典:中小企業庁「2020年版 小規模企業白書 第3部第2章第4節 日常の相談相手の活用」(2026年11月4日確認)
税理士が新たな収益源を選ぶ手順は?全5段階の一覧
新たな収益源は、次の5段階で選びます。前の段階の結果が次の段階の材料になるので、順番を飛ばさないのがコツです。
- 顧問先からの相談を、相談メモに記録する(1〜3か月)
- 記録した相談を、悩みの種類ごとに分ける
- 5つの基準で採点し、候補を1〜2個に絞る
- 候補について、顧問先の数社に聞き取りをして需要を確かめる
- 期間を区切って小さく試し、続けるかどうかを決める
どの相談を収益源にすべき?選ぶときの5つの基準
候補を比べる基準は5点です。「件数」「急ぎ度」「お金を払う意思」「答えられるか」「繁忙期に回せるか」を、それぞれ1〜3点で採点し、合計の高いものから検討します。
| 基準 | 確かめる問い | 3点の目安 | 1点の目安 |
|---|---|---|---|
| 1. 件数 | 同じ種類の相談が、何社から来ているか | 複数の顧問先から、くり返し出ている | 1社から1回だけ |
| 2. 急ぎ度 | 相手は、いつまでに解決したいと思っているか | 期限がある(融資の申込み、補助金の締切など) | 「いつか考えたい」程度 |
| 3. お金を払う意思 | すでに誰かにお金を払って解決しようとしたことがあるか | 外部に依頼した経験がある、予算の話が出ている | 無料なら聞きたい、という反応 |
| 4. 答えられるか | 事務所の中に、根拠を持って答えられる人がいるか | 経験と資料がそろっている | 調べながらでないと答えられない |
| 5. 繁忙期に回せるか | 確定申告や決算の時期にも、約束した対応を守れるか | 繁忙期を外して提供できる、または作業量が少ない | 繁忙期に作業が集中する |
5つのうち、特に見落としやすいのが「お金を払う意思」です。現場でよくあるのは、打ち合わせのついでに出た質問を「需要がある」と受け取ってしまうことです。相談が多くても、相手が無料の延長だと思っていれば、有料のサービスにした途端に反応がなくなります。
税理士の「新たな収益源」とは?顧問料の値上げとの違い
ここでいう新たな収益源とは、顧問料の中で行っている記帳・申告・税務相談とは別に、中身と料金を分けて提供するサービスから得る収益のことです。顧問料の値上げは同じサービスの単価を上げることですが、新たな収益源は「別の悩みに応える別の商品」を作る点が違います。
国税庁の税理士制度に関するQ&A(税理士業務とは)では、税理士業務は税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つと説明されており、これに付随して会計業務も行えるとされています。経営計画や資金繰り、業務の仕組み化といった相談は、こうした顧問業務とは別に、範囲と料金を決めて提供しやすい領域です。
段階1:顧問先の相談はどう記録すればよい?
この段階のゴールは、記帳・申告以外の相談を、あとで比べられる形で1か所に集めることです。
- 相談メモの項目を決め、事務所内で1つの表にまとめる
- 担当者全員に、打ち合わせ後に1行ずつ書いてもらう
- 1〜3か月続けてから、まとめて見返す
相談メモとは、顧問先から受けた相談を、相手・中身・時期と一緒に1行ずつ残す記録のことです。記憶に頼ると、印象の強い相談ばかりが残り、件数の多い相談を見落としがちです。記録する項目は、次のくらいで十分です。
| 項目 | 書く内容の例 | あとで何に使うか |
|---|---|---|
| 日付・相手 | 顧問先の業種と規模(社名は事務所内の管理番号でよい) | どんな相手に多い相談かを見る |
| 相談の中身 | 相手が使った言葉のまま(例:「新しいお客さんが来ない」) | 案内文やサービス名を考える材料にする |
| 期限・きっかけ | 「来月、金融機関と面談がある」など | 急ぎ度を判断する |
| これまでの対応 | 自分で調べた、外部に頼んだ、まだ何もしていない | お金を払う意思を判断する |
| その場の回答 | 答えた/他の専門家を紹介した/持ち帰った | 事務所で答えられる分野かを見る |
「相談の中身」を相手の言葉のまま残すのは、あとで案内文を作るときに役立つからです。事務所側の専門用語に言い換えると、顧問先に「自分のことだ」と感じてもらいにくくなります。記録を続ける仕組みづくりは、営業管理とは?直販を始めた小規模事業者が最初に整える記録の型で紹介している考え方も参考になります。
段階2:集めた相談は、どんな種類に分ければよい?
この段階のゴールは、ばらばらの相談を、サービスの候補になる「悩みのまとまり」に分けることです。
- 相談メモを、悩みの種類ごとに並べ替える
- 種類ごとに件数と、相談してきた顧問先の数を数える
- 1社だけの相談と、複数社に共通する相談を分ける
分け方に決まりはありませんが、最初は「売上・集客」「資金(融資・補助金)」「人(採用・教育)」「事業の方向性(新事業・承継)」「事務の手間(経理・請求の仕組み)」の5つくらいに分けると整理しやすくなります。件数だけでなく、何社から出ているかも数えておきましょう。同じ1社から何度も出る相談は、その会社だけの事情であることも多いためです。
たとえば事業承継は、相談が表に出にくい一方で、潜在的な悩みが大きい分野です。帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日発表)では、全国の後継者不在率は50.1%、小規模企業では57.3%でした。記録の中に「いつか継がせたい」といった一言があれば、件数が少なくても候補として残しておく価値があります。
段階3:5つの基準で、候補をどう絞り込む?
この段階のゴールは、5つの基準の合計点から、次の聞き取りに進む候補を1〜2個に絞ることです。
- 種類ごとに、5つの基準を1〜3点で採点する
- 合計点の高い順に並べ、上位1〜2個を候補にする
- 「答えられるか」が1点の候補は、外部と組むかどうかを先に決める
採点は所長ひとりで行わず、担当者にも点をつけてもらうと、見え方の違いが分かります。担当者は顧問先との距離が近いぶん、「急ぎ度」や「お金を払う意思」を肌で感じていることが多いからです。点数が同じくらいの候補が並んだときは、事務所がこれから誰にどう役立ちたいかという方向性に近いほうを選ぶと、続けやすくなります。
候補を3つ以上同時に進めるのはおすすめしません。顧問業務と並行して進めるため、準備の時間が分散し、どれも中途半端になりやすいためです。
段階4:顧問先への聞き取りで、需要をどう確かめる?
この段階のゴールは、候補の悩みに対して、顧問先が「お金を払ってでも解決したい」と思っているかを確かめることです。
- その相談をしてきた顧問先から3〜5社を選ぶ
- サービスの説明より先に、悩みの中身と今の対応を聞く
- 最後に、提供の形と価格の幅を示して反応を見る
聞き取りでは、いきなり「こういうサービスを始めたら頼みますか」と聞かないのがコツです。多くの人は、顔なじみの税理士に対して遠慮し、「いいですね」と答えてしまいます。代わりに、次のような事実を聞く質問から入ると、需要の強さが見えやすくなります。
- その悩みで、いちばん困ったのはいつ、どんな場面でしたか
- これまでに、どんな方法で解決しようとしましたか
- 外部に頼んだことはありますか。そのとき、何が足りないと感じましたか
- 解決できたら、事業の何が変わりますか
外部に頼んだ経験や、自分で時間をかけて調べた経験がある相手は、お金を払う意思が強い傾向があります。聞き取りの考え方は、小規模事業者向け・新事業の市場調査のやり方と実践ステップでも詳しく紹介しています。
段階5:小さく試して、続けるかどうかをどう決める?
この段階のゴールは、期間と回数を区切った試行で、続けるかどうかを判断できる材料を集めることです。
- 回数・期間・最後に渡すものを決めた試行版を作る
- 聞き取りをした顧問先のうち、関心の強かった数社に提案する
- 始める前に「続けるかを決める基準」を書いておく
続けるかどうかの基準は、始める前に決めておきます。たとえば「試行に申し込んだ社数」「試行後に正規の価格で続けたい社数」「1社あたりにかかった時間」の3つです。終わってから基準を決めると、結果の良い面ばかりを見てしまいがちです。試行版の中身・値決め・案内の進め方は、顧問契約だけで伸び悩む士業へ|新サービスの始め方を3つの順番で解説で手順として詳しくまとめています。
試行の案内をメールで送るときは、広告・宣伝のメールに関するルールにも注意しましょう。総務省の特定電子メール法の解説ページでは、取引関係にある相手は同意を得る原則の例外とされていますが、送信者の名称と受信拒否の連絡先を表示する義務があり、受信を拒否した相手には送れないと説明されています。
新たな収益源の選び方で、よくあるつまずきと最初の対策は?
つまずきの多くは、段階を飛ばしたときに起きます。何が起きるかと、最初の対策を表にまとめます。
| つまずき | 何が起きるか | 最初の対策 |
|---|---|---|
| 記録をせずに、印象で選ぶ | 所長の関心が強い分野を選び、顧問先の需要とずれる | 1か月だけでも相談メモを取ってから決める |
| 相談の多さを、需要と思い込む | 有料にした途端に反応がなくなる | 聞き取りで、外部に頼んだ経験や予算の有無を確かめる |
| 候補を広げすぎる | 準備が分散し、どれも形にならない | 同時に進める候補は1〜2個までにする |
| 試行の判断基準を決めない | 続けるかやめるかを決められず、ずるずる続く | 始める前に、申込み数・継続数・かかった時間の目安を書いておく |
自分で選ぶときに、手が止まりやすいところは?
ここまでの5段階は、所長や経営者が自分で進められる手順です。一方で、現場では次のようなところで手が止まりやすくなります。
- 採点が同じくらいの候補が並び、どれを優先するか決めきれない
- 顧問先との関係を気にして、聞き取りで本音を聞き出せない
- 選んだ収益源を、集客や業務の仕組みまで含めてどう組み立てるか見えない
- 繁忙期に入ると、準備が止まってしまう
特に優先順位づけは、事務所がこれから誰にどう貢献していきたいかという考え方と切り離せません。目先の売上だけで選ぶと、続けるうちに事務所の方向性とずれてしまうこともあります。
まとめ:新たな収益源は、相談の記録から逆算して選ぶ
税理士の新たな収益源は、顧問先からすでに受けている記帳・申告以外の相談を記録し、種類で分け、「件数・急ぎ度・お金を払う意思・答えられるか・繁忙期に回せるか」の5つの基準で絞って選びます。候補が決まったら、数社への聞き取りと期間を区切った試行で需要を確かめ、始める前に決めた基準で続けるかを判断しましょう。
とはいえ、候補の優先順位づけや、事務所の方向性とのすり合わせ、試行から集客・業務の仕組みづくりまでの実行は、日々の顧問業務と並行してひとりで進めるのが難しい部分です。当社の事業戦略顧問では、商品設計や集客、業務改善まで含めて経営者と一緒に全体を整理し、実行まで伴走しています。選んだ収益源を形にする道筋を一度誰かと整理したいと感じたら、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 税理士の新たな収益源は、新しいお客様から探すべきですか?
- まずは今の顧問先から探すほうが確実です。すでに信頼関係があり、相談の記録や会社の数字もそろっているため、需要を確かめやすく、試行にも協力してもらいやすいからです。
- 相談メモは、どのくらいの期間取ればよいですか?
- 1〜3か月を目安にすると、傾向が見えやすくなります。繁忙期とそれ以外で相談の中身が変わることもあるため、期間を区切って一度見返し、必要なら記録を続けて比べましょう。
- 顧問先への聞き取りは、無料で行ってもよいですか?
- 需要を確かめる段階の聞き取りは、通常の打ち合わせの範囲で短く行うのが一般的です。ただし、聞き取りがそのまま具体的な助言になる場合は、どこからが有料かを先に伝えておくと、あとのすれ違いを防げます。
- 事務所で答えられない分野の相談が多い場合はどうすればよいですか?
- その分野に強い他の専門家と組む形も選択肢です。窓口は事務所が受け、専門的な部分は連携先に任せるなど、役割と料金の分け方を先に決めてから試すと、範囲があいまいになりません。
出典:中小企業庁「2020年版 小規模企業白書 第3部第2章第4節 日常の相談相手の活用」/帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」2025年11月21日/国税庁「税理士制度に関するQ&A 税理士業務とは」/総務省「特定電子メール法」(国民のためのサイバーセキュリティサイト)(いずれも2026年11月4日確認)
