文責:藤田 泰仁
顧問先に紹介できる商材は、顧問先の課題に合い、自分で説明でき、紹介料などの利害を開示でき、資格と法令の範囲に収まり、やめ方まで決まっているものに限られます。5つのうち1つでも欠ける商材は、どれだけ条件がよくても紹介を見送るのが、顧問契約という本業の信頼を守るいちばん確実な方法です。
顧問先に紹介できる商材とは、5つの基準をすべて満たすもの
顧問先に紹介できる商材とは、「顧問先の課題に合う」「自分で中身を説明できる」「紹介料などの利害を開示できる」「資格と法令の範囲に収まる」「トラブル時の窓口とやめ方が決まっている」の5つをすべて満たす商品・サービスのことです。士業の紹介は、顧問先から見ると「先生のお墨付き」に近い重みを持ちます。そのため紹介料のやり取りには業界のルールもあり、たとえば弁護士は、日本弁護士連合会の弁護士職務基本規程第13条第2項で「依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価を受け取ってはならない」と定められています(第二東京弁護士会「本当に怖い非弁提携」2021年10月)。紹介で得られる収入より、顧問契約の信頼のほうがずっと大きい。この前提で、商材を選ぶ順番を整理します。
士業が信頼を損なわない5つの基準とは?
確かめることは5点で、どれか1つでも欠けたら紹介を見送るのが原則です。まず全体を表で示します。
| 基準 | 自分に問いかけること | 欠けたときに起きやすいこと |
|---|---|---|
| 1. 顧問先の課題に合う | 顧問先から実際に出ている悩みに、直接こたえる商材か? | 「売りたいものを勧められた」と受け取られる |
| 2. 自分で説明できる | 料金・効果の出方・合わない人を、自分の言葉で説明できるか? | 質問に答えられず、販売元に丸投げになる |
| 3. 利害を開示できる | 紹介料の有無と金額を、顧問先に正直に伝えられるか? | 後から知られて、助言全体が疑われる |
| 4. 資格と法令の範囲に収まる | 登録が必要な取引や、会則で禁じられた報酬にあたらないか? | 知らずにルール違反になる、懲戒や罰則のおそれ |
| 5. やめ方が決まっている | トラブル時の窓口、解約の条件、自分が紹介をやめる基準は明確か? | 苦情が自分に集まり、顧問契約まで揺らぐ |
表の順番には意味があります。1と2は「紹介する価値があるか」、3と4は「紹介してよいか」、5は「紹介した後も責任を持てるか」を確かめる基準です。順番に見ていくと、条件のよさだけで判断するのを防げます。
商材の「紹介」と「販売・代理・媒介」は何が違う?
紹介は「販売元と顧問先を引き合わせるだけ」、販売・代理・媒介は「契約の成立に自分が関わる」ことで、関わり方の深さが違います。ここをあいまいにしたまま始めると、基準4の法令の確認でつまずきやすくなります。
- 紹介:販売元の連絡先を伝える、資料を渡すなど、引き合わせるところまで。契約の説明や手続きは販売元が行う
- 販売(再販):自分が商材を仕入れたり、自分の名前で顧問先と契約したりする。品質への責任も自分にかかる
- 代理:販売元に代わって、顧問先と契約を結ぶ
- 媒介:契約が成立するように、説明や勧誘をして間を取り持つ
代理店として商材を扱う場合の仕組みとリスクは、代理店ビジネスとは?儲かる仕組みと始める前に知る5つのリスクで詳しくまとめています。顧問先への紹介を「副業的な代理店」にしてしまわないためにも、自分がどこまで関わるのかを先に決めておきましょう。
基準1:その商材は顧問先の課題に合っているか?
紹介してよい商材は、顧問先から実際に出ている悩みに直接こたえるものだけです。「よい商材があるので誰かに紹介しよう」と商材から考えると、顧問先には売り込みに見えてしまいます。
- ここ半年ほどで顧問先から受けた、本業以外の相談を書き出す(例:経理の手間、集客、採用、IT化)
- 同じ悩みが複数の顧問先から出ているかを確かめる
- その悩みに対して、商材が「どの部分を」解決するのかを1文で書く
現場でよくあるのは、紹介を持ちかけられた商材が先にあり、後から「合いそうな顧問先」を探してしまうケースです。この順番だと、顧問先の課題とのずれに気づきにくくなります。悩みが先、商材が後。この順番を崩さないことが、最初の基準です。
基準2:商材の中身を自分の言葉で説明できるか?
紹介する前に、料金・効果の出方・合わない人の3つを、販売元の資料を見ずに説明できる状態にしておきます。士業が紹介した時点で、顧問先は「先生が中身を確かめたもの」と受け取るからです。
- 料金:初期費用、月額、最低契約期間、追加費用が出る条件
- 効果の出方:どのくらいの期間で、何が変わるのか。変わらない場合もあるのか
- 合わない人:どんな規模・業種・状況だと使いこなせないか
特に3つ目の「合わない人」を言えるかどうかが分かれ目です。よい面だけを話す紹介は、販売元の営業と変わりません。可能なら、自分の事務所で一定期間使ってみてから判断すると、説明に具体性が出ます。
基準3:紹介料などの利害を顧問先に開示できるか?
紹介料を受け取るなら、その事実を顧問先に先に伝えられることが条件です。後から知られると、その商材だけでなく、これまでの助言全体が「紹介料のためだったのでは」と疑われかねません。
紹介料とは?士業によっては受け取り自体が禁じられている
紹介料(キックバック)とは、顧客を紹介したことの見返りとして、販売元から受け取るお金や利益のことです。士業の場合、まず確かめるべきなのは、所属する会の会則や倫理規程で受け取りが認められているかどうかです。
弁護士については、第二東京弁護士会の会報記事「本当に怖い非弁提携」(2021年10月)で、弁護士職務基本規程第13条第2項により紹介料の受け取りが禁じられていることが説明されています。同記事では、日弁連の解説書を引きながら、たとえば依頼者を不動産業者に紹介して紹介料を受け取ることも、この規定に反するとされています。依頼者は弁護士が勧める業者を断りにくいため、その立場を使って利益を得るべきではない、という考え方です。
この考え方は、ほかの士業にもそのまま当てはまります。税理士・社会保険労務士・行政書士など、自分の所属する会の会則や倫理規程に紹介の対価に関する定めがないかを、商材を扱う前に確認しておきましょう。
ステルスマーケティング規制とは?ブログやメルマガで紹介するときの注意
ステルスマーケティング規制とは、広告であるのに消費者が広告だと見分けられない表示を、景品表示法の不当表示として扱うルールです。消費者庁のステルスマーケティングに関する特設ページによると、2023年10月1日から規制が始まり、規制の対象は広告主である事業者とされています。
規制の対象になるのは販売元の側ですが、販売元から依頼や対価を受けて事務所のブログやメルマガ、SNSで商材を紹介するなら、「広告」「PR」「〇〇社から依頼を受けて紹介しています」と分かるように書いておくのが安全です。顧問先に対しても、同じ姿勢で利害を伝えることが信頼につながります。
基準4:資格と法令の範囲に収まるか?
紹介のつもりでも、商材によっては登録や許可が必要な取引にあたることがあります。特に注意したいのは、保険・金融商品と、顧問先の情報の渡し方です。
保険商品を紹介するときに確かめること
保険業法では、保険契約の締結の代理や媒介を「保険募集」とし、行えるのは登録を受けた保険募集人などに限られています。金融庁の金融審議会ワーキング・グループの資料(2012年6月27日)では、募集にあたるかどうかの判断要素として、特定の保険契約を勧めているか、保険会社からの対価の有無などが挙げられています。
つまり、特定の保険を勧め、契約に応じた報酬を受け取る形は、登録がなければ避けるべき関わり方です。保険の相談を受けたら、登録を受けた専門家に引き継ぐ形にとどめ、報酬の受け取りを含めて扱いに迷う場合は、保険会社や専門家に確認してから進めましょう。
顧問先の情報を販売元に渡すときに確かめること
顧問先の担当者名や連絡先、経営状況を販売元に伝えるときは、事前に顧問先の同意を得ます。個人情報保護法では、個人データを第三者に渡すときは原則として本人の同意が必要です。個人情報保護委員会のFAQ(Q3-4)では、本人の同意を得て渡す場合でも、原則として提供したことの記録義務(法第29条)がかかると説明されています。
加えて、士業には業務で知った秘密を守る義務があります。税理士なら税理士法第38条で、正当な理由なく業務で知った秘密を漏らすことが禁じられています。いちばん確実なのは、販売元の連絡先を顧問先に渡し、顧問先から連絡してもらう形にすることです。
基準5:トラブル時の窓口と「やめ方」は決まっているか?
紹介する前に、トラブルが起きたときの窓口・解約の条件・自分が紹介をやめる基準の3つを決めておきます。紹介した商材で問題が起きると、顧問先が最初に相談するのは販売元ではなく、紹介した士業だからです。
- 窓口:不具合や苦情はどこに連絡すればよいか、販売元の担当者と連絡先
- 解約の条件:最低契約期間、解約の申し出の期限、違約金の有無
- 紹介をやめる基準:たとえば「苦情が続いたら」「担当者が変わって対応が落ちたら」など
現場でよくあるのは、解約しにくい契約の商材を紹介してしまい、顧問先から「やめたいのにやめられない」と相談されるケースです。最低契約期間が短い、いつでもやめられるなど、「合わなかったときに抜けやすい商材」を選ぶことも、顧問先を守る基準になります。
顧問先に商材を紹介する前の確認手順は?
5つの基準を、実際の確認の順番に並べると次のとおりです。上から順に進め、途中で1つでも答えられない項目があれば、そこで止めます。
- 顧問先から出ている悩みを書き出し、商材がどこを解決するかを1文にする
- 料金・効果の出方・合わない人を、資料を見ずに説明できるか確かめる
- 所属する会の会則・倫理規程で、紹介の対価の扱いを確認する
- 保険・金融商品など、登録が必要な取引にあたらないか確認する
- 紹介料を受け取るなら、顧問先への伝え方を決める
- トラブル時の窓口と解約の条件を、販売元から書面でもらう
- まず1〜2社の顧問先に、利害を伝えたうえで紹介し、感想を聞く
最後の「まず少数に試す」は、新しいサービスを始めるときと同じ考え方です。顧問先への案内の順番は、顧問契約だけで伸び悩む士業へ|新サービスの始め方を3つの順番で解説でも詳しく紹介しています。
紹介料より、自分のサービスで収益をつくるべき場合は?
顧問先から同じ悩みが何度も出ているなら、商材の紹介より、自分の事務所のサービスとして形にしたほうが、信頼と収益の両方を保ちやすくなります。紹介は販売元の品質に左右されますが、自分のサービスなら中身も責任も自分で決められるからです。
たとえば、経理の手間の相談が多いなら、ツールを紹介するだけでなく、導入と業務の流れの見直しまでを有料のサービスにする、という考え方があります。税理士を例にした顧問料以外の収益の柱は、税理士が顧問料以外で収益をつくるには?顧問先から始める4つの柱で整理しています。
まとめ:顧問先に紹介できる商材は、5つの基準で絞り込む
顧問先に紹介できる商材は、「顧問先の課題に合う」「自分で説明できる」「利害を開示できる」「資格と法令の範囲に収まる」「やめ方が決まっている」の5つを満たすものです。紹介料の扱いは士業ごとのルールを、保険や個人情報は法令を先に確かめ、まずは少数の顧問先で試しながら判断していきましょう。
ただ、紹介に頼るのか、自分のサービスとして形にするのか、顧問業務とどう両立させるのかは、事務所全体の方向性にかかわる判断です。日々の業務と並行して、ひとりで優先順位を決めるのは簡単ではありません。当社の事業戦略顧問では、商品設計や集客、業務改善まで含めて、経営者と一緒に全体を整理し、実行まで伴走しています。事務所のこれからを一度誰かと整理してみたいと感じたら、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 士業が顧問先に商材を紹介して、紹介料を受け取ってもよいですか?
- 士業の種類と所属する会のルールによって異なるため、まず会則や倫理規程を確認してください。たとえば弁護士は、弁護士職務基本規程第13条第2項で、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価の受け取りが禁じられています。
- 紹介料を受け取らなければ、どんな商材を紹介しても問題ありませんか?
- 紹介料がなくても、5つの基準は同じように確かめるべきです。士業の紹介は顧問先にとって重みがあるため、課題に合わない商材やトラブル時の窓口があいまいな商材を勧めると、紹介料の有無にかかわらず信頼を損ないます。
- 顧問先の連絡先を販売元に伝えてもよいですか?
- 事前に顧問先の同意を得ることが前提です。個人情報保護法では個人データの第三者への提供に原則として本人の同意が必要で、士業には守秘義務もあるため、販売元の連絡先を顧問先に渡し、顧問先から連絡してもらう形がいちばん確実です。
- 保険を顧問先に勧めたいときはどうすればよいですか?
- 保険契約の締結の代理や媒介は、登録を受けた保険募集人などしか行えないため、登録がなければ専門家に引き継ぐ形にとどめましょう。特定の保険を勧めて契約に応じた報酬を受け取る形は、登録のない人は避けるべき関わり方です。
出典:第二東京弁護士会「本当に怖い非弁提携」2021年10月/消費者庁「ステルスマーケティングに関する特設ページ」/金融庁 金融審議会「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」資料(2012年6月27日)/個人情報保護委員会「よくある質問 Q3-4」(いずれも2026年11月4日確認)
