文責:藤田 泰仁
売り込まずに客単価を上げるには、来店理由に合うオプションを絞り、粗利が増えるセットだけを用意し、お客様が決める前に断りやすい形で案内します。そのうえで、客単価だけでなく粗利・客数・再来店率も導入前と比べ、どれかが落ちていれば内容や案内を見直します。
売り込まずに客単価を上げるには、オプションを絞り、決める前に断りやすく案内する
売り込まずに客単価を上げるには、来店理由に合うオプションを少数に絞り、粗利が増えるセットだけを用意し、お客様が決める前に断りやすい形で案内するのが基本です。客単価とは、お客様1人が1回の来店で支払う金額の平均です。ただし、客単価だけを見るのは危険です。日本政策金融公庫の2025年7〜9月期の調査では、生活衛生関係営業の客単価DIは8.9、利用客数DIは▲16.3でした。客単価は「上がった」が多く、客数は「減った」が多い状態です。オプションやセットを入れたら、粗利・客数・再来店率も一緒に確かめましょう。
上の数字は、日本政策金融公庫の生活衛生関係営業の景気動向等調査(2025年7〜9月期、2025年10月31日公表)によるものです。DIとは、「増えた」と答えた企業の割合から「減った」と答えた企業の割合を引いた指数です。対象は飲食店や理美容など生活に身近な業種で、個々の店の平均額を示す数字ではありません。
言葉も整理しておきます。今の注文に別の商品を足してもらうことをクロスセル、より上のメニューに変えてもらうことをアップセルと呼びます。この記事のオプションは主にクロスセル、価格の段階分けはアップセルにあたります。どちらも、お客様に必要がなければ押し売りになります。
オプション・セット・提案の順番は粗利でどう違う?
下の仮の数字では、値引きのないオプションが粗利を最も増やし、セットは選ぶ人が多くても粗利の増え方は小さくなります。粗利とは、売上から商品や材料の原価を引いた利益のことです。
計算の前提は、すべて説明用の仮の数字です。月の客数300人、客単価5,000円、本体の原価1,500円(1人あたり粗利3,500円)の店とします。追加するオプションは1,000円、原価200円(1人あたり粗利800円)です。計算を簡単にするため、消費税は考えません。
3つの方法の違いは「値引きの有無」「1人あたりの粗利」「準備の手間」の3点です。
| 比べる点 | オプションを足す | セットにする(500円引き) | 提案の順番を変える |
|---|---|---|---|
| 変えること | 1,000円の追加メニューを用意する | 本体+オプションを6,000円から5,500円にする | オプションの案内を会計時から来店前に移す |
| 値引き | なし | あり(500円) | なし |
| 1人あたりの売上増 | 1,000円 | 500円 | 1,000円 |
| 1人あたりの粗利増 | 800円 | 300円(800円−500円) | 800円 |
| 選ぶ人(仮) | 90人(客数の30%) | 120人(客数の40%) | 追加で30人(選ぶ人が30%から40%に増えた場合) |
| 月の売上増 | 9万円 | 6万円 | 3万円 |
| 月の粗利増 | 7万2,000円 | 3万6,000円 | 2万4,000円 |
| 導入後の客単価 | 5,300円 | 5,200円 | 5,400円(オプションを足した状態から) |
| 準備の手間 | 内容・時間・価格を決める | 粗利の計算と料金表の作り直し | 案内の場所と言葉を決める |
注意したいのは、単品でオプションを買っていた人がセットに移る場合です。この表で単品のオプションが90人に売れている店が、その90人を含む120人をセットに移すと、粗利の増加は7万2,000円から3万6,000円に半減します。90人×500円の値引きで4万5,000円減り、新しく選ぶ30人×300円で9,000円増える計算です。セットを作る前に、単品の売れ方を見ておきましょう。
売り込まずに客単価を上げる手順は?5つの段階
手順は「今の数字を控える→オプションを絞る→セットの粗利を計算する→案内の順番と言葉を決める→客数と再来店を確かめる」の5段階です。
- 導入前の客数・客単価・粗利・再来店率を控える
- 来店理由から、足す価値のあるオプションを少数に絞る
- セットは粗利を計算してから作る
- 案内する順番と、断りやすい言葉を決める
- 客数と再来店率が落ちていないか、導入前と比べる
段階1:客単価を上げる前に、どの数字を控える?
この段階のゴールは、導入後に比べるための基準を残すことです。
- 直近の客数と客単価を、月ごとに書き出す
- 主なメニューの原価から、1人あたり粗利を出す
- 再来店率を、決めた期間で計算しておく
客単価は「売上÷客数」で出せますが、それだけでは何が増えたのか分かりません。本体メニューと追加の注文に分けて記録すると、後の判断が楽になります。
客単価を注文の組み合わせに分解して考える方法は、飲食店開業の融資で通る売上計画とは|席数・客単価・集客の根拠の作り方の「客単価の根拠」の節が参考になります。開業時の計画の記事ですが、分解の考え方は開業後の見直しにも使えます。
段階2:小さな店のオプションはどう選ぶ?
この段階のゴールは、「来店理由に合い、粗利が残り、時間を食いすぎない」オプションだけを残すことです。
- お客様がよく聞いてくることや、追加で頼まれることを書き出す
- 1つずつ、粗利の金額と追加でかかる時間を出す
- 案内する数を絞り、誰に向くかを一言で書く
| 業種 | 来店の理由 | オプションの例 | セットの例 |
|---|---|---|---|
| 飲食店 | 記念日・会食 | 食後のデザート、メッセージプレート | コースと飲み物の組み合わせ |
| 美容室・サロン | 見た目を整えたい | ヘッドスパ10分、ハンドケア | カットとトリートメントの組み合わせ |
| 整体院・整骨院 | 通いやすさを重視したい | 施術の時間延長、自宅用の説明シート | 初回の説明と施術の組み合わせ |
| 教室・スクール | 続けて身につけたい | 個別の質問時間、復習用の資料 | 入門講座と個別相談の組み合わせ |
予約が埋まっている店は「時間あたりの粗利」で比べる
予約が埋まっている店では、オプションの粗利の金額より、1分あたりの粗利を見てください。時間を使いすぎるオプションは、次のお客様の枠を減らすからです。
仮に、本体が60分で粗利3,500円なら、1分あたり約58円です。粗利800円のオプションに10分かかるなら1分あたり80円で、本体より効率が上です。20分かかるなら1分あたり40円で、満席の時間帯は本体を1人多く受けるほうが粗利は残ります。空き時間が多い店なら、この差はあまり気にしなくて構いません。
オプションの数は多いほど選ばれる?
数を増やせば選ばれるとは言えず、比べにくいときは絞るほうが選びやすくなります。ただ、「絞れば売れる」とも言い切れません。
選択肢が多いと選びにくくなる現象を「選択過多」と呼びます。50の実験をまとめたScheibehenneらの分析(2010年)では、平均の効果はほぼゼロで、実験ごとの差が大きいと報告されました。一方、Chernevらの分析(2015年)は、選択肢が複雑なとき、決めるのが難しいとき、好みが定まっていないとき、手間を減らしたいときに起きやすいとしています。
店に当てはめると、初めての人向けの案内ほど絞り、詳しい常連の方には別の一覧を見せる、という分け方ができます。
段階3:粗利が減らないセットはどう作る?
この段階のゴールは、値引きしても本体だけのときより粗利が増えるセットを作ることです。
- セットの値引きは、足すオプションの粗利より小さくする
- セットの中身は、選ぶ人の多くが実際に使うものだけにする
- 単品の合計と、セットの価格を税込で並べて見せる
目安は単純で、値引きの額がオプションの粗利より小さければ、1人あたりの粗利は本体だけのときより増えます。先の例ならオプションの粗利は800円なので、800円引きで増加はゼロ、500円引きなら300円の増加です。割引を増やしたくなったときは、割引が効くのはなぜ?クーポンと期間限定の心理効果を小さな店向けに解説で触れた「待てば安くなると覚えられる」問題も合わせて考えてみてください。
セットの料金表で確認したい表示のルール
料金表に書く価格は税込の総額で示し、比べる「単品の価格」は実際に売っている価格だけにします。
- 税込の総額で書く:国税庁タックスアンサーNo.6902は、消費者にあらかじめ示す価格を総額表示の対象とし、媒体の種類は問わないとしています(令和8年4月1日現在法令等、2026年11月8日確認)。口頭で伝える価格は対象外です
- 比べる価格は実績のある価格にする:消費者庁の二重価格表示の解説は、最近相当期間にわたって販売されていない価格との比較は不当表示のおそれがあるとしています。目安は消費者庁のQ&A(Q21)で確認できます(2026年11月8日確認)
- エステの回数券やコースは法律を確かめる:特定商取引法ガイドでは、エステは期間が1か月を超え、金額が5万円を超える契約が特定継続的役務提供(長期・高額のサービスを規制する枠組み)の対象です。書面の交付やクーリング・オフ、中途解約のルールがあります(2026年11月8日確認)
段階4:オプションの提案はどの順番で案内する?
この段階のゴールは、お客様が予定やお金を考えられるうちに、必要な人だけが選べる形で案内することです。
- 時間や料金が変わるものは、予約の時点で見せる
- 悩みに合うものは、来店時の聞き取りのあとに一つだけ伝える
- 会計時は、持ち帰りや次回の案内にとどめる
| 案内する場面 | 向いているもの | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 予約ページ・メニュー表 | 時間や料金が変わるオプション、セット | 料金を書かず「ご相談ください」とだけ書く |
| 来店時の聞き取り | お客様の話に合う追加メニューを一つ | 聞き取りの前に一覧を全部説明する |
| 提供の途中 | 飲み物の追加、デザートなど短時間で決められるもの | 施術中や食事中に何度も声をかける |
| 会計時 | 次回の予約、持ち帰りの商品 | 会計の直前に高額なものを初めて出す |
案内の順番で選ばれ方が変わることは、研究でも報告されています。Levavらの実験(2010年)では、オーダースーツと自動車の注文で項目を見せる順番を変えたところ、選ばれる仕様や自動車の価格が変わりました。店が用意した標準の選択肢を受け入れるかどうかに差が出たとみられています。
ただ、これは大きな買い物の実験で、小さな店に同じ効果があるとは限りません。また、お客様が疲れたころに高い標準を受け入れさせる使い方は、信頼を損ないます。この記事で勧めたいのは、早い段階で全体を見せ、考える余裕を残す順番です。
押し売りになる案内と、お客様が選びやすい案内はどう違う?
違いは、お客様が「内容・価格・断り方」を分かったうえで自分で決められるかどうかです。
| 場面 | 押し売りになる案内 | お客様が選びやすい案内 |
|---|---|---|
| サロンの会計時 | 「今日だけなので、この商品も買っておきましょう」 | 「今日お話しされた乾燥が気になるときに使う商品があります。税込2,200円です。今回は見送っても大丈夫です」 |
| 整体院の聞き取り | 「これをしないと悪化しますよ」と不安をあおる | 「時間を10分延ばすこともできます。税込1,100円です。今日の予定に合わせて選んでください」 |
| 飲食店の注文 | 何も聞かずにコース料理へ追加メニューを入れる | 「お祝いのデザートプレートは税込800円で追加できます。ご希望の方だけお申し付けください」 |
| 予約ページ | オプションに最初からチェックが入っている | チェックは外した状態で、内容と税込価格を横に書く |
| 断られたあと | 「皆さんやっていますよ」ともう一度勧める | 「承知しました」で終わり、その後は勧めない |
声をかけるときは、「誰に向くか」「内容」「かかる時間」「税込価格」「断ってよいこと」の5つを入れると、案内の質がそろいます。スタッフがいる店は、言葉を紙に書いて共有しておくと、人によるばらつきを減らせます。
度を超えた勧誘には法律の問題もあります。目黒区の消費者契約法の解説では、帰りたいと言っても帰さない、不安につけ込む、明らかに多すぎる量を売るといった勧誘は、契約を取り消せる場合があると紹介されています(2024年1月10日更新のページ、2026年11月8日確認)。
段階5:客単価が上がっても客数や再来店は落ちていない?
この段階のゴールは、客単価だけでなく、粗利・客数・再来店率が導入前より落ちていないかを確かめることです。
- 導入前と同じ計算で、月ごとに数字を並べる
- 季節の影響を避けるため、前年の同じ月とも比べる
- 自店の来店周期が1周以上たってから再来店率を見る
| 確認する数字 | 計算のしかた | こうなっていたら見直す |
|---|---|---|
| 客数 | 月の来店人数を数える | 客単価が上がった月に、客数が減っている |
| 1人あたり粗利 | (売上−原価)÷客数 | 客単価は上がったが、粗利は増えていない |
| オプションを選ぶ割合 | 選んだ人数÷客数 | 特定のスタッフの担当分だけ極端に高い、または低い |
| 再来店率 | ある月に来た人のうち、決めた期間内にもう一度来た人の割合 | 導入前より下がっている |
| 苦情・キャンセル | 件数と理由を書き留める | 「勧められて断りにくかった」という声がある |
客数の減少がどこまで許されるかは、先に計算できます。仮に、オプションを30%の人が選ぶと1人あたり粗利は3,740円(3,500円+800円×30%)です。導入前の月の粗利は105万円(300人×3,500円)なので、客数が281人なら105万940円で上回り、280人なら104万7,200円で下回ります。
つまり、客単価が5,300円に上がっても、客数が20人減って280人になれば、売上は148万4,000円(導入前より1万6,000円減)、粗利も2,800円減ります。「客単価は6%上がったのに、もうかっていない」という状態です。
再来店も同じです。仮に100人のお客様が年6回来て、1回の粗利が3,500円なら年210万円です。1回の粗利が3,740円に増えても、来店が年5.5回に減れば年205万7,000円で、4万3,000円少なくなります。来店が年に約5.6回を下回ると、導入前より粗利が減る計算です。
やめる基準も、導入前に決めておきましょう。たとえば「客数が2か月続けて281人を下回る」「再来店率が導入前より5ポイント以上下がる」といった形です(どちらも仮の基準です)。あとから考えると、都合のよい解釈をしてしまいがちです。
オプションを選んだ人の再来店率が高くても、オプションのおかげとは言い切れません。もともと店を気に入っている人が選んでいるだけかもしれないからです。導入前後の全体の再来店率も並べて見ましょう。再来店率を出すには来店日の記録が要るので、飲食店・整骨院・サロンのリピーターを増やす方法|顧客台帳の作り方を参考に、台帳を先に整えておくと確認が楽になります。
価格を段階に分けるのは、どんな店に向いている?
価格の段階分けは、同じメニューの中で内容の違いをはっきり説明できる店に向いています。
「梅・竹・松」のように3段階に並べると、中間を選ぶ人が増える場合があることは、Simonsonの研究(1989年)でも妥協効果として扱われています。ただし、選ばれない上位メニューをただ置くだけでは、仕入れや説明の手間が増えます。実際に出す価値のある内容で段階を作れるときだけ検討すれば十分です。
よくある質問
- 客単価はいくら上げればよいですか?
- 金額より、1人あたり粗利が増えて客数と再来店率が保てる範囲で決めるのがよいです。業種や立地で適正な金額は変わるので、まず自店の数字で「客数がどこまで減っても粗利が下がらないか」を計算してください。
- オプションとセットは、どちらから始めるべきですか?
- 値引きがいらないオプションから始めるのがおすすめです。単品の売れ方が分かってからセットを作ると、もともと単品で買っていた人がセットに移って粗利が減る失敗を防げます。
- 声をかけるのが苦手でも客単価は上げられますか?
- 声かけがなくても、予約ページやメニュー表に内容と税込価格を書いておくだけで案内はできます。口頭で伝える場合も、決まった言葉を一つ用意して一度だけ伝え、断られたら終わりにすれば十分です。
- セットの「通常価格」はどう書けばよいですか?
- 実際に販売している単品の合計を書き、税込で示します。売った実績のない価格を比較に使うと、景品表示法の不当な二重価格表示にあたるおそれがあります。
客単価と集客のどちらを優先するか迷ったら?
迷ったら、まず粗利と客数を並べて、利益がいちばん減っている場所から手をつけます。客数が足りないのか、1人あたりの粗利が足りないのか、再来店が続かないのかで、やることの順番は変わります。
オプションひとつの話に見えても、実際には商品の組み立て、予約の流れ、スタッフの案内、集客までつながっています。一人で全部を見直す時間がない、何から手をつけるかを誰かと整理したいという場合は、事業戦略顧問で優先順位の整理から実行まで一緒に進める方法もあります。
