文責:藤田 泰仁
居抜きの飲食店開業で費用が膨らむのは、残った設備の価値と所有者、自分の業態に必要な工事、契約後に続く費用を、契約前に見積もりへ入れていないことが主な原因です。設備を「譲渡品・リース品・処分品」に分け、リース品の残債と扱いを書面で確かめてから、運転資金まで含めた総額で判断しましょう。
居抜きの飲食店開業で費用が膨らむ原因は、主に5つ
居抜きの飲食店開業で費用が膨らむ主な原因は、①造作譲渡料を設備の残り寿命で見ていない、②リース品が混ざっていて残債や返却の問題が出る、③設備の修理・入れ替えが重なる、④自分の業態に合わせた工事が必要になる、⑤保守や運転資金など「あとから来る費用」を入れていない、の5つです。日本政策金融公庫総合研究所の[「2025年度新規開業実態調査」](https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_251205_1.pdf)(2025年12月5日公表、全業種)では、開業費用の平均は975万円、中央値は600万円でした。同じ調査で、開業時に苦労したことの1位は「資金繰り、資金調達」(56.9%)です。居抜きは初期費用を抑えやすい一方、契約前の見積もりに抜けがあると、この資金繰りの苦労に直結します。
居抜き物件とは、前の店の内装や厨房設備が残ったまま貸し出される物件のことです。「設備がそろっているから安く済む」と考えがちですが、実際には、残った設備の状態や持ち主、契約の条件まで一緒に引き受けることになります。この記事では、居抜きの飲食店開業で費用が想定より膨らむ原因を、契約前に確かめる設備とリースを中心に整理します。
営業許可や消防、原状回復まで含めた契約前の確認の全体像は、飲食店の居抜き物件の注意点|契約前に確かめる設備・造作譲渡・原状回復で順番に解説しています。この記事は、その中でも「お金がどこで膨らむか」に絞った内容です。
居抜きの飲食店開業で、費用が膨らむ原因と最初の対策は?
5つの原因は、どれも契約前に見積もりへ入れておけば、あとから慌てずに済むものです。何が起きるかと、最初に打つ対策を一覧にしました。
| 費用が膨らむ原因 | 何が起きるか | 最初の対策 |
|---|---|---|
| 造作譲渡料を残り寿命で見ていない | 譲り受けた設備がすぐ寿命を迎え、譲渡料と買い替え費用を二重に払う | 設備ごとに製造年を書き出し、新品・中古で買う場合の見積もりと比べる |
| リース品が混ざっている | 所有者はリース会社のため、引き渡し後に返却や残りのリース料の支払いを求められる | 設備ごとに所有者を確かめ、リース品は譲渡の対象から外して扱いを決める |
| 設備の修理・入れ替えが重なる | 開業直後に冷蔵庫や製氷機が止まり、修理費と食材の廃棄が出る | 内見時に通電・点火して動作を確かめ、不具合時の負担を契約書に書く |
| 業態に合わせた工事が必要 | 電気・ガス・排気の容量や消防設備が足りず、追加工事の費用と日数がかかる | 使う機器の一覧を業者に見せ、契約前に工事の要否と見積もりを取る |
| あとから来る費用を入れていない | 保守契約や退去時の原状回復、開業後の運転資金が足りなくなる | 初期費用だけでなく、開業後の数か月分の支払いまで資金計画に入れる |
居抜きの飲食店の開業費用は、どの順番で見積もる?
見積もりは、次の5段階で進めると抜けを防げます。残った設備を仕分けるところから始めて、最後に開業後の運転資金まで足す順番です。
- 1. 残っている設備の一覧をもらい、「譲渡品・リース品・処分品」に分ける
- 2. 譲渡品ごとに製造年と状態を確かめ、修理・入れ替えの費用を見込む
- 3. 自分のメニューと席数に必要な工事(電気・ガス・排気・消防・内装)の見積もりを取る
- 4. 保証金・造作譲渡料・仲介手数料など、契約で決まる費用を足す
- 5. 保守契約・リース料・開業後の運転資金を足して、総額で判断する
ポイントは、「造作譲渡料がいくらか」ではなく「この物件で開業して、軌道に乗るまでに総額いくらかかるか」で比べることです。造作譲渡料が安い物件でも、設備の入れ替えや工事が多ければ、総額では高くなることがあります。
造作譲渡料とは?居抜きで払いすぎないための見方
造作譲渡料とは、前の店が設置した内装や厨房設備を引き継ぐときに、前の店(前のテナント)に支払うお金のことです。家賃や保証金を受け取る貸主とは、別の相手に払います。
- 設備ごとに品名・型番・製造年を書き出す
- 自分の営業で使う設備と、使わない設備(撤去が必要な物)を分ける
- 使う設備は、新品や中古で買う場合の見積もりと並べて比べる
現場でよくあるのは、内装の雰囲気や設備の数で「お得だ」と判断し、譲渡料を払ったあとで主要な機器の買い替えが必要になるケースです。製造から年数がたった冷蔵庫や製氷機、食洗機は、開業後まもなく修理が必要になることもあります。また、自分の業態で使わない設備が残っていると、撤去や処分の費用がかかります。譲渡料は「使える設備の残りの価値」から考え、使わない物の撤去を誰が負担するかも、契約前に決めておきましょう。
居抜き物件のリース品は、契約前に何を確かめる?
リース品について確かめることは、「誰の持ち物か」「残りのリース料はいくらか」「引き継ぐのか返すのか」の3点です。リース品とは、前の店がリース会社と契約して借りている設備のことで、前の店の持ち物ではありません。
- 設備ごとに、リース会社の名前や管理番号のシールが貼られていないかを見る
- 前の店に、リース契約の有無と、残りの期間・残りのリース料を書面で出してもらう
- リース品をどう扱うか(前の店が清算する・引き継ぐ・返す)を、造作譲渡契約の前に決める
リース事業協会の「小口リースを安心してご活用いただくために」(平成24年12月発行)は、リース契約の特徴として、①中途解約できない(合意で解約する場合は残債務を払う)、②リース会社は保守・点検を行わない、③所有権はリース会社にあり、期間が終わったら返すか再リースする、の3点を挙げています。つまり、前の店が閉店しても残りのリース料はなくならず、前の店が勝手に次の借り手へ譲ることもできません。リース品だと知らずに造作譲渡料に含めて払うと、引き渡し後にリース会社から返却を求められ、同じ機器を自分で買い直すことになりかねません。
居抜きで残ったリース品の扱い方は3通り
扱い方の違いは、「誰が残りのリース料を負担するか」と「開業後に自分の持ち物になるか」の2点です。どれを選べるかはリース会社の判断や契約書の条項によるため、前の店を通じてリース会社に確かめてください。
| 扱い方 | 残りのリース料 | 開業後の持ち主 | 確かめること |
|---|---|---|---|
| 前の店が清算してから譲り受ける | 前の店が負担して精算する | 清算後に買い取りができれば自分 | 清算と買い取りが済んだことを書面で確かめてから、譲渡品に入れる |
| リース契約を引き継ぐ | 引き継いだ自分が払い続ける | リース会社のまま | リース会社が引き継ぎを認めるか、残りの期間と月額、保守の範囲 |
| リース会社に返す | 前の店とリース会社の間で処理する | なし(自分で別に調達する) | 返却の日程と、代わりの機器を入れる費用と日数 |
引き継ぐ場合は、リース料が開業後の毎月の固定費に加わります。前の店が残した契約は、月額は小さく見えても、残りの期間の合計で考えると負担が大きいことがあります。リース事業協会の資料も、リース期間中に支払うリース料総額の確認が重要だとしています。
リース・レンタル・割賦購入は何が違う?
違いは3点で、「途中でやめられるか」「保守を誰が負担するか」「持ち主は誰か」です。居抜きで残った設備がどの形で入っているかによって、引き継いだあとの費用が変わります。リース事業協会の同じ資料の比較表をもとに整理しました。
| 比べる点 | リース | レンタル | 割賦購入 |
|---|---|---|---|
| 途中でやめられるか | できない(合意で解約する場合は残債務を払う) | できる(契約内容による) | できない(合意で解約する場合は残債務を払う) |
| 保守・点検 | 使う人の負担 | レンタル会社の負担 | 使う人の負担 |
| 持ち主 | リース会社 | レンタル会社 | 使う人(払い終わるまでは売主に所有権が残る) |
割賦購入とは、代金を分割で払って設備を買う方法のことです。払い終わるまでは売主に所有権が残るため、払い終わっていない機器も、リース品と同じく前の店が自由に譲れるとは限りません。
居抜きの厨房設備の修理・入れ替え費用は、どこで膨らむ?
修理・入れ替えの費用は、「動くかどうかを確かめないまま引き継いだ設備」で膨らみます。何が起きるかというと、開業してすぐに冷蔵庫や製氷機が止まり、修理費に加えて食材の廃棄や営業の中断が出ます。最初の対策は、内見のときに実際に動かして確かめることです。
- 冷蔵庫・冷凍庫・製氷機は通電して、冷えるまで待って温度を確かめる
- コンロ・フライヤー・オーブンは点火して、火力と安全装置の動きを見る
- 給排水・グリストラップ・排気ダクトの汚れや詰まりを見て、清掃の記録を聞く
造作譲渡契約で、引き渡しを「現状有姿(見たままの状態で引き渡すこと)」とした場合、引き渡し後に見つかった故障は、引き継いだ側の負担になりやすくなります。動作を確かめた結果と、不具合があったときに誰がどこまで負担するかを、契約書に書いておきましょう。
業態を変えると、居抜きでも工事費がかかるのはなぜ?
前の店と業態やメニューが違うと、同じ厨房でも電気・ガス・排気の能力や席の配置が合わず、工事が必要になるからです。たとえば、喫茶店の跡を焼き物や揚げ物が中心の店にする場合、火力や排気が足りないことがあります。席の区切り方を変えると、消防設備の追加が必要になることもあります。
全日本不動産協会が紹介する裁判例(東京高裁 令和3年9月15日判決)では、居抜き店舗が消防法令や建築基準法に合わず、借主が予定した飲食営業ができなかった件で、必要な設備や営業形態への適合は、原則として借主が契約前に調べるべきとされました。工事の要否は、契約前に借りる側が確かめる前提で見積もりを組みましょう。保健所・消防署への相談の進め方は、先に挙げた居抜き物件の注意点の記事で解説しています。
居抜きの契約前に見落としやすい「あとから来る費用」は?
あとから来る費用の代表は、保守契約の費用、退去時の原状回復の費用、開業後の運転資金の3つです。どれも契約の時点では払わないため、初期費用の見積もりから抜けやすい費用です。
- 保守契約:リース会社は保守・点検を行わないため、引き継ぐリース品の保守を誰とどう契約するかを確かめる
- 原状回復:退去時に「スケルトンに戻す」と定めた特約があると、前の店がつくった内装の撤去費用まで負うことがある
- 運転資金:開業直後は売上が安定しないため、家賃・人件費・仕入れ・リース料などの支払いを数か月分見込む
スケルトンとは、内装や設備をすべて撤去して、建物の骨組みに近い状態に戻すことです。原状回復の範囲は賃貸借契約の特約で決まるため、退去時の費用は「今すぐの支払い」ではなくても、物件を比べるときの判断材料に入れておきましょう。
運転資金をどこまで見込むかは、開業後の売上の見通しとセットで決まります。席数・客単価・来店数から売上を組み立てる方法は、飲食店開業の融資で通る売上計画とは|席数・客単価・集客の根拠の作り方で解説しています。資金を融資と補助金のどちらで手当てするかは、開業1〜3年目の資金調達|創業融資と補助金の違いと使い分け方が参考になります。
居抜きの開業費用を、優先順位で整理するには?
設備の仕分けやリース品の確認、見積もりの取り寄せは、手順どおりに進めれば経営者自身で取り組めます。難しいのは、出てきた見積もりのうち、どれを開業前に払い、どれを開業後に回し、どれを削るかを決めることです。その判断は、「どんなお客様に、いくらの料理を、何席で出すのか」という店の設計と、開業後の集客の見通しによって変わります。
たとえば、席数を増やすための工事にお金をかけるか、開業後の集客や運転資金に残すかは、物件だけを見ていても決められません。費用を一つずつ削る前に、店の設計と資金の使い道の優先順位を先に決めておくと、契約前の判断がぶれにくくなります。
まとめ
居抜きの飲食店開業で費用が膨らむのは、造作譲渡料、リース品、設備の修理・入れ替え、業態に合わせた工事、あとから来る費用を、契約前の見積もりに入れていないことが主な原因です。残った設備を「譲渡品・リース品・処分品」に分け、リース品は所有者と残りのリース料、扱い方を書面で確かめましょう。そのうえで、保守・原状回復・運転資金まで含めた総額で、物件を比べることが大切です。
見積もりがそろったあと、どこにお金をかけ、どこを後回しにするかは、事業全体の優先順位と切り離せません。当社の事業戦略顧問では、事業戦略・集客・業務改善をまとめて見ながら、経営者と一緒に優先順位を整理し、実行まで伴走しています。「出店の判断と資金の使い道を、一度整理したい」と感じた方は、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 居抜き物件なら、スケルトン物件より開業費用は必ず安くなりますか?
- 必ず安くなるとは限りません。造作譲渡料に加えて、設備の入れ替えや業態に合わせた工事、使わない設備の撤去が重なると、総額では想定より高くなることがあります。設備の状態と必要な工事を確かめたうえで、総額で比べましょう。
- 前の店のリース品を、造作譲渡料を払って買い取れますか?
- 前の店との取引だけでは買い取れません。リース品の所有権はリース会社にあるため、前の店がリースを清算して自分の物にするか、リース会社が契約の引き継ぎを認めるかを、リース会社に確かめる必要があります。
- リース品を引き継いだら、故障の修理はリース会社がしてくれますか?
- リース会社は保守・点検を行わないのが原則です。リース事業協会の資料でも、保守が必要な物件は販売店などと別に保守契約を結ぶよう案内しています。引き継ぐ前に、保守契約の有無と内容を確かめておきましょう。
- 造作譲渡料は、いつ・誰に払いますか?
- 造作譲渡料は、内装や設備を持っている前の店(前のテナント)に払います。支払いと引き渡しの日は造作譲渡契約で決めるため、貸主との賃貸借契約の日付と食い違わないように並べて確認しましょう。
出典(2026年11月6日確認):日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査~アンケート結果の概要~」(2025年12月5日)/社団法人リース事業協会「小口リースを安心してご活用いただくために」(平成24年12月発行)/全日本不動産協会「居抜き店舗賃貸と当該営業が可能であることの保証」
