文責:藤田 泰仁
閑散期の店舗集客は、値引きの前に曜日・時間帯別の売上で谷を特定し、予約枠の案内・目的別の企画・常連への案内・貸切を、残る粗利で比べて1つずつ試すのが基本です。値引きを使うなら対象を谷の枠に限り、繁忙日の予約や常連の流れに影響が出ていないかを同じ期間で確かめてください。
閑散期の店舗集客は「谷を見つけて、粗利が残る順に打つ」
閑散期の店舗集客は、値引きの前に売上の「谷」を数字で特定し、打ち手を残る粗利で比べて決めるのが基本です。外食全体でも、土日が前年より2日多かった2026年5月は売上が前年比109.8%、台風が重なり土日も少なかった6月は103.3%でした(日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」2026年5月度・6月度)。曜日の並びと天気は、売上に表れます。小さな店なら、まず曜日・時間帯ごとの売上で谷を見つけます。次に、予約枠の案内、目的別の企画、常連への案内、貸切、値引きを同じ条件で試算します。全員向けの値引きは、増えた客数の粗利より、既存客への値下げ分のほうが大きくなることがあります。
上の数字は2026年5月度の発表(2026年6月25日)と6月度の発表(2026年7月27日)によるものです。5月度の発表では、土日の多さのほかに大型連休の行楽需要も押し上げの要因に挙げられています。6月度の発表では、雨の日が多く、ファミリーレストランや飲酒業態で客足が伸び悩んだと説明されています。外食全体の集計なので、個々の店の動きをそのまま示すものではありません。自分の店の谷は、自分の店の数字で確かめる必要があります。
割引が効く理由そのものは、割引が効くのはなぜ?クーポンと期間限定の心理効果を小さな店向けに解説で整理しています。この記事では、割引を「使うかどうか」を粗利でどう決めるかに絞ります。
値引きと、値引きしない打ち手は何が違う?
違いは3点です。客単価が下がるか、もともと来ていたお客様の分まで影響するか、準備にどれだけ手がかかるかです。
| 打ち手 | 向いている谷 | 客単価への影響 | 手間 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|---|
| 予約枠の案内 | 平日の夕方など、決まった曜日・時間帯 | 変わらない | 小さい | 「いつも空いている店」に見えない書き方にする |
| 目的別の企画 | 月の谷、平日の夜 | 上げられることもある | 中くらい | 準備で繁忙日の仕込みを圧迫しない |
| 常連への案内 | 雨の日、急に空いた枠 | 特典の分だけ下がる | 小さい(顧客の記録が前提) | 送りすぎない。どのみち来る人も混ざる |
| 貸切 | 平日の夜、定休日 | 上げられることもある | 中〜大きい | 断る通常客の分を差し引いて考える |
| 空き枠だけの値引き | 当日の空き、雨の日 | 対象の分だけ下がる | 小さい | 繁忙日には使えない条件にする |
| 全員向けの値引き | 在庫を急いで動かすときなど | 全員分下がる | 小さい | もともと来る人の粗利まで減る |
閑散期の集客は、どの順番で進める?
谷を見つける、粗利で比べる、小さく試す、判断する、の4段階で進めます。
- 谷を見つける:曜日・時間帯ごとの売上を表にする
- 粗利で比べる:打ち手ごとに残る金額を試算する
- 小さく試す:谷の枠を1つ選び、打ち手を1つだけ実行する
- 判断する:谷の粗利と繁忙日の売上の両方を見て、続けるか決める
閑散期とアイドルタイムは何が違う?
閑散期は月や季節の単位で客足が落ちる時期、アイドルタイムは1日の中で客足が落ちる時間帯のことです。オフシーズンは、閑散期とほぼ同じ意味で使われます。
分けて考えるのは、打ち手が変わるからです。1日の中の空きには短い時間で案内できる予約枠が合い、月単位の落ち込みには準備期間のある企画が合います。この記事では、平日、雨の日、月の落ち込みをまとめて「谷」と呼びます。
売上の谷はどう見つける?曜日・時間帯別の集計
この段階のゴールは、どの枠が谷なのかを、感覚ではなく数字で1〜3つ決めることです。
- レジや予約台帳から、直近4週間の売上を曜日別・時間帯別に集める(同じ曜日が4回ずつ並ぶので比べやすい)
- 枠ごとの平均を表にして、低い順に3つ選ぶ
- 席や予約枠の埋まり具合も横に書く
| 曜日 | 昼(11〜14時) | 夕方(17〜19時) | 夜(19〜22時) | 1日の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 火 | 12 | 8 | 30 | 50 |
| 水 | 14 | 6 | 30 | 50 |
| 木 | 16 | 10 | 44 | 70 |
| 金 | 18 | 20 | 82 | 120 |
| 土 | 30 | 40 | 100 | 170 |
| 日 | 34 | 30 | 56 | 120 |
| 週の合計 | 124 | 114 | 342 | 580 |
この仮の店では、火曜と水曜の合計はどちらも5万円で、2日合わせて週の売上58万円の約17%です。中でも夕方が特に薄いと分かります。「平日がなんとなく暇」という感覚が、「火・水の夕方」という具体的な枠に変わります。
売上が低くても席が埋まっている枠は、谷ではありません。その場合は集客より、価格やメニューの見直しの話になります。現場でよくあるのは、ここを分けないまま「お客様を増やす」施策に進んでしまうことです。
雨の日の売上の谷はどう測る?
雨の日の谷は、同じ曜日の晴れの日と比べると見えてきます。売上の記録の横に、天気を一言書いておくだけで構いません。数か月分たまると、雨で落ちる曜日と、あまり落ちない曜日が分かれてきます。雨の日は予測してから準備する時間が短いので、当日の朝に送れる案内の文面を先に作っておくと動きやすくなります。
月の売上の谷はどう測る?
月の谷は、過去12か月の「1営業日あたりの売上」を並べて、低い月を2つ選ぶと分かります。月の売上を営業日数で割るのは、冒頭の外食の例のように、土日の数や祝日の並びで月の売上が動くからです。谷の月が分かったら、企画の準備と告知にかかる期間を逆算して、取りかかる月を決めます。
毎月の数字を見る習慣がまだない場合は、小規模事業者の月次レポートはA4一枚でいい|作り方と打ち手の決め方の形に、谷の枠の売上を1行足すと続けやすくなります。
値引きと他の打ち手は、粗利でどれだけ差が出る?
この段階のゴールは、打ち手ごとに「増えた粗利から差し引く額を引いて、いくら残るか」を同じ物差しで試算することです。粗利とは、売上から材料費や仕入れなどの原価を引いた金額です。売上ではなく粗利で比べるのは、値引きをすると売上が同じでも手元に残るお金が減るからです。
先ほどの仮の店を使って、火・水の2日×4週(8日間)の谷で試算します。前提は次のとおりです。
- 客単価5,000円、原価1,500円、1人あたりの粗利3,500円
- 火・水は1日10人で、8日間の合計は80人
- 8日間の売上は400,000円、粗利は280,000円
| 打ち手 | 仮の前提 | 増える粗利 | 差し引く額 | 残る額 |
|---|---|---|---|---|
| 全員向けの20%引き | 客が20人増え、全員4,000円(1人の粗利2,500円) | 20人×2,500円=50,000円 | もとの80人×値引き1,000円=80,000円 | −30,000円 |
| 空き枠だけ20%引き | 20人が利用。15人は新しく増えた人、5人はどのみち来る人 | 15人×2,500円=37,500円 | 5人×1,000円=5,000円 | +32,500円 |
| 予約枠の案内 | 定価のまま10人増える | 10人×3,500円=35,000円 | 0円 | +35,000円 |
| 目的別の企画 | 単価6,000円・原価2,000円で12人参加。2人はどのみち来る人。告知費5,000円 | 12人×4,000円=48,000円 | 2人×3,500円+5,000円=12,000円 | +36,000円 |
| 常連への案内 | 12人が来店。4人はどのみち来る人。特典は原価200円 | 12人×3,500円=42,000円 | 4人×3,500円+12人×200円=16,400円 | +25,600円 |
| 貸切(1日) | 20人×5,000円(原価1,500円)。その日の通常客10人を断り、追加の人件費10,000円 | 20人×3,500円=70,000円 | 10人×3,500円+10,000円=45,000円 | +25,000円 |
見てほしいのは、順位より計算の形です。何人増えるかは店によって大きく変わり、前提を変えれば順位も入れ替わります。自分の店の客単価と原価を入れて、「どのみち来る人」と「断る人」の分を差し引いてみてください。あわせて、準備にかかる時間も横に書いておくと、手間も含めて比べられます。
谷を埋める打ち手は、どう選んで試す?
この段階のゴールは、谷を1つ、打ち手を1つに絞り、同じ条件で試せる状態にすることです。
- 試す谷の枠を1つ決める
- 試算と手間を見て、打ち手を1つ選ぶ
- 試す期間と、やめる基準を先に書いておく
試す期間は、たとえば4週間にすると、同じ曜日が4回あるので前後の比較がしやすくなります。一度に複数の打ち手を始めると、どれが影響したのか分からなくなります。
予約枠の案内では、空き枠をどう書けばいい?
予約枠の案内では、「いつ・何人で・どんな人に合う枠か」を具体的に書きます。「空いています」とだけ書くより、「火曜の18時台は、ゆっくり話したい2人組に向いた枠です」のほうが、お客様は自分の予定に重ねて考えられます。
案内する場所は、レジ前の案内、Googleマップの投稿、Instagramなど、お客様が予約の直前に見る場所から選びます。定価のままなので、客単価は下がりません。費用が小さい分、最初に試す候補になりやすい打ち手です。
目的別の企画は、平日に来る理由をどう作る?
目的別の企画は、お客様が「その日に行く理由」を1つ作ることです。値段を下げる代わりに、用途を決めて内容を組みます。
- 飲食店:平日夜の少人数の送別会コース、季節の飲み比べの会
- サロン:友人同士で同じ時間に予約できる平日昼の枠
- 整骨院・整体:仕事帰りに立ち寄れる時間を明示した夕方の枠
- 教室・物販:平日に開く少人数の体験回
決めるのは、対象の人、定員、価格、所要時間の4つです。定員を先に決めると、準備する量と、試算の上限が分かります。
常連への案内は、いつ誰に送る?
常連への案内は、谷の枠に来たことのある人から先に、個別に送ります。全員に一斉に送るより、「火曜によく来られる方へ」と相手を絞るほうが、読まれやすくなる場合があります。お客様の記録の作り方と連絡の順番は、飲食店・整骨院・サロンのリピーターを増やす方法|顧客台帳の作り方で解説しています。広告のメールやSMSの同意のルールも、あわせて確認してください。
特典をつける場合は、景品の上限にも注意します。お客様全員に渡す景品の最高額は、取引価額が1,000円未満なら200円、1,000円以上なら取引価額の10分の2までです(消費者庁「景品規制の概要」、2026年11月8日確認)。
貸切はいくらから受ける?最低ラインの計算
貸切を受ける最低ラインは、貸切の粗利が「通常営業で得られたはずの粗利+追加の費用」を上回る金額です。仮の店なら、通常客10人の粗利35,000円と追加の人件費10,000円で、45,000円の粗利が最低ラインになります。粗利率70%なら、売上で約64,300円(45,000円÷0.7)です。これは下限の計算で、提示する価格そのものではありません。
貸切は、キャンセルされたときの痛手も大きい打ち手です。経済産業省の委託調査事業で2018年にまとめられた「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」では、飲食店の無断キャンセルの被害額は年間約2,000億円と推計されています(経済産業省の解説記事「無断キャンセルが引き起こす負のスパイラル」)。受ける前に、人数の下限、確定の期限、キャンセル時の料金を書面やメールで取り交わしておきましょう。
値引きするなら、どこまでなら粗利が残る?
値引きをするなら、対象を谷の枠に限り、繁忙日には使えない条件にします。値引きで元の粗利を保つには、次の倍率まで客数を増やす必要があります。
- 必要な客数の倍率=粗利率÷(粗利率−値引き率)
- 仮の店(粗利率70%)で20%引き:70÷(70−20)=1.4倍。80人なら112人で、32人増が必要
- 粗利率50%の店で20%引き:50÷(50−20)=約1.67倍で、約67%増が必要
「通常価格」と並べて安く見せる場合は、景品表示法のルールが関わります。比べる価格は、実際に最近相当期間にわたって販売していた価格にしましょう(消費者庁「二重価格表示」、2026年11月8日確認)。また、自店の値引きは一般に景品類に当たらないとされますが、同じ企画で景品の提供と合わせて行うと値引きと認められない場合があります(消費者庁「景品類ではないもの」、2026年11月8日確認)。判断に迷うときは、消費者庁や専門家に確認してください。
繁忙期のお客様の流れを崩さないには?
繁忙期の流れを守るには、谷の施策を谷の枠だけで完結させ、繁忙日の予約や接客の手順は変えないことです。よくあるリスクと最初の対策は次のとおりです。
| リスク | 何が起きるか | 最初の対策 |
|---|---|---|
| 繁忙日の客が谷の割引に流れる | 定価で来ていた人が値引きの日に移り、粗利が下がる | 使える曜日と時間を限定し、繁忙日には使えないと明記する |
| 常連が割引の案内を不満に思う | 「定価で通っていたのに」と感じられる | 常連には値引きより、優先の案内や特典の形で先に知らせる |
| 企画の準備で繁忙日が回らない | 仕込みや片付けが重なり、接客の質が落ちる | 準備を谷の日に置き、繁忙日の前日には作業を入れない |
| 貸切で通常の予約を断る | いつものお客様が入れず、離れるきっかけになる | 繁忙日の貸切は避け、休業日は早めに店頭やSNSで知らせる |
| 問い合わせの窓口が増える | 電話・DM・フォームがばらばらで、繁忙日の対応が増える | 谷の案内の予約先を1つに決める |
試した打ち手は、どの数字で続けるか決める?
この段階のゴールは、谷の粗利と繁忙日の売上の両方を見て、続ける・変える・やめるを決めることです。
- 試した枠の客数と粗利、どのみち来た人の数を記録する
- 繁忙日の売上と予約数を、試す前の4週間や前年の同じ週と比べる
- 準備と案内にかかった時間を書き出す
判断は次の形にすると迷いにくくなります。残る額がプラスで、繁忙日の売上や予約数が下がっておらず、準備の時間も無理なく続けられるなら続けます。残る額がマイナス、または繁忙日の数字が下がったら、対象の枠や条件を見直すか、やめます。冒頭の外食の例のように、数字は天気や曜日の並びでも動くので、1回の結果だけで決めず、同じ条件でもう一度確かめることも大切です。
閑散期の店舗集客でよくある質問
- 閑散期に値引きはしないほうがいいですか?
- 谷の枠に限るなら、値引きも選択肢の1つです。問題になりやすいのは、全員向けに値引きして、もともと来ていた人の粗利まで減らすことです。使う前に、必要な客数の倍率を計算してください。
- 雨の日の集客は何をすればいいですか?
- 当日の朝に送れる案内を用意し、空いた枠だけを常連に知らせるのが動きやすい方法です。雨の日に落ちる曜日を売上の記録から確かめてから、対象の枠を決めましょう。
- 平日だけ価格を変えてもいいですか?
- 平日と土日で価格を分けるのは、店の判断でできます。ただし「通常価格」と並べて安く見せるなら、実際にその価格で最近相当期間販売していた実績が必要です。
- 小さな店が最初に試すなら、どの打ち手ですか?
- 予約枠の案内が最初の候補になりやすいです。定価のままで費用が小さく、案内文を作るだけで始められるからです。お客様の記録があるなら、常連への案内も手間が小さい打ち手です。
- 貸切はどんな店に向いていますか?
- 店全体を押さえても、通常営業の粗利と追加の費用を上回る金額で受けられる店に向いています。谷の曜日や定休日に受けられるかどうかも、判断の材料になります。
まとめ:閑散期の店舗集客は、谷の特定と粗利の比較から
閑散期を埋める方法は、値引きのほかにも、予約枠の案内、目的別の企画、常連への案内、貸切があります。どれが合うかは、谷の種類と、残る粗利で決まります。
谷の集計と試算は、自分でできる作業です。一方で「どの谷から手をつけるか」「集客と人手と商品のどれを先に整えるか」という優先順位は、日々の営業をしながら一人で決めるのが難しいところでもあります。閑散期の悩みが事業全体の課題につながっていると感じたら、事業戦略顧問で一緒に整理するのも1つの方法です。
