文責:藤田 泰仁
一人で始める小さな飲食店の開業で注意したいのは、料理の腕より先に「仕込み・接客・集客・事務の時間を1週間単位で割り振り、一人で回せる量にメニュー・席数・営業時間を合わせること」です。集客と事務の時間を営業時間外に先に確保し、開業後1か月の実際の時間の記録で配分を見直すと、忙しさで集客が止まる状態を防ぎやすくなります。
一人で始める小さな飲食店の開業注意点は「一人で回せる量」に時間を割り振ること
一人で始める小さな飲食店の開業でいちばんの注意点は、仕込み・接客・集客・事務の時間を開業前に1週間単位で割り振り、一人で回せる量にメニュー・席数・営業時間を合わせることです。日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表、全業種)では、開業時の従業者数が「1人」の企業は42.6%、1週間の労働時間が「50時間以上」の開業者は49.8%でした。さらに、現在苦労していることの1位は「顧客・販路の開拓」(48.8%)です。一人で始めると、時間が足りなくなりやすく、そのしわ寄せが集客に出やすいことがうかがえます。
開業前は、メニュー開発や内装に時間を注ぎます。ところが開業してみると、仕込みと営業で一日が埋まり、SNSの投稿や帳簿づけが後回しになる、ということが現場でよくあります。この記事では、一人で小さな飲食店を始める人に向けて、仕込み・接客・集客・事務の時間をどう配分するかを、順番に整理します。
一人で飲食店を開業すると、どんなリスクが起きやすい?
起きやすいリスクは「仕込みの時間不足」「営業中の手の回らなさ」「集客の停止」「事務の滞り」「休めないこと」の5つです。どれも、一人で全部の役割を担うことから生まれます。
| リスク | 何が起きるか | 最初の対策 |
|---|---|---|
| 仕込みの時間不足 | 営業前に仕込みが終わらず、開店が遅れたり、品切れが続いたりする | メニュー数を絞り、作り置きできる料理と注文後に作る料理を分ける |
| 営業中の手の回らなさ | 調理・配膳・会計が重なり、提供が遅れる。衛生管理も雑になりやすい | 同時に受けられる組数を決め、予約や入店の時間をずらす |
| 集客の停止 | 忙しい日が続くとSNSや地図アプリの更新が止まり、新しいお客様が来なくなる | 集客の作業を営業時間外の決まった枠に、先に予定として入れる |
| 事務の滞り | 帳簿・発注・衛生の記録がたまり、月末にまとめて片づけることになる | 毎日の閉店後と週1回の事務の時間を決め、記録の様式を最初にそろえる |
| 休めないこと | 定休日も仕入れや仕込みに使い、疲れがたまって品質が落ちる | 定休日のうち半日は仕事を入れないと決め、営業日数で売上計画を立てる |
5つのリスクは、どれか1つだけ対策しても解決しません。仕込みを減らせば接客と集客に時間が回り、集客の枠を先に取れば営業時間の決め方が変わります。だからこそ、次に紹介する順番で、1週間の時間をまとめて設計するのが近道です。
「一人経営」と「ワンオペ」はどう違う?
一人経営は「経営者が一人である」こと、ワンオペは「営業中の店を一人で回している状態」のことです。一人経営でも、忙しい時間帯だけアルバイトを入れればワンオペではなくなります。逆に、従業員がいても、その時間に一人しか店にいなければワンオペです。
前述の公庫の調査では、開業時の平均従業者数は2.8人、調査時点(開業から平均15.5か月)は3.9人で、開業後に平均1.1人増えていました。一人で始めても、ずっと一人で回すとは限りません。ただ、人を雇うと人件費がかかり、教える時間も必要です。まずは一人で回せる形を作り、どの作業なら人に任せられるかを見極めておくと、雇うかどうかの判断がしやすくなります。
一人飲食店の時間配分は、どんな順番で決める?5つの段階
時間配分は、次の5つの段階で決めると、抜けが出にくくなります。
- 1. 1週間に使える時間と、仕事の種類を書き出す
- 2. 仕込みの時間をメニューから逆算する
- 3. 接客の量を席数・予約・営業時間で決める
- 4. 集客と事務の時間を、営業時間外に先に確保する
- 5. 開業後1か月の実際の時間を記録して見直す
段階1:一人飲食店の1週間の時間はどう書き出す?
この段階のゴールは、1週間のうち「何に、何時間使えるか」を表にして、仕事を4つの種類に分けることです。
- 1週間で働ける時間の上限と、休む時間を先に決める
- 仕事を「仕込み」「接客(営業)」「集客」「事務」に分ける
- 仕入れや移動など、見落としやすい時間も書き出す
最初に決めたいのは、働く時間の上限と休む時間です。公庫の調査では、ワークライフバランスに「満足」している開業者は54.7%でした。言い換えると、半数近くは満足とはいえない状態です。上限を決めずに始めると、仕込みも営業も「できるだけ長く」になり、ほかの仕事の時間がなくなります。
次に、仕事を4つに分けて、それぞれに何が含まれるかを書き出します。下の表のように整理すると、どこに時間が足りないかが見えやすくなります。
| 仕事の種類 | 主な中身 | 時間を決めるときのポイント |
|---|---|---|
| 仕込み | 仕入れ、下ごしらえ、作り置き、片づけと洗浄 | メニュー数と1日の想定客数から逆算する |
| 接客(営業) | 調理、配膳、会計、予約の受付、店内の清掃 | 営業時間と、同時に受けられる組数で決まる |
| 集客 | SNSの投稿、地図アプリの情報更新、口コミへの返信、告知 | 営業時間外に、曜日と時間を固定して入れる |
| 事務 | 売上と経費の記録、発注、衛生管理の記録の確認、支払い | 毎日の閉店後と、週1回のまとまった時間に分ける |
段階2:一人で回せる仕込みの量は、どう決める?
この段階のゴールは、メニューごとの仕込み時間を出し、営業前の時間に収まるメニュー数と量に絞ることです。
- メニューを「作り置きするもの」と「注文後に作るもの」に分ける
- メニューごとに、1回の仕込みにかかる時間と量を書き出す
- 合計が営業前の時間に収まらなければ、メニュー数を減らす
一人の店では、メニューが多いほど仕込みと食材の管理に時間がかかります。開業時は「看板になる料理」と「作り置きで出せる料理」を中心にし、品数は回せることを確かめてから増やすほうが安全です。食材を共通にできるメニューを組むと、仕入れと下ごしらえの時間もまとめられます。
仕込みの時間には、衛生管理の作業と記録も含める
HACCP(ハサップ)の考え方を取り入れた衛生管理とは、食中毒などの原因になる工程を見極め、決めた方法で管理して記録する衛生管理のやり方です。厚生労働省のHACCPのページによると、2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理に取り組むことになりました。一人の店も対象です。
厚生労働省が掲載している日本食品衛生協会の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」(2024年1月改訂)では、メニューを「冷たいまま提供」「加熱して熱いまま提供」「加熱後に冷まして提供、または再加熱して提供」の3つのグループに分けて管理します。作り置きの料理は、危険温度帯(10〜60℃)に長く置かないよう、すばやく冷ますことが大切だとされています。冷蔵庫の温度確認や器具の洗浄・消毒も含め、1日の最後に結果を記録する流れです。これらは毎日かかる時間なので、仕込みの時間に最初から含めておきましょう。
同じ手引書では、普段から処理できる量を超えての作業は食中毒の発生にもつながるため、無理な受注は控えるよう呼びかけています。一人の店で「仕込みの量に上限を決める」ことは、時間の問題であると同時に、衛生面の注意点でもあります。
段階3:一人で接客するとき、席数と予約はどう決める?
この段階のゴールは、調理と接客を一人で同時にこなせる「組数の上限」を決め、席数・予約・営業時間をそれに合わせることです。
- 一度に料理を出せる組数の上限を決める
- 予約や入店の時間をずらし、注文が重ならないようにする
- 注文と会計の手間を減らす方法を選ぶ
一人の店では、席数そのものより「一度に何組の料理を出せるか」が売上の上限になります。席を多く作っても、調理が追いつかなければ待ち時間が延び、満足度が下がります。上限の組数を決めたら、予約の時間を組ごとにずらす、コースや少ない品数で注文をまとめる、といった方法で注文が重ならないようにします。
完全予約制にすると、来店の人数と時間が前もって分かるため、仕込みの量と接客の段取りを決めやすくなります。一方で、予約が入るまでの導線を自分で作る必要があります。予約が入る流れの作り方は、完全予約制の飲食店の集客|グルメサイトに頼らず予約が入る導線の作り方で詳しく解説しています。
段階4:一人飲食店の集客と事務の時間は、いつ確保する?
この段階のゴールは、集客と事務を「空いた時間にやること」ではなく、営業時間外の決まった枠に予定として入れることです。
- 集客の作業を曜日と時間で固定する
- 営業時間や休業の変更を、地図アプリとSNSに同じ日に反映する
- 事務を「毎日の閉店後」と「週1回」に分けて決める
集客は「営業時間外の固定枠」で続ける
一人の店で集客が止まるのは、忙しい日ほど集客が後回しになるからです。公庫の調査でも、開業時に苦労したことの2位、現在苦労していることの1位が「顧客・販路の開拓」でした。たとえば「仕込みが終わった後の短い時間はSNSの投稿」「定休日の午前は口コミへの返信と翌週の告知」のように、短くても決まった枠を作ると続けやすくなります。
一人の店は、体調や仕入れの都合で臨時休業や営業時間の変更が起こりがちです。そのたびに地図アプリの情報が古いままだと、来店したお客様をがっかりさせてしまいます。Googleビジネスプロフィールの特別営業時間を設定する方法によると、祝日や例外的な日の営業時間は、通常の営業時間を変えずに設定できます。7日以上の連続休業や期間未定の休業は、臨時休業として設定します。変更が決まったら、SNSと同じ日に反映すると決めておきましょう。
事務は「毎日の閉店後」と「週1回」に分ける
事務は、毎日やることと週にまとめてやることを分けると負担が軽くなります。毎日の閉店後は、売上の記録と衛生管理の記録、翌日の発注だけにします。経費の整理や支払い、1週間の数字の確認は週1回の時間にまとめます。前述の衛生管理の手引書でも、日々の記録とは別に、週に1度程度の確認と、1か月ごとの振り返りが示されています。どの作業に時間を取られているかを見つけて減らす方法は、「時間がない」を減らす業務改善の進め方|手間の大きい作業から順にで紹介しています。
段階5:開業後1か月で、時間配分をどう見直す?
この段階のゴールは、開業後1か月の「実際にかかった時間」と「売上」を記録し、計画とのずれを見て配分を直すことです。
- 仕込み・接客・集客・事務に実際にかかった時間を毎日メモする
- 1か月後に計画と比べ、ずれが大きい仕事を見つける
- メニュー・営業時間・集客の枠のどれを直すかを1つ決める
開業前の計画どおりに時間が使えることは、まずありません。大切なのは、ずれを記録で確かめることです。仕込みが計画より長いならメニューを絞る、営業中に手が回らないなら予約の間隔を広げる、集客の枠が守れていないなら営業時間を短くする、というように、直すところを1つずつ決めます。
時間の見直しは、売上の見通しとセットで考えます。営業時間や席の回し方を変えると、1日に受けられる客数も変わるからです。席数・客単価・稼働率から売上を組み立てる方法は、飲食店開業の融資で通る売上計画とは|席数・客単価・集客の根拠の作り方で解説しています。
まとめ:一人で始める飲食店は「回せる量」から時間を設計する
一人で始める小さな飲食店では、仕込み・接客・集客・事務のすべてを自分で担います。まず1週間の時間の上限を決め、仕込みはメニューから、接客は同時に受けられる組数から逆算しましょう。集客と事務は営業時間外の固定枠に先に入れ、開業後1か月の記録で配分を見直します。
とはいえ、メニューを絞るか、営業時間を短くするか、集客に時間を割くか、といった判断は、どれも売上と直結するため、一人では決めきれないことがあります。当社の事業戦略顧問では、事業戦略・集客・業務改善をまとめて見ながら、何から手をつけるかの優先順位を経営者と一緒に整理し、開業後の実行まで伴走しています。「今の時間の使い方で店が回るか、外の目で確かめたい」と感じた方は、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 一人で飲食店を開業するとき、メニューは何品くらいがよいですか?
- 決まった品数はなく、営業前の時間で仕込みが終わる品数が上限です。メニューごとに仕込みの時間と量を書き出し、合計が営業前の時間に収まるかで決めましょう。開業時は品数を絞り、回せることを確かめてから増やすほうが安全です。
- 一人の飲食店でも、HACCPに沿った衛生管理は必要ですか?
- 必要です。厚生労働省によると、2021年6月1日から原則としてすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理に取り組むことになりました。小規模な一般飲食店向けの手引書が公開されているので、それに沿って計画を立て、毎日記録しましょう。
- 一人の飲食店で、集客の時間はどう確保すればよいですか?
- 空いた時間にやるのではなく、営業時間外の決まった枠に予定として入れるのがおすすめです。「仕込みが終わった後」「定休日の午前」のように短くても固定すると、忙しい日でも止まりにくくなります。
- 一人で始めた飲食店で、人を雇うのはいつがよいですか?
- 時間の記録で「この作業なら人に任せられる」と分かり、その分の人件費を売上でまかなえる見通しが立ったときです。公庫の2025年度調査では、開業後に平均従業者数が2.8人から3.9人に増えており、開業後に人を増やす事業者は少なくありません。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査~アンケート結果の概要~」(2025年12月5日)/厚生労働省「HACCP(ハサップ)」/厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」掲載ページ(小規模な一般飲食店事業者向け 概要版(2024年1月改訂))/Googleビジネスプロフィール ヘルプ「特別営業時間を設定する方法」(いずれも2026年11月5日確認)
