文責:藤田 泰仁
Web制作会社の新規事業は、受託で身につけた技術・顧客・業界知識のどれかを使い、案件の波に左右されない売上を別につくることから始めます。型を1つに絞り、小さく試して数字で続けるか判断する順番を守れば、制作の仕事を止めずに2本目の柱を育てられます。
Web制作会社の新規事業は「受託で身につけた強み」を、案件の波に左右されない売上に変えること
Web制作会社の新規事業とは、受託で身につけた技術・顧客・業界の知識を使い、案件の受注に左右されない売上を別につくることです。受託だけに頼ると、案件が途切れたとき売上がすぐ落ちます。帝国データバンクの集計では、Web制作会社を含む「広告・調査・情報サービス」の倒産は2025年に852件で、前年の819件から増えました([帝国データバンク「倒産集計 2025年報」2026年1月13日](https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/aggregation/20260113-bankruptcy2025/))。大きく始める必要はありません。強みから型を1つ選び、小さく試し、数字で続けるか決める。この順番が、制作を止めずに2本目の柱を育てる近道です。
この記事は、少人数のWeb制作会社やフリーランスの制作者に向けて、新規事業の「選び方」と「始める順番」をまとめます。納品後の保守や運用を月額にする方法は、受託の延長として別の記事で扱っています。続けて読むなら「作って終わりのWeb制作から継続収入へ|小さな制作会社の月額メニュー」がおすすめです。
Web制作会社の新規事業には、どんな型があるか?
代表的な型は5つで、違いは「使う強み」「売上の立ち方」「始めるまでの重さ」の3点です。自社にどの強みがあるかで、向いている型が変わります。
| 型 | 主に使う強み | 売上の立ち方 | 始めるまでの重さ | 注意したい点 |
|---|---|---|---|---|
| 集客・改善の支援(SEO・MEO・広告運用など) | サイトの仕組みと数字を読む技術 | 月額の契約で少しずつ積み上がる | 軽い。今のお客様から始められる | 順位や件数を約束しない。成果の測り方を先に決める |
| 特定の業種向けパッケージ | 同じ業種を何件も作った経験 | 定型の価格で、受注ごとに入る | 中くらい。型づくりに時間がかかる | その業種の決まりごと(表示のルールなど)を確かめる |
| 自社のWebサービス・ツール | 開発の技術 | 利用料が毎月入る。立ち上がりは遅い | 重い。開発と販売の両方が必要 | 使う人が集まるまでの資金と時間を見込む |
| 教育・研修(社内研修・講座など) | 制作や運用を人に教えられる知識 | 開催ごと、または受講料で入る | 軽い〜中くらい。教材づくりが中心 | 1回で終わらせず、次の相談につながる形にする |
| 自社メディア・情報発信 | 記事づくりとSEOの技術 | 広告や紹介の収入。時間がかかる | 軽く始められるが、続けるのが重い | 収益化までの期間を読みにくい。ほかの型と組み合わせる |
現場でよくあるのは、いちばん華やかに見える「自社サービスの開発」から考え始め、開発に時間を取られて受託の仕事も回らなくなる流れです。最初の1本は、今のお客様にすぐ声をかけられる「集客・改善の支援」や「業種向けパッケージ」のように、受託の経験をそのまま使える型から選ぶと、試すまでの距離が短くなります。
Web制作会社の「受託の延長」と「新規事業」は何が違うのか?
違いは、売上が「お客様から依頼が来たとき」に生まれるか、「自社で決めた商品を売ったとき」に生まれるかです。月額の保守や運用は、制作したお客様からの依頼を形にしたもので、受託の延長にあたります。一方の新規事業は、自社で中身と価格を先に決めた商品を、まだ取引のない相手にも売る仕事です。
- 受託の延長:お客様ごとに中身が変わる。売上は制作の顧客数に比例しやすい
- 新規事業:中身と価格を自社で決める。売上は商品の売れ方で決まる
- 共通点:どちらも「今の強み」を土台にすると始めやすい
この違いを分けて考えないと、「新規事業を始めたつもりが、結局は値引きした受託になっていた」ということが起きます。新規事業として始めるなら、誰に何をいくらで売るかを、依頼を待たずに自社で言葉にできるかどうかが分かれ目です。
Web制作会社の新規事業で、よくある失敗と最初の対策は?
よくある失敗は、受託の時間と新規事業の時間を分けないまま始めることです。始める前に、次の表で起きやすいことと対策を確かめておきましょう。
| よくある失敗 | 何が起きるか | 最初の対策 |
|---|---|---|
| 受託の空き時間で進める | 繁忙期に止まり、いつまでも形にならない | 週に何時間を新規事業に使うか、先に決めて予定に入れる |
| 作り込んでから売り始める | 時間と費用をかけたのに、買う人がいなかった | 完成前に、少数の相手に中身と価格を見せて反応を聞く |
| 対象を広げすぎる | 「何でもできます」になり、選ぶ理由が伝わらない | 業種や悩みを1つに絞り、相手が「自分のことだ」と思える言葉にする |
| 続けるかどうかの基準がない | 成果が出ないまま、ずるずる続ける | 期間と数字で「続ける・直す・やめる」の基準を先に決める |
| 今のお客様と競合する | 制作を依頼してくれている相手との関係が冷える | お客様の商売と重ならない範囲か、事前に確かめる |
Web制作会社の新規事業は、どんな順番で始めればよいか?
ゴールは、受託の仕事を続けながら、新しい売上を1件ずつ確かめられる状態にすることです。次の5段階で進めます。
- 受託で身につけた強みを棚卸しする
- 誰のどんな悩みに応えるかを1つに絞る
- 完成前に小さく試して売ってみる
- 時間の配分と、続けるかどうかの基準を決める
- 計画書にまとめ、資金と補助金を確かめる
ステップ1:受託で身につけた強みは、どう棚卸しする?
- 過去2〜3年の制作実績を、業種・規模・依頼の中身で一覧にする
- よく受ける追加の相談(集客、更新、操作の説明など)を書き出す
- 自社が人より速く・うまくできる作業に印をつける
この段階のゴールは、「技術」「顧客」「業界の知識」のどこに強みがあるかを見える形にすることです。一覧にすると、特定の業種の案件が多い、公開後の集客の相談が多いといった偏りが見えてきます。その偏りこそ、新規事業の種になります。前の比較表の5つの型のうち、どれに一番近いかを当てはめてみましょう。
ステップ2:新規事業の対象は、どう1つに絞る?
- 棚卸しで多かった相談と、自社が強い作業が重なる場所を選ぶ
- 相手の業種・規模・悩みを1文で言えるところまで絞る
- 似たサービスがすでにあるか、価格はどれくらいかを調べる
この段階のゴールは、「誰の、どんな悩みに応えるか」を1文で言えることです。2017年版の中小企業白書の内容を解説したRIETI(経済産業研究所)のセミナーでは、新事業展開に成功している企業ほどマーケティングの課題にしっかり取り組んでおり、特に市場のニーズを把握する力を持つ企業が成功していると紹介されています(RIETI BBLセミナー「2017年版中小企業白書及び小規模企業白書」2017年5月24日)。思いつきで決めず、相手の声と市場の様子を確かめてから絞ることが大切です。
市場の調べ方を具体的に知りたい方は、「小規模事業者向け・新事業の市場調査のやり方と実践ステップ」で手順を詳しく解説しています。
ステップ3:完成前に、どう小さく試して売る?
- 中身・回数・価格を1枚の紹介資料にまとめる
- 相談の多かったお客様など、数社に個別に見せて感想を聞く
- 最初の数件は期間を区切って提供し、改善点を集める
この段階のゴールは、「お金を払ってでも頼みたい」という反応を、作り込む前に確かめることです。自社サービスの開発でも、まずは手作業で同じ中身を提供してみる、申し込みページだけ先に作って反応を見る、といった試し方ができます。テスト販売とは、本格的に始める前に、小さな規模で実際に売って反応を確かめることです。感想だけでなく、実際に申し込みがあったかどうかを見ると、判断がぶれにくくなります。
ステップ4:受託との時間配分と、続ける基準はどう決める?
- 新規事業に使う時間を、週単位で決めて予定に入れる
- 3か月・6か月など、区切りの時期を決める
- 区切りで見る数字(申し込み数、継続率、粗利など)を決める
この段階のゴールは、「続ける・直す・やめる」を感情ではなく数字で決められる状態にすることです。粗利とは、売上から仕入れや外注費など直接かかった費用を引いた利益のことです。受託の売上を守りながら進めるには、新規事業に使う時間に上限を置くことも欠かせません。基準を先に決めておくと、うまくいかなかったときも傷が浅いうちに方向を変えられます。
ステップ5:計画書と資金は、どう準備する?
- ステップ1〜4の内容を、動機・商品・売り方・数字の順に計画書にまとめる
- 必要な資金と、自己資金・融資・補助金の組み合わせを考える
- 補助金を使うなら、公募要領で対象・要件・受付期間を確かめる
この段階のゴールは、新規事業の中身とお金の流れを、社内でも金融機関にも説明できる形にすることです。計画書の書き方は「新事業の創業計画書の書き方|小規模事業者が動機から資金計画まで整理」で、動機から資金計画まで順を追って解説しています。
Web制作会社の新規事業に、補助金は使えるか?
使える可能性はありますが、公募の回ごとに要件と受付期間が変わるため、必ず公式の公募要領で確かめる必要があります。補助金とは、国や自治体が政策の目的に合う取り組みの費用の一部を支援するお金で、審査を経て採択された事業が対象になります。
新規事業に関係する国の制度としては、2026年度に「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」が新設されました。中小機構のJ-Net21によると、この補助金には、既存事業と異なる新市場や高付加価値事業への進出を支援する「新事業進出枠」が設けられています(J-Net21「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」2026年7月7日)。補助金の公式サイトでは、第2回公募が2026年11月2日に始まり、申請受付は11月30日15時から12月25日15時までと案内されています(2026年11月4日確認)。補助額や補助率、対象になる経費は、公式サイトの公募要領で確認してください。
注意したいのは、補助金ありきで新規事業を決めないことです。補助金は、自社で決めた事業の計画を後押しするものです。ステップ1〜4で中身を固めてから、合う制度があるかを探す順番にすると、採択されなかったときも計画そのものは止まりません。
Web制作会社が自力で新規事業を進めるとき、つまずきやすいところは?
つまずきやすいのは、型の選択と優先順位づけ、そして受託と並行した実行です。ここまでの手順は経営者が自分で進められるものですが、実際には次のようなところで手が止まりがちです。
- 強みが複数あり、どの型から始めるか決めきれない
- 受託の納期が優先になり、新規事業の時間が取れない
- 価格や対象を自社の目線だけで決めてしまい、相手の反応とずれる
- 新規事業を、会社がこれから誰にどう貢献したいかという方向性とつなげられない
社外の力を借りるのも一つの方法です。前出のRIETIのセミナーでは、新事業展開で外部の経営資源を活用している企業の4割以上が「とくに問題は生じなかった」と答えており、活用していない企業はさまざまな課題を感じる割合が高いと紹介されています(RIETI BBLセミナー 2017年5月24日)。自社だけで抱え込まず、整理の段階から外の視点を入れると、判断が早くなります。
まとめ:Web制作会社の新規事業は何から始める?
最初の一歩は、受託で身につけた強みの棚卸しです。そこから型を1つ選び、対象を1文で言えるまで絞り、作り込む前に小さく試して売る。時間の配分と続ける基準を先に決め、計画書と資金の準備に進めば、受託を止めずに新しい収益の柱を育てられます。
とはいえ、どの型から始めるか、受託とのバランスをどう取るか、会社の方向性とどうつなげるかといった優先順位づけは、日々の制作に追われながら一人で決めるのが難しい部分です。当社の事業戦略顧問では、商品設計や集客、業務改善まで含めて事業全体を整理し、経営者と一緒に実行まで進めています。新規事業の考えを一度誰かと整理してみたいと感じたら、気軽にご相談ください。
よくある質問
- Web制作会社の新規事業は、何から考えればよいですか?
- 受託で身につけた強みの棚卸しから考えます。過去の制作実績を業種・規模・依頼の中身で一覧にし、よく受ける追加の相談を書き出すと、集客支援や業種向けパッケージなど、向いている型が見えてきます。
- 保守や運用の月額メニューは、新規事業に入りますか?
- 多くの場合は受託の延長にあたります。制作したお客様からの依頼を月額にしたもので、売上は制作の顧客数に比例しやすいためです。自社で中身と価格を決め、取引のない相手にも売る商品が新規事業と考えると分けやすくなります。
- 自社サービス(Webツール)の開発から始めてもよいですか?
- 始めてもかまいませんが、開発と販売の両方に時間と資金がかかる型です。作り込む前に、手作業で同じ中身を提供したり、申し込みページだけ先に用意したりして、実際に申し込みがあるかを確かめてから進めると失敗を小さくできます。
- 新規事業に補助金は使えますか?
- 使える可能性はあります。2026年度には「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」が新設され、新市場への進出を支援する「新事業進出枠」があります。ただし要件や受付期間は公募の回ごとに変わる場合があるため、公式サイトの公募要領で必ず確認してください。
出典:帝国データバンク「倒産集計 2025年報(1月~12月)」2026年1月13日/RIETI BBLセミナー「2017年版中小企業白書及び小規模企業白書」2017年5月24日/J-Net21「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」2026年7月7日/新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイト(いずれも2026年11月4日確認)
