文責:藤田 泰仁
制作会社が収益の柱を増やす選択肢は、納品後の「継続契約」、今のお客様への「周辺サービス」、自社で中身と価格を決める「自社商品」の3つです。今の売上の入り方を数字で分けてから、いちばん弱い部分を補う1つを選び、3か月ほど小さく試して続けるか決めるのが現実的な進め方です。
制作会社の収益の柱を増やす選択肢は「継続契約」「周辺サービス」「自社商品」の3つ
制作会社の収益の柱を増やすとは、依頼ごとに売上が立つ受託制作とは別に、入り方の違う売上を持つことです。選択肢は大きく3つあります。納品後の仕事を月額にする「継続契約」、今のお客様の別の悩みに応える「周辺サービス」、自社で中身と価格を決めて売る「自社商品」です。受託だけだと、案件が途切れた月に売上がすぐ落ちます。帝国データバンクの集計では、2025年の倒産1万261件のうち82.8%が販売不振などによる「不況型倒産」で、Web制作を含む「広告・調査・情報サービス」の倒産も852件と前年の819件から増えました([帝国データバンク「倒産集計 2025年報」2026年1月13日](https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/aggregation/20260113-bankruptcy2025/))。どれを選ぶかは、今の売上の入り方で決まります。
この記事は、Web・デザイン・映像などの制作を請け負う少人数の制作会社やフリーランスに向けて、3つの選択肢の違いと「自社にはどれが合うか」の選び方をまとめます。受託とは、お客様の依頼を受けて制作し、その対価を受け取る仕事の形です。それぞれの選択肢の細かな作り方は、関連する記事にリンクしています。
受託・継続契約・周辺サービス・自社商品は、何が違うのか?
違いは「売上の入り方」「使う強み」「始めるまでの重さ」の3点です。受託と並べて比べると、それぞれが受託のどの弱さを補うのかが見えてきます。
| 収益の形 | 売上の入り方 | 主に使う強み | 始めるまでの重さ | 補える受託の弱さ |
|---|---|---|---|---|
| 受託制作(今の柱) | 依頼があった月に、案件ごとに入る | 制作の技術 | ― | ― |
| 選択肢1:継続契約(保守・運用・改善の月額) | 毎月決まった額が積み上がる | 納品したサイトや制作物を一番よく知っていること | 軽い。納品済みのお客様から始められる | 月ごとの売上の波 |
| 選択肢2:周辺サービス(集客支援・撮影・研修など) | 今のお客様から、制作とは別の依頼として入る | お客様との信頼関係と、業種の知識 | 中くらい。新しい技術の習得が要ることもある | 1社あたりの売上の小ささ |
| 選択肢3:自社商品(業種向けパッケージ・ツール・講座など) | 自社で決めた商品が売れたときに入る | 同じ種類の制作を何度もこなした経験 | 重い。商品づくりと売り方の両方が要る | お客様からの依頼を待つしかないこと |
ストック型とは、継続契約のように毎月の売上が積み上がる形、フロー型とは受託のように案件ごとに売上が立つ形のことです。3つの選択肢のうち、ストック型に近いのは継続契約で、周辺サービスと自社商品は契約の組み方しだいでどちらにもなります。
収益の柱を増やすとき、制作会社がつまずきやすいのはどこか?
つまずきやすいのは、受託の時間と新しい柱の時間を分けないまま始めることです。現場でよくある失敗と、最初の対策を表にまとめます。
| よくある失敗 | 何が起きるか | 最初の対策 |
|---|---|---|
| 3つを同時に始める | どれも中途半端になり、受託の納期にも響く | 最初の3か月は1つに絞る |
| 受託の空き時間だけで進める | 繁忙期に止まり、いつまでも形にならない | 週に使う時間を先に決めて予定に入れる |
| 月額を「何でも対応」で始める | 作業が増えても料金が同じで、採算が崩れる | 月の作業時間や回数の上限を書面で決める |
| 自社商品を作り込んでから売る | 時間をかけたのに買う人がいなかった | 完成前に数社へ中身と価格を見せて反応を聞く |
| お客様の商売と重なるサービスを始める | 依頼をくれる相手との関係が冷える | 始める前に、競合しない範囲かを確かめる |
自社に合う収益の柱は、どんな順番で選べばよいか?
ゴールは、3つのうち「今いちばん効く1つ」を数字の根拠つきで選ぶことです。次の4段階で進めます。
- 今の売上を「入り方」で分けて数字にする
- 数字から、受託のいちばん弱い部分を見つける
- 弱い部分を補う選択肢を1つ選ぶ
- 3か月だけ小さく試し、続けるかを数字で決める
段階1:制作会社の今の売上は、どう分けて数字にする?
- 過去12か月の売上を、単発の制作と毎月入る売上に分ける
- 売上の大きいお客様の上位3社が、全体の何割かを出す
- 案件ごとにかかった時間を書き出し、1時間あたりの粗利を出す
この段階のゴールは、受託への頼り方を感覚ではなく数字で見ることです。粗利とは、売上から外注費など直接かかった費用を引いた利益のことです。上位3社に売上が集まっていれば、1社の取引が止まるだけで経営が大きく揺れます。毎月入る売上がほとんどなければ、案件の切れ目がそのまま売上の谷になります。数字の並べ方は「小規模事業者の月次レポートはA4一枚でいい|作り方と打ち手の決め方」の形を使うと、毎月同じ見方で追いかけられます。
あわせて、今の受託の取引条件も確かめておきましょう。2026年1月1日に、下請法を改正した「中小受託取引適正化法(取適法)」が施行されました。公正取引委員会の「委託事業者の義務」によると、対象となる取引では、発注する側は発注内容を書面か電子データで示し、代金の支払期日を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で定める必要があります。対象になるかは双方の資本金や従業員数などで決まるため、公正取引委員会の情報で確かめてください。支払いが遅い取引が多いと、新しい柱に回すお金と時間も細ります。
段階2:数字から、受託のどこが弱いと分かる?
- 毎月入る売上が少ない → 月ごとの波が弱点
- お客様の数は多いが1社あたりの売上が小さい → 単価が弱点
- 上位数社に売上が集まっている、または紹介頼みで新規が来ない → 依頼を待つ形が弱点
この段階のゴールは、弱点を1つの言葉で言えるようにすることです。弱点が複数見つかることもありますが、最初は「これが直れば一番楽になる」ものを1つ選びます。現場では、売上の合計だけを見て「もっと案件を増やそう」と考え、弱点がどこかを見ないまま忙しさだけが増える、という流れがよくあります。
段階3:弱点ごとに、3つの選択肢のどれを選ぶ?
- 月ごとの波が弱点なら、選択肢1の継続契約
- 単価が弱点なら、選択肢2の周辺サービス
- 依頼を待つ形が弱点なら、選択肢3の自社商品
この段階のゴールは、選んだ理由を数字で説明できることです。迷ったときは、始めるまでの距離が短い順、つまり継続契約、周辺サービス、自社商品の順に検討すると、受託を止めずに試せます。それぞれの選び方の中身は、次の3つの節で説明します。
段階4:選んだ柱は、3か月でどう試して判断する?
- 中身・回数・価格を1枚の資料にまとめる
- 相談の多いお客様など、数社に個別に提案する
- 3か月後に見る数字(契約数・解約数・1時間あたりの粗利)を先に決める
この段階のゴールは、「続ける・直す・やめる」を感情でなく数字で決められる状態にすることです。3か月という区切りは、受託の繁忙期をまたいでも反応を確かめやすい長さの一例で、自社の繁忙期に合わせて調整してかまいません。感想だけでなく、実際に契約やお金が動いたかを見ると、判断がぶれにくくなります。
選択肢1:継続契約(保守・運用・改善の月額)が向いている制作会社は?
向いているのは、納品済みのお客様から、更新や修正の小さな依頼をよく受けている会社です。すでに発生している仕事を、範囲と回数を決めた月額に置き換えるだけなので、3つの中でいちばん始めやすい選択肢です。
- 向いている状態:納品後の問い合わせを、無料や都度の少額で受けている
- 最初に決めること:月の作業時間の上限、対応する範囲、報告の形
- 気をつけたい点:成果の見えにくい保守は、毎月の報告がないと解約の候補になりやすい
検索対策を月額に入れる場合は、順位を約束しないことが前提です。Googleは「SEO 業者が必要かどうか」で、Google での1位表示は誰にも保証できないとしています。約束するのは作業の中身と回数にとどめましょう。メニューの分け方や契約の決めごとは、「作って終わりのWeb制作から継続収入へ|小さな制作会社の月額メニュー」で手順を詳しく解説しています。
選択肢2:周辺サービス(集客支援・撮影・研修など)が向いている制作会社は?
向いているのは、お客様から制作以外の相談、たとえば「作ったあとにお客様が増えない」「写真がない」「社内で更新できる人がいない」といった声をよく聞く会社です。制作の前後にある悩みに応えるので、新しいお客様を探さなくても1社あたりの売上を増やせます。
- 向いている状態:制作以外の相談を、無料のアドバイスで済ませている
- 最初に決めること:対象の業種と悩みを1つに絞ること、制作とは別の契約にすること
- 気をつけたい点:外注に頼る中身だと、粗利が残りにくい
周辺サービスの代表は集客支援です。MEOとは、Googleマップで店や会社を見つけてもらうための取り組みで、地域の店を多く手がける制作会社と相性のよい分野です。お客様の立場から見た考え方は「MEO対策とは?飲食店・整骨院・サロンが自分でできる最初の手順」にまとまっているので、サービスの中身を考えるときの参考になります。
選択肢3:自社商品(業種向けパッケージ・ツール・講座など)が向いている制作会社は?
向いているのは、同じ業種や同じ種類の制作を何度もこなし、決まった型ができている会社です。依頼を待たずに自社から売り出せる一方、商品づくりと売り方の両方が要るため、3つの中でいちばん時間がかかります。
- 向いている状態:特定の業種の案件が多く、毎回似た構成になっている
- 最初に決めること:誰に、何を、いくらで売るかを依頼を待たずに言葉にすること
- 気をつけたい点:作り込む前に、申し込みが実際にあるかを確かめること
自社商品は新規事業にあたるため、市場の確かめ方や撤退の基準、補助金の調べ方まで含めて計画する必要があります。型の選び方と始める順番は「Web制作会社の新規事業の始め方|受託制作だけに頼らない収益の柱」で、計画書のまとめ方は「新事業の創業計画書の書き方|小規模事業者が動機から資金計画まで整理」で解説しています。
受託の時間を減らさずに、新しい柱の時間をつくるには?
答えは、受託の中の繰り返し作業を先に減らすことです。見積もり、ヒアリング、素材集め、請求といった制作の前後の作業は、案件ごとに同じ手順を繰り返していることが多く、型にすれば時間を生み出せます。
- ヒアリングシートと見積もりのひな形を作る
- 素材の受け渡しと確認の流れを決め、やり取りの回数を減らす
- 請求や入金の確認を、毎月決まった日にまとめて行う
減らす作業の選び方は、「「時間がない」を減らす業務改善の進め方|手間の大きい作業から順に」で、手間の大きい作業から順に見直す方法を紹介しています。生まれた時間を新しい柱に回す、という順番にすると、受託の質を落とさずに進められます。
まとめ:制作会社の収益の柱は、どれから増やせばよいか?
最初の一歩は、今の売上を「単発か毎月か」「上位3社で何割か」「1時間あたりの粗利はいくらか」で分けることです。月ごとの波が弱点なら継続契約、単価が弱点なら周辺サービス、依頼を待つ形が弱点なら自社商品。1つに絞って3か月試し、数字で続けるかを決めれば、受託を止めずに2本目の柱を育てられます。
とはいえ、弱点が複数あるときにどれから手をつけるか、会社としてこれから誰にどう貢献していきたいのかとどうつなげるかといった優先順位づけは、日々の制作に追われながら一人で決めるのが難しい部分です。当社の事業戦略顧問では、商品設計や集客、業務改善まで含めて事業全体を整理し、経営者と一緒に実行まで進めています。収益の柱の増やし方を一度誰かと整理してみたいと感じたら、気軽にご相談ください。
よくある質問
- 制作会社の収益の柱は、いくつあればよいですか?
- 決まった数はなく、まずは受託に加えて1つを育てるのが現実的です。同時に複数を始めると時間が分散し、受託の納期にも響きやすくなります。1つ目が数字で続けられると分かってから、次を検討しましょう。
- フリーランスの制作者でも、3つの選択肢は使えますか?
- 使えます。特に継続契約と周辺サービスは、今のお客様から小さく始められるため、一人でも取り組みやすい選択肢です。自社商品は時間がかかるので、受託の時間をどれだけ減らせるかを先に確かめてから検討すると安全です。
- 保守の月額と新規事業は、何が違いますか?
- 保守の月額は受託の延長で、新規事業は自社で中身と価格を決めて売る商品です。保守は制作したお客様からの依頼を月額にしたもので、売上は制作の顧客数に比例しやすくなります。依頼を待たずに取引のない相手にも売れる商品が、新規事業と考えると分けやすくなります。
- 受託の支払いが遅い取引先がある場合はどうすればよいですか?
- まず、その取引が取適法の対象になるかを確かめましょう。公正取引委員会によると、対象となる取引では、支払期日を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で定める必要があり、遅れた場合は年14.6%の遅延利息の支払い義務があります。対象かどうかや対応に迷うときは、公正取引委員会や専門家に相談してください。
出典:帝国データバンク「倒産集計 2025年報(1月~12月)」2026年1月13日/公正取引委員会「委託事業者の義務」/Google 検索セントラル「SEO 業者が必要かどうか」(いずれも2026年11月4日確認)
